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3話『異能……ってマジ?』

 教室へ入ると、まさに歓迎とばかりにクラッカーで迎え入れられた。


「よく来たな、人類の超越者達の募るこの場所へ」

「よんでばべきだな~。まあ、ゆぐうじんどげ」

「君は僕にとって初めての新入生だ! 僕に新入生を迎え入れるという貴重で中々ない体験を、財産をくれた君を僕は、とてもかなり大いに歓迎するよ!」


 三人がそれぞれの感情を込め、しかしその中にしっかりと歓迎の意思を持って、迎え入れてくれたことに、俺はまだ彼らの人となりなど知らないにも拘らず涙ぐんでしまう。

  普通、新入生などというクラスに波紋を呼び起こす存在を快く思わない者など必ずいるはずである。それは人数が少ないこのようなクラスでも例外ではない。むしろこのような人数が少ないクラスほど新たな波紋を嫌う傾向がある。

  だというのに彼らときたら…………俺ってば涙腺脆すぎ……

 俺はウルウルし始めた目を軽くこすると、快く歓迎してくれた彼らに感謝を伝えるように、ニカッと屈託のない笑みを浮かべて返事を返す。


「うむ! 生徒達の言うとおり我輩も貴殿を歓迎――――」

「皆歓迎ありがとう! いきなり拉致られて何も分からない俺だけど、これからよろしくね!」

「無視?! もう無視かい?! ぐぬぬ、ここまで適応能力の高い人間は君が初めてだ…………そう、君が初めての人なのだよ、ポッ」


 俺の後ろから雑音が聞こえるが無視だ。なんかあの先生の扱い方が分かってきた気がする。

 いつの間にか教卓らしき場所で気持ち悪く体をクネクネしている先生を努めて視界に入れないようにしつつ、改めてこれから仲間になるであろう彼らを観察する。


 俺の銃弾を打ち込もうとしてきた態度のでかい不躾野郎は、輝くような銀髪をオールバックにしており、若社長と言った雰囲気を感じさせる。いや、社長と言うより(かしら)、だな。あの面構えは表の人間じゃねぇよ。真面目そうな眼鏡で誤魔化そうとしているがむしろ逆効果だから。


 続いて言ったことを何度も頭の中でリピートしているが、いっこうに何を言っているか理解出来ない彼は、とにかくゴツイ。身長は二mを超えているだろうし、腕や足なんかはレスラーかと思うほどに太く、ゴツイ。いや、レスラーよりゴリラだ。あの面構えといい、ゴリラが一番しっくりくる。ちょうど体毛も黒だし。あと坊主。ますますゴリラだな。


 最後に頭のおかしいキチガイ君は、肩につくくらい長い緑髪を持つ、一見普通のどこにでもいる少女に見えた。顔は中性的だし、身長も低く、更には髪も長いので女といわれても納得してしまいそうな出で立ちだ。所謂男の()ってやつか。最高にイカれてるね。


 彼らがこれから一緒のクラスで生活していく仲間かぁ。ちなみに脱出とか家に帰るという選択肢はもう諦めた。だって銃怖いやん。

 そんなわけで、俺は結構気楽に気構えている。どうせ帰らないなら楽しもう、ってね。 それに対して家に帰りたいとか思わないし、もしかしたらこの騒動は拉致ではなくて、お互いの了承のもとに行われたことかもしれないし。

 ま、今それを考えても仕方のないことだ。適当に楽しみながら今俺の身に何が起きているのかを確認していこう。


「よし! んじゃま、自己紹介すっべ!」


 俺が三人の特徴を一通り確認し、これからについて軽く纏めたところで、先生と言われるツンツン頭のヒョロ男がそれを見透かしたように声をかけた。

 それに対してまず最初に出てきたのはやはりというか、銀髪オールバックのヤクザだった。


「ではまずから自己紹介していこう。余の名は龍皇子りゅうおうじ皇帝カイザー。崇め、讃え、ひれ伏せ。余は神に最も近い者なるぞ」


 彼は四角い眼鏡の左右両方の付け根部分を両手の指先でクイッと上げながらそう言った。内容はすんげぇ傲慢で、尊大なんだけど、その両手で眼鏡クイッがダサすぎて力が抜ける。

 と、思った瞬間に俺の頬を銃弾が掠めた。


「次はないと思え」

「は、はい」


 あいつ、人の心でも読めるのかよ……気をつけないと。

 それにしてもいつの間に拳銃を…………

 俺が少しばかりの疑問を頭に浮かべていると、拳銃をぶっ放したというのに全く取り乱さない空間の中、ウザ男が俺の思考を遮るように手を叩いた。


「HAHAHA! 喧嘩するほど殺したいってね! さあ次は田舎者! Ready Go!」


 そして、あいついつの間に拳銃取り出したんだ、とか、当たるとか考えてないのか、などの疑問が、一瞬にして消し飛ばされる。

 あまりにキャラが濃いせいで注目がそっちへ流れていってしまったのだ。

 そして俺が忘れてしまった疑問に若干の心残りを感じている間に、坊主頭のゴリラはウザ男の言葉を聞いて席を立つと、あの謎言語で喋りだした。


「んばで俺がべ。おんじゃあ蠱毒こどく一人イツヒトだぼん。なんばどぐ、こどべゃあかんじんねべ! よろんげ!」


 …………なんとか名前と思われる部分と、最後のよろしくだけは聞き取れたぞ。あいつ言語だけじゃなくて訛りも酷いからな……

 相変わらずの謎言語に内心辟易、しかし外面は笑顔で頷いた俺は、よろしくと言って手を大きく振る彼に対して胸の辺りで小さく手を振り返した。

 あの人、坊主でゴリラで謎言語を話すけど、それ以外は割とまともかも。いや、ゴリラの時点でまともじゃないや。銃ぶっぱなしてくる奴や、ウザ男、頭イっちゃってる人と変な人が続いて感性が麻痺してたわ。


「Hooray! あの田舎者が人に手を振ることが出来るなんて思いもしなかったよ! 新入生君、なかなかやるじゃないか! さあ、次は生まれてくるのが間違いだった男だ!」


 ウザ男の言葉で緑髪の男の娘が立ち上がる。彼の綺麗というより可愛いと言える顔には、現在愉悦とも悦楽ともとれる蕩けた笑みを浮かべていた。

 それがなんとも妖艶で。

 これで本当は女だったらなぁ、とついつい思ってしまうほどには美しかった。


「どうも初めまして新入生君! ボクはこの素晴らしい世界に生きている存在である彼らの仲間あり、名前は壊零こぼれ彩禍さいかっていうんだ! さて、まずは君に感謝を伝えたい! 新入生君、ボクに新入生を迎えるという新たな経験をさせてくれてありがとう! 経験とは即ち人生。人生とはその人の財産! 君は君の人生の中の時間と言う、かけがえのないものを使ってボクに経験と言う財産を与えてくれたんだ! 本当にありがとう!」


 …………なんだコイツ。

 ちょっとばかり蕩けたような笑顔でそう言う彼に、思わずそう思ってしまった俺は常識人だろう。いや、今までの自己紹介もおかしかったが、彼はその中でも一際、おかしさにおいて輝いている。

 だが、そう思う中で、確かにその通りだと彼を肯定する俺がいた。人生とは経験の塊だ。経験によりその人の考えや人格、性格が決まっていき、やがてそれはその人のかけがえのない財産となる。まさに彼の言ったとおりだ。

 まあ、彼がおかしいことには変わりないのだが。ホントに感覚が麻痺してきてるよ……


 ともあれこれで全員の自己紹介は終わった。ならば次は――――


「さぁて! ここでこのカオスなクラスの偉大なる担任である吾輩の自己紹介を――」

「じゃあ後は俺だね。俺は総輪そうわただし。気軽に正って呼んでくれ。さっき言ったようにいきなり拉致られて来たから分からないことだらけだけど、よろしく!」

「キィサァマァ!」

「正です」

「そうじゃないんだよ! もう! 君は、この……もう!」


 憤懣やるせない、といった風に地団駄を踏んだ先生はまるっきり子供だ。デカイ子供がここにいる……

 しばらくすると、先生は落ち着きを取り戻し、再び自己紹介を始めた。


「もう、いいわよぉ…………さぁて、ようやく私の自己紹介するわよぉ、うっふん。わたしはぁ、このクラスのぉ、担任であるぅ――」

「ウザい。死ね」


 人差し指を唇に当て、セクシーポーズを取ってるつもりの先生に弾丸が飛んでいく。当然出所は皇帝カイザーだ。

 思わず心の中で、よし! とガッツポーズを決める。

 しかし俺の予想とは裏腹に先生の病的に白い肌には一切の傷はついていない。むしろ両手を挙げてヒラヒラ振りながら舌を出して挑発している。


ずわぁんぬぇん(残念)どぇしたぁ(でした)! わっちの防御を突き抜けるにはまだまだ修行が足らなかったようやけんね!」

「……そうか、もっと欲しいのか」


 ピキッ、と額に青筋を浮かべた皇帝カイザーは怒りを潜めた声音でそう言うと、スッと手をロングコートの内へ入れ、二挺の銃を取り出した。

 片方は全体的に小さく、安定性を増すためか肩へ押し付ける部分がある。もう一つは普通のアサルトライフルに見えた。やや口径が大き過ぎる気もするが。

 そして彼はそれらの銃口をウザ男へと定めた。


「――地獄へ堕ちろ」

「うひゃー!」


 そして響く連続した銃撃音。鼓膜が破れるんじゃないかと思う程の爆音に俺は耳を塞ぐ。まさかと思うがこれが日常なのか…………?

 まさかと思う反面、俺はこれが実際にいつものやり取りのように見えて仕方なかった。


 そんな最中、俺は他の人の反応が気になり、チラと田舎者イツヒト変態サイカを見てみると……


「ガバババ! なんべおもんけぇ漫画びゃあ!」

「ゴブッ、こ、これは大腿骨を砕かれる感覚! うふふふふっ、やはり何度感じても痛みというのは新鮮なんだね!」

「うわぁ……」


 一人イツヒトはこんな中漫画を見て爆音に負けないほどの大声で笑い、彩禍さいかは太腿に受けた銃痕をウットリと眺めながらなまめかしい声音でそう言っていた。

 やっぱこいつら変だなぁ……


 そんなことを思っていると、体に響いていた空気の振動がパタッと消えた。

 視線を皇帝カイザーへと戻せば彼はちょうど服の袖からマガジンらしきものを滑らせ、両方の銃へと装填している所だった。って、あれ何? あんなの漫画やアニメの中だけの技だろ?

 なお、ウザ男は両手を水平に広げ、上半身を動かさずに下半身のみで反復横とびをしていた。

 そしてやはりというか、彼の病的に白い肌には傷一つついていなかった。確実に当たっているはずなのに、だ。


「いい加減余に殺されろッ!」

「まあまあ、落ち着けベイベー。ワタクシもそろそろ真面目になるから」

「……チッ」


 皇帝カイザーはウザ男のその言葉で動きを止めた。忌々しそうに舌打ちはしていたが。

 そして、ウザ男は先ほどまでの調子が嘘のように大人しくなると、散々動いて乱れた服や髪をサッと整え真面目な顔で俺へと向き直った。


「さてさて、またワタクシの悪い癖が出てしまったようだね。ワタクシは隙あらば人をおちょくろうとしてしまい、このように中々話が進まないのだよ。っと、ワタクシがこうやって真面目でいられるのもワタクシの性格からして短い。だから手短に自己紹介を済ましてしまおう。ワタクシの名は『suzaku(スザク)』。文字にするときは全部小文字のローマ字だ。それでは……よろしくにゃん!」

「死ね」


 再び放たれる数多の弾丸。

 しかしそれは全てウザ男――suzakuに届く前に弾かれている……ように見えた。音速を目で追うとか人間じゃない。

 ともあれ、これで全員の自己紹介が終わった。先生だけsuzaku(スザク)なんて変な名前だが、まあ本名を言えない理由でもあるのだろう。


 未だに響く銃撃音の中、思い思いに過ごす彼らを見て俺はこれからの生活に心を躍らせていた。











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