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2話『うぜぇ、けど仕方ないんだろうな』

『気が付いたら近未来にいました』


 俺が目を覚ました時、まず最初に思ったことがこれだった。

 でもそれは仕方がないことなんだ。前日は確かに自分の部屋で寝たはずなのに、次の朝起きたら全方位がメタリックな部屋にいた。これは勘違いしても仕方がない。実際見事な近未来感で、どこかに隠しボタンとかないかな、と探してしまったくらいだったし。

 そしてなんやかんやでその部屋に置いてあった手紙に従って歩いていけばあの教室。

 そう、俺が殺されかけた教室。


「……う~ん、何度考えてもワケが分からない」


 俺は考える人のポーズを解きつつ、そう呟く。教室は防音性に優れているためか、準備をするといったにも拘らず何も音は聞こえてこない。

 銀髪の青年に部屋を追い出されてからというもの、暇だった俺は何故こんなことになったのかと理由を探していた。


 まあ結果は言葉の通り。何一つ分からない。本当に唐突だ。

 日常生活でも何か特別変なことなんてなかったし、家でも何もなかった。本当に日常だった。

 てかそもそもここはどこだ? 日本なのか、外国なのか、はたまた地球なのか。

 俺を連れてきた目的は? 何に使う? 人体実験? なら何故俺?

 …………何も分からん。情報が足りなさ過ぎる。まあ、こういうときは大人しく待つに限る、かな。

 そんなわけで待つこと数分。


「Hey Hey Hey! そこの黒髪男児の新入生ちゃ~ん! 教室に入らずどうしたんだ~い?」


 ノリのウザイ人が来た。登場の仕方も横から滑るように登場、しかも姿勢はラッパーのように背を反らして片目を閉じて、両手をこちらへと向けていた。

 しかし、彼はその言動とは裏腹に、ピシッとしたスーツを身に纏い、真面目そうな四角い縁の眼鏡をかけている。

 あんな真面目そうなナリをしているのに…………いや、まだ話してないし、もしかしたらあの人は俺の緊張を解すためにあんなことを言ったのかもしれない。そうだ、人を見た目や第一印象で決めてはいけないってどっかの偉い人が言ってた。

 俺は、俺の前で手を銃の形にし、ラッパーの如くこちらの返事を待つ彼に言葉を返した。


「はい、朝気がついたら近未来にいて、ここへ行けと指示された新入生ですね」

「こらこら~、そうやって言葉に棘生やしてると運気が逃げてくZO! この不運人間め!」


 俺の目は確かだった。ウゼェ。


 ラッパーから転じて、教育お姉さん(男だが)のように腰に片手を当てながら曲げ(男だが)、人差し指をこちらに向けてきた(男だが)彼は清清しいほどにウザイ。

 俺はこめかみがピクピクと痙攣するのを感じながら、しかし笑顔は絶やすことはなかった。

 彼が何者か分からないし、ここで真っ向から敵対するような言動を取るのは賢くないからだ。

 今度は、背筋をピンと伸ばし、片手を腰に、もう片方の人差し指を立てた手を顔の横に持っていき、更に片方の頬を膨らませた彼に、俺のなんとも言えない苛立ちが限界を突破しそうだが、笑みは絶やさない。

 お互いがその状態で静止すること数分。

 先に動いたのはウザ男だった。


「ふっ、ボクチンのキャラを目の前で見てキレなかったのは君が三人目だよ」


 ツンツン頭で掻き揚げる髪がないはずなのに男はそういう。いちいちウザいな、ホントに。

 そんな思いと共に、心の中では数多の『ウザい』が渦巻いているが、俺は決して表情に出すことはない。

 この人がこんなキャラでいる理由の『可能性』を考えれば許せるものだからだ。

 だから、俺は乾いた笑いではなく、苦笑を零す。


「あはは……結構いますね」


 俺のこの反応には、髪をかきあげた状態のまま固まっていた男も流石に驚いたのか、一瞬だが目を見開き、言葉に詰まった。


「っ本当だよぉ。それがしは人をおちょくることが生き甲斐というのに……君といい、変態といい、田舎者といい……何故キレてくれないんだ!」

「生き甲斐とまで言いますか……」

「そこは逆ギレ乙~って煽るとこだろう! 煽り舐めんな!」


 脚を肩幅に、仁王立ちする男はビシィッと俺を指差してキレる。コロコロと態度が変わって、忙しい人だな。疲れないのだろうか。

 そんな風に思い、この人も大変なんだな、と俺は生暖かい目で男を見つめる。

 またも予想していた反応とは違ったためか男は、うっ、と息を詰まらせた。


「うっ、なんだよぉ、お前なんなんだよぉ」

「新入生です」

「知ってるわボケェ! わっちを誰やと思っどんねや! 世紀末覇者も慄く――」

「担任の先生ですね」

「違うわ! 何だその先生、一子相伝の技でも授かってんのか!? こわっ! 先生こわっ!」


 わちゃわちゃと手足を動かし、ノリツッコミをしていた男は、最後には膝に手を当てて荒く息を吐き出していた。結構激しく動いていたしな。まあそうなるのも仕方のないことだろう。しかしそれで俺を睨むのはやめていただきたい。自業自得だぞ。

 そんなこんなでお互いの気持ちを瞳に乗せて交わすこと一分。


「準備が出来た。中に入れ」


 銀髪をオールバックにした、あの偉そうな態度の青年が扉を開けて俺にそう言った。ぜぇぜぇと荒い息を吐いている先生は完全に無視して、だ。まあ絡むとウザイし、それが賢い判断だろう。

 扉が開いたからか、教室の中からはいろいろな音が聞こえてくる。


 銃声、硬質音、悦びの声、謎言語……………………変わんねぇな。


 相変わらずのカオス空間。この空間に足を踏み入れるなど、常人には到底出来ない。仮に出来たとしてもすぐにカオスの波に呑まれ、彼らと同じ変人へと生まれ変わっていくだろう。恐ろしい。


 ならば俺はそれを恐れ、教室へ入るのを戸惑うか?

 答えは否。今この状況を説明できる人は現段階で四人しかいない。しかもその全てが変人である点から特に、全員からなるべく情報は頂きたい。


「よっしゃ、行くか」


 俺は自分を叱咤するかのように、短く小さく自分に言い聞かせると足を踏み出した。


「先生を、無視、とは、やる、な……」


 教室の扉を閉める直前、何か聞こえた気がしたが、まあ気のせいだろう。



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