18話『可能性は無限大!』
「……………………あぁ、完全にワタクシの異能が押し返されてしまったようだ」
「ふっ、よくやった総輪。あとはこいつをしとめるだけ」
少女の笑みをもらい、大丈夫だと感じた俺は皇帝達の方へと視線を向ける。
すると黒ローブのやつはどこか疲れたような声音でそう言い、その場に呆然と立ち尽くした。
そんな敵を俺は勝ち誇った顔で眺めながら声を発する。
「俺の勝ちのようだな!」
「……………………」
黒ローブは俺のドヤ顔を見ても何も反応しない。
つまらんな。
ともあれ、俺達は勝った。
「んん、ふわぁ…………あれ? まだ戦ってたの?」
「ぐがはぁ! ようどうごけんばなってんみ」
そして負傷していた彩禍と一人も復帰した。
最初はあの三人でも苦戦していたようだが、俺がこいつらを肯定することで、あいつの否定にも抵抗しうる力を得るだろう。
つまり、どういうことかというと…………詰みだ。
「………………はぁ」
それを悟ったか、黒ローブは深く、深くため息をついた。
既に黒ローブは俺達によって包囲されている。
もう逃げることも出来ず、拘束、もしくは殺されるのを待つのみ。
「もう少し削りたかったが…………仕方ない」
しかし黒ローブの言葉は到底負けを認めたような者のものではなかった。
俺達はまだ何かがあると睨み、警戒態勢を築く。
そして俺はあいつがここに縛り付けられる可能性を――
「――今回は手を引こう。手駒もとられ、手札も見られた。全く、失敗だ。失敗作と役立たずのせいでとんだ被害を被った」
「貴様、何を――」
突然の言葉。
この状況で何を言っているのか、全く持って理解できない。
だが、その瞬間はすぐに訪れた。
「帰る。じゃあな」
黒ローブの発したその言葉。
それを合図とするかのように突如地面が割れた。
足下がおぼつかなくなるほどの振動。
当然俺は転げ、無様に地面に這い蹲った。
そしてその時俺は見た。
その地割れに向かって落ちていく黒ローブの姿を。
やがて、振動は収まった。
しかしそこに残っているのは五人。
「…………チッ、逃げられたか」
皇帝は憤怒に顔を歪め、沸き上がる怒りを抑えようとせず露わにする。
確かにここまでひっかき回しておいて最後はバイバイなんてすっごくムカつく。
だけどなんやかんやこっちも怪我とかいろいろ危ない状態ではあったんだ。
ならここらで引いてくれたのもいいこと、ではないだろうか。
現に今俺は十分な達成感というか安心感というものを感じている。
俺はそんなことを思いながらチラッと視線を暴れている者へと向ける。
「あぁぁぁあああああ! クソがッ! 余をここまで馬鹿にして怪我一つせずに帰るとはッ! 許せん! 許せんぞぉぉおおお!」
だからそんなに怒らなくても…………
「ッ!?」
その瞬間、俺の頬を掠める銃弾。
いつも思うけどなんで頬なんだよ。一番ビビらせれるからか? 勘弁しろよ…………
「顔に、出ていたぞ。余は虚仮にされるのを一番嫌う。それは貴様も知っていることだろう」
そう言って皇帝は一度落ち着いた。
「ガバババ! どりゃあげんじもそこんげってみゃあ!」
「ふふふっ、ボクも今日は再生のしすぎでちょっと危ないね。もう二、三回死んでたら本当に死ぬところだったよぉ」
皇帝が落ち着いたためか、今まで疲れて黙っていた彩禍と一人が会話に参加する。
多分怒っている皇帝に口を出したら殺されるってのも思ってたのかもね。今の二人はかなり消耗してるっぽいし。
「…………ねぇ」
そして、敵が捨てた、『元』敵の少女が話しかけてきた。
彼女はその意志の宿った瞳に多大な不安を滲ませながら俺を見つめる。
今彼女は何を思ってそんな目をしているのだろうか。
それは考えても仕方のないもので、彼女の口から聞けるのを待つしかない。
少女は幾ばくか、口を開いては閉じと迷っている風な動きをしていたが、やがて意を決したように俺を真っ直ぐ見つめ、声を発した。
「………………名前は、何?」
「……ん?」
俺は一瞬呆ける。
流石に俺も名前を聞かれる可能性は考えていなかった。
いくつもの質問を想定し、それぞれに対してなんとなく回答を用意していたがために、こういう予想外の質問に対しては返答が遅くなってしまう。
そして俺は二三呼吸置いてから言葉を発する。
「俺の名は総輪正。物事を肯定的にしか捉えられない、少し変な高校生だ!」
「……ん、覚えたっ」
そう言って俺達は笑い合った。
俺はやはり可能性なんて無限なのだと再認識して。
少女はおそらく俺の自己紹介に対して。
と、その時俺はあることに気づき、質問した。
「ところでお前の名前は? すっかり忘れてたわ」
だがこれは失敗だった。
俺がそう言った瞬間、悲しげに下を向く少女。
どうすればいいんだ、と俺が慌て始めたとき、
「……めて」
「はい?」
「正が、決めて。私の名前はない、から」
少女はそう言って上目遣いに俺を見る。
くっ、それは反則だろう。可愛すぎる。
俺は腕を組み、目を瞑って考える。
少女は狼の獣人だ。
しかも銀狼なんていうめっちゃカッコイイ動物の。
数分、じっくりと考えた俺は、目を開くと少女の目を見つめる。
銀異の瞳が期待によってキラリと光った。
「……よし、お前の名前はリコリスだ!」
「リコリス……リコリス……」
俺の言った名前を何度も反芻する少女、改めリコリス。
やがてリコリスは新たにつけられたリコリスという名に満足そうに頷くと俺を見て言った。
「私はリコリス。これからよろしくお願いします、ご主人さま!」
「…………え?」
――この世とは可能性の集まりだ。
様々な可能性の積み重ねの上に今がある。
ありえないといわれていたことの実現。
ありえたことがなかった奇蹟。
それら全ての可能性が今を形作っている。
だから、ありえないなんてことはありえない。
今から起こる未来の出来事なんて誰にも分かりやしないのだから。
お疲れ様でした!
更新されて分かったと思いますが、これにて一時完結とさせていただきます!
といいますのも、ぶっちゃけ飽きてきたから、ですね。申し訳ない。
私はいつも5万字を越えるとだんだんと書くのに飽きてくるのですよ。
だけど完結だけはしておきたい。
そんな感じで最後は疾走気味となりました。
また気が向けば続きを書きます!
一応最後とか伏線とかいろいろあるんだけどなぁ…………くっ、俺の飽き性が怨めしい……
最後にここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました!
では!