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17話『肯定』

「ダメ!」


 黒ローブから俺へと投じられたナイフは隣で待機していた少女に弾かれる。

 だが、当然これだけで終わるわけではあるまい。

 俺は早く次の一手をうつため、思考を巡らせ……


「させると思うか?」


 黒ローブのそんな呟きが聞こえた。

 そして一瞬遅れて感じる、世界が変わった感覚。

 そう、俺がこれから起こるであろう可能性を『肯定』し、それが反映されたときに感じる、あの感覚。

 俺のこの感覚が確かならば、きっと次の瞬間には……


「ッ! くそッ!」


 そして、俺の予想通り変化は起こった。

 パラパラと振ってくる砂利。

 上を見上げれば、俺の立っている位置めがけて岩が落ちてきていた。


 おおかた予想は出来る。

 『俺がこの先もこの場所で変わらず立っていられる』という可能性を否定したのだろう。

 もしかしたら違うかもしれないが、今大事なのはそれじゃない。


 俺はなかなか速く動いてくれない足を必死に動かし、落石の範囲から脱出を試みる。

 が、それは杞憂だったようで。


「んッ」


 少女はそんな小さな呟きを残し、飛んだ勢いのまま俺を抱えて凄まじいスピードで落石を回避した。

 そうだな、俺が動くより少女が俺を運んだ方が何倍も良い。

 今更ながらそれを思いついた俺は、もはや水の中ではないのかというほどの風圧の中声を張り上げた。


「このままッ! 避けて!」

「んッ! 了解ッ!」


 返事をした少女は俺の思いを汲み取ってか、一瞬スピードを緩める。

 しかし、次の瞬間に少女はさっき以上の速さで走り始めた。

 圧倒的なスピードによって目眩めくるめく景色の中、俺はどうしてそうなったと思いつつも、時間が出来たことにひとまず安堵する。

 一応保険として、何故かナイフは俺達に当たらない、という可能性を肯定しておく。


 さて、時間の出来た俺がまず考えること。

 それはズバリ味方の回復だ。

 まず皇帝カイザーは足を負傷中。痛みに慣れていないのか強がっているものの大分痛がっている様子。でかいのは態度だけだ。よって今は使い物にならない。

 次に彩禍さいかは端の方で遊んでいる。さっきまで黒ローブの邪魔をしていたというのに……何かをされたのだろうが、全く分からん。よって今は全く使い物にならない。

 最後に一人イツヒトはまだうなだれている。さっきからぶつぶつ言ってて気持ち悪い。こいつも何かやられた感じだな。彩禍と同じく今は使い物にならない。


 考えてみたらどいつもこいつも使い物にならなかった……

 しかし、俺の異能があればこいつらも戦線に復帰することは出来るだろう。

 俺の異能は未来を操る。

 今は使い物にならなくても、すぐに使えるようにしてあげよう。


 そして俺は念じる。

 これから先の未来を。

 起こり得るであろう可能性を。

 自分の都合の良い未来を幻視して。

 あり得ないことなんてあり得ないと言って!


「くッ!」


 不意に流れていた景色が輪郭を持ち始める。

 何故かと思い見渡せば、少女の苦しげな吐息と共に気づかされた。

 少女の太股に深々と刺さったナイフ。

 土や泥で薄汚れた服がどんどん赤黒く染まっていく。


「ようやく当たったか。ずっとワタクシのナイフが当たらないという可能性を否定していたのだがな」


 やがて、少女は体を支えることが出来なくなり、その場に崩れ落ちる。

 放り出されるかたちになった俺は危なげながらも着地をきめた。


 俺は辺りを見渡す。

 何もない道路の上。

 相手の手には投げナイフ。

 当然俺の手には何もない。


 ………………なんか不利になったっぽい。


 俺はとにかく時間を稼ごうと相手に言葉を投げかけた。


「おい! 今の、どういうことだ!」

「…………どうもこうも言ったとおりだが? ワタクシは貴様達にナイフが当たらないという未来を否定した。なのに何回もナイフは外れ、先ほどようやく当たった。ただそれだけだ」


 何その否定。完全にただの屁理屈じゃねぇか。

 俺は自分のことを棚に上げて、そう言いたいのをグッと我慢する。

 今はそんなことをいっている場合じゃない。

 とにかく今は相手の手足を止めなければいけない。


 ならば、俺は提示しよう。

 俺の仲間達があいつを助けにきてくれる可能性を。

 皇帝は戦闘を見て高揚感を高ぶらせ。

 彩禍は俺のお願いを聞いて。

 一人は戦闘の余波によって目覚めて。


 そして感じる世界の改変。

 黒ローブの男が忌々しそうに顔を歪めるが結果が出ていないために否定は出来ない。

 さて、引き金となる声を張り上げた。


「彩禍! なんで攻撃をやめたか知らないけど、また黒ローブの男を殺ってくれ!」

「ん~? やめたのは理由がなくなったからだけど……ま、お願いだしね! もちろんいいよ~! 君からのお願いって多分初めてだろうしね!」


 返事の途中で彩禍は突撃を始めていた。

 真っ直ぐ黒ローブへと向かう彩禍。

 しかし黒ローブはそれに反応することはなく、顎に手を当て思案顔で俯いていた。


「……書き換え…………思い…………強さ……?」


 ぶつぶつとなにやら呟いているが、それは断片的なものであり、内容までは分からない。

 とにかく、黒ローブがこのまま俯いているならそれはそれで都合がいい。


 そして、黒ローブがなにやら言っている間に彩禍は黒ローブへと飛びかかった。

 体重が重いわけでもない彩禍が何故飛びかかりという選択を行ったのか不思議であるが、高い再生力を持つ彩禍ならば多少の致命傷くらいは許容できるという事なのだろう。


「煩わしい」


 しかし、黒ローブはそんな言葉と共に飛びかかってきた彩禍へとナイフを投げる。

 一本、二本、三本。

 それらは、それぞれ胸、腰、首へと直撃した。

 だがそれでも彩禍の勢いは止まらない。

 そのまま彩禍は黒ローブへと抱きつくように覆い被さり――


「ふむ、その再生力は異能ではない、か」


 ――背中からナイフが生えた。

 しかし、


「むっ」

「つーかーまーえーたぁぁあああ!」


 体に計四本ものナイフが刺さっているにもかかわらず彩禍は実に楽しそうに笑っていた。

 彩禍は両手を広げ、黒ローブの頭を自らの胸に抱きすくめる。


「ぐっ」

「ねぇねぇ、ボクってばマゾじゃないんだよ~。ボクだって痛いものは痛いし、悔しいことは悔しい。ただそれらの感情なんかよりも『経験する』ということにボクは幸福感を感じるんだ。特にそれが初めてのことなら尚更ね」


 その細い体のどこにそんな力があるのか。

 そう思うほどに常に無表情でクールだった黒ローブは、彩禍の締め付けに呻き声をあげていた。


「つまり何がいいたいかって言うとね、ボクだって一人の人間なんだって事! 痛めつけられて、ましてや殺されかけて殺意が沸かないわけがないよ! ナイフで刺されるなんて何回も経験してきたしね!」

「は、なせッ! キチガイがッ!」


 彩禍の拘束をほどこうと暴れていた黒ローブは、ナイフで彩禍の鎖骨辺りを切ることでなんとか抜け出した。

 荒い呼吸を繰り返し彩禍を睨みつける黒ローブ。


 その時だ。


「たぎる。血肉踊る戦闘の音色に余の五感が全てを支配せんと全てを把握する。あぁ、余はいったい何を迷っていた。迷う必要なんてなかった。ただ余は戦うッ! 貴様と、命をかけて、死合いを行うのみ!」


 轟く発砲音。

 全てを飲み込む気迫。

 逃げ場を作らない弾丸の嵐。


 皇帝が、参戦した。


 皇帝は負傷した足に、服の切れ端を巻き付けると言った申し訳程度の処置のみでそこに立っている。

 これほどの気迫は予想外だが、俺の信じた可能性の通りだ。こんなに戦闘狂っぽくなるとは思わなかったが。


 黒ローブは放たれる弾丸に苦々しそうな顔をしつつ、発砲の一瞬前にローブを翻す。

 そして次の瞬間には穴だらけとなったローブ。

 しかしローブを持っている人物には傷一つない。流れ弾に当たりまくった彩禍が血塗れになって倒れているだけだ。

 これも異能か。


 続く戦闘は彩禍が引っ込み、皇帝が出てくる形となった。

 皇帝の連続した発砲。

 それを異能の力で防ぎつつ、時たまナイフで応戦する黒ローブ。

 そんな中、不意に黒ローブが俺に向かって喋りかけてきた。


「分かったぞ。貴様、仲間が参戦してくる未来を『肯定』したな。ならばワタクシはその未来を『否定』してやる」


 そして黒ローブは皇帝の攻撃を捌きつつ、声を張り上げた。


「おいそこのゴリラ! 貴様の異能はワタクシには通じぬ。つまり参戦したとして役に立つはずがない。ワタクシが保証しよう。貴様が参戦することで戦況が動く可能性があることを否定して!」


 辺りを支配する音の振動に負けず張り上げた黒ローブの声はしかと一人イツヒトに届く。

 反応した一人は数秒震えていたかと思うと、不意に肩の力を抜いた。

 俺は一人がどんな結論を出したのかとやや不安げになる。

 しかし黒ローブが喋っているときも前も後も、世界が改変されたあの感覚はしていない。

 つまり一人に黒ローブの異能は働いていない可能性が高い。

 だが心配なものは心配。

 やがて俺がそんな面もちで見つめる中、一人はゆらりと立ち上がり、真っ直ぐ黒ローブを見つめると、負けじと声を張り上げた。


「ガハハッ! おんびゃあいってんとべしらんげんぞ! おいどーようやけんもんぜぇ! んだばれ、おいどーいけんどこなってやいやいぞ!」

一人イツヒト! ナイス!」


 俺の異能に傾いてくれたことに俺はグッと親指を立てるが、やはり一人には見えていないようで無視された。

 まあ、一人は異能が異能だし、むしろ俺に気づかれたら危ないので正解なのだが……寂しいな。


 一人はそうやって黒ローブの言葉を笑い飛ばすとコンクリートでできた道路に手のひらをつけた。

 いったい何をするのか。

 そんなことを思っている間に、


「ふんがっ!」


 一人はコンクリートを砕いて手のひらサイズの瓦礫を生み出した。

 確かに一人の異能とは違う身体能力は怪力だ。

 だけどこれは流石に…………

 と思っていると、


「おでゃぁぁああ!」

「ぬっ!」


 一人がその手に持った瓦礫を全力で黒ローブへと投げつけた。

 俺は瓦礫の軌道は見えていない。そのあまりの速さ故に。


「…………つながりの強さが関係している、か。ならばワタクシはワタクシの手駒を戻そうではないか。【三号】!」


 しばらく皇帝の弾丸と一人の瓦礫が行き交った後、黒ローブは何かに気づいたようにそんなことを叫びだした。

 三号――俺の隣で、太股に刺さったナイフを抜いた痛みで膝を突いている少女――はその言葉に反応するように、頭頂部にそそり立つ狼の耳をピクッと動かす。


「ワタクシは貴様がそやつにどんな説得を、ましやどんな異能をかけられたのかは知らん。だが、そんなものワタクシの異能には関係ない。ワタクシは貴様がこれからもずっとそちらの味方である可能性を否定しよう」

「は? 何言ってんの、お前。その可能性は確かにありはするが、それよりも自分を否定ばかりするお前になんかついて行かない可能性の方が高いわ」

「いいや、【三号】はワタクシに造られた人形だ。貴様とワタクシでは【三号】との繋がりは比べものにならないほどに違う。片や創造者、片や数時間程度喋った仲。結果は火を見るより明らか」

「確かに繋がりの深さなどを一緒に過ごした時間などで決めることもあるだろう。それは一つの事実だし、否定なんてしない。だけどな、人との繋がりなんてたったそれっぽっちの事柄じゃ決めつけられない。時間、感情、距離、会話、表情、行動、そしてまだ他にもある無数の事柄から人との繋がりなんてものは生まれるんだ」

「…………やはり貴様と話していても無駄だな。さっきそう言って戦い始めたばかりなのに……全く自分の頭に落ち込んでしまう」


 そう言って黒ローブは渾身の力でナイフを一人イツヒトへと投じた。

 しかし一人は避けきれず右腕に突き刺さってしまう。

 利き腕をつぶされた一人はもう援護射撃は出来ないだろう。

 皇帝にもナイフは投じられていたが、それは皇帝の銃弾によって撃ち落とされる。


 これで戦闘力として残っているのは皇帝カイザーと俺のみ。

 いや、俺は武器もないただの一般人だ。戦力としては数えれないだろう。

 彩禍がもう少しで回復するかもしれないが、それはまだだ。

 となると実質戦えるのは皇帝ただ一人。


 どうするべきか…………と思っていたその時。


「ッ! ぐぅ、がッ、んぐッ!」

「どうした!?」


 突然頭を押さえて苦しそうにうずくまる少女。

 俺は視線を黒ローブから離しそうになるのを寸でのところで我慢して少女へと声をかける。

 が、返ってくるのは呻き声のみ。

 いったい何が…………

 そう思っている俺に、黒ローブは微かに笑いを込めた声音で喋りだした。


「ようやく利き始めたか。全く、どれだけ強い肯定をされたらそうなるのか………」

「……どういうことだ」


 黒ローブの呟きの中にあった『肯定』という言葉。

 それはあまりに俺と関係が深すぎて、俺は思わず聞いてしまった。

 黒ローブは俺のそんな反応を待ってたぞ、とばかりに撃たれる銃弾を弾きながら喋り出す。


「映画や小説を読んだことはないのか? 特にロボットやホムンクルスといった人の創った人間を題材としているもの。そういったものは得てして裏切ったりするもの。ワタクシはそれを見越して洗脳と共にその脳の奥底にある制約を設けた」

「…………」


 ある制約。

 この話の流れからある程度は予想できる。

 しかし俺は黙って続きを聞く。

 間違えでもしていたら目も当てられないから。


「…………ふん、何も反応しない、か。まあいい、だいたい予想も出来ているだろうしな。ワタクシの創ったホムンクルスに課した制約。それはワタクシに逆らったものは存在そのものを否定され、この世から消え去るというものだ」

「…………は?」


 俺は一瞬呆けてしまう。

 何故なら、内容がなんというか、すごく、幼稚に思えたから。

 俺に逆らったらお前いないやつだからな~、的な?

 ただのいじめじゃん。


 とは思いつつも、俺はあいつだからこそ出来る制約だとちゃんと認識していた。

 あいつの異能は『否定』だ。

 ありとあらゆるものを否定し、未来を変える。

 ならば存在を否定してそいつをこの世から消すことだって不可能ではないのかもしれない。


 と、考えた瞬間、俺を通り過ぎた、世界が変わった感覚。


「あがっ、あ、あ、あ、あ、あ、あぁああぁぁあぁあぁぁあぁああ!」


 そして苦しげに叫び出す少女。

 やばい、これはマジでやばい。

 俺の直感がそう叫ぶ。

 だが俺に出来ることは少ない。

 どうすれば少女を救えるか。

 というより救わないと俺が殺されるかもしれないんだ。

 そう、結局は俺のため、人のためになんて俺は動けない。


「くそっ! 集中しろ!」


 俺はまた逸れ始めた思考を、頬をひっぱたくことで元に戻す。

 そして俺は思い出した。

 黒ローブの言葉を。


 あいつは少女の存在を否定していると言った。

 そしてその力によって少女を消し去ると。

 ならば俺が少女を肯定してやったらどうなるのか。

 俺の異能であいつの異能を上書きしてやればどうなるのか。


 ……やる価値はある。

 と、その前に。


皇帝カイザー! 出来るだけ注意を引きつけておいてくれ!」

「ふっ、貴様が、余に、命令だと? 笑わせるな! その程度、言われなくても、やってやろうではないか!」


 そう言って皇帝は羽織っていたマントをバッと脱ぎ去った。

 そして空中にばらまかれるあらゆる部品。

 それらを空中でつなぎ合わせ、一瞬にして銃火器が出来上がる。

 相変わらず皇帝は理不尽なやつだ。

 だが今はその理不尽が頼もしい。


 俺はより一層激しくなった攻撃に意識を切り替える。

 これから俺は少女に集中する。

 今まで異能を使ってきた感覚だと、異能は集中するほどに効果が高まる。

 だから俺は今、少女だけを見つめ、考え、肯定しよう。


「なぁ、聞こえるか?」

「うぐっ、ぅうぅう……な、に?」


 微かに呻き声を押さえて俺の声に反応する少女。

 その声はか細く、痛々しい。


「お前は何だ?」

「ど……こと? わた、し、なに?」


 少女は俺の質問にすぐさま答えられない。

 それは即ち自己というものがしっかりしていない証拠。

 自分がどういう存在か、自分という存在をはっきり認識しているものであればすぐさまいえることなのに。

 だが、


「分からないか、それも仕方ない。そう言う風にされたのだから」

「……ぐっ」


 少女はそう言う風に創られたものだ。


「だけどお前が分からなくても周りは分かってくれる。お前はお前だと」

「がっ、ぁあああ、ぁぁぁぁあああああああ!」


 少女は突然叫び出す。

 これ以上のことを聞きたくないとでも言うように。


「お前はお前という一つの存在なんだ! ホムンクルスとかそんなくくりと一緒にするな! 自分という存在を認識しろ!」

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」


 壊れる。

 だが、ここを乗り越えなければあいつの異能に負ける。

 不思議と俺はそう感じていた。


「俺は認識してるぞ! お前はお前だと! たった数時間しか喋ったりしていないが、存在の認識なんてものは数秒もあれば、いや一目見るだけでいいんだ! そいつがそういうものとしてそこにいる! それだけでそいつはそこにいる証明になる!」

「あああぁぁぁぁぁぁ………………」

「お前は俺に認識されている。あとはお前が自分のことを認識するだけだ。分からないなら、まず自分の胸に手を当ててみろ」


 やや落ち着いた様子の少女にそう言えば、少女は大人しく言われたとおりに胸に手を当てる。


「分かるだろ? 心臓の鼓動が。例え創られたものでもそうやって感じることが出来る。自分の存在が何かと考えることが出来る。ならばそれはもうそこにお前が存在しているという事にならないか?」

「……………………」


 自分の胸に手を当てたままジッと固まる少女。

 髪が乱れ、焦燥しきったような面立ちだが、既にそこに死相はない。


 やがて、俺の感覚に何かを押し返したような、不思議な感覚が感じられた。

 おそらく黒ローブの異能を押し返した感覚なのだろう。

 少女の目に自我が生まれた。


「……………………」

「……うん、ちゃんと認識できたようだな」


 俺はそのしっかりとした意志というものが生まれた瞳に安堵し、少女へと笑いかけた。

 少女はそんな俺を見て、かろうじて笑みをいえるものを浮かべると、


「……ぁりがと」


 というのだった。


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