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異世界で始める人生改革 ~貴族編〜  作者: 桐地栄人
~第四章~ 対連合軍
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第137話 初手

怨嗟の声を上げながら走ってくるゾンビに対してこちらは盾と槍を構えさせ密集隊形で迎え撃つ。


射程範囲内に入ったゾンビ達に一斉に魔法が飛ぶ。


防御魔法は張られていないようで、魔法範囲内のゾンビがあらゆる魔法で粉々にされて宙を舞う。


しかし、それらを受けてなおゾンビ達は無機質に、ただ真っ直ぐに突撃してくる。

散った肉片や倒れたゾンビ達を踏みつけながらその脚はまるで緩めない。


そして、激突する。


弾ける肉片と双方の悲鳴が戦場に響く。

ゾンビに複雑な戦法はない。ただ突撃して手当たり次第生きた人間に攻撃すること。

一方、こちら側はポルネシア王国の精鋭。ゾンビの大群の突撃を見事に抑えている。


それをチラリと見るが、俺の意識はその後ろに向いている。


フレッグスの常勝戦術。ゾンビに突撃させた後にゾンビごと巻き込んだ攻撃をする。


時には魔法で、時には矢で、時には騎馬に突撃させる。

単純だが対策の難しい、数多の軍が壊滅させられてきたフレッグスの必勝戦術だ。


第二波で何がくるか気をつけなければならない。周りの参謀達も含め、たった一人を除き、帝国軍の第二陣を警戒しているときだった。


「レイン様!」


真横で聞こえてきた叫び声。次の瞬間、俺の数メートル横で火花が散り剣戟の音が響く。


そこには舞い散る本陣周りの兵だった残骸と吹き荒れる暴風の中、一人の男が立っていた。


おいおい。冗談だろ。いきなりお前が来んのかよ。


「ウィンガルド!」


そこに立っていたのは、3年前に見た時と変わらず溢れる暴風を見にまとった軽装の男。ガルレアン帝国が誇る六人の英雄級魔法使い。


風のウィンガルドだった。


ウィンガルドは鋭い眼光で俺を睨みつけると即座に2撃目を放とうとする。しかし、その剣戟もスクナが弾く。


「レイン様、お下がりください!」

「兵は何をしていたんだ!?」


何の前触れもなく真横に現れたウィンガルドに、本陣の参謀や将軍達も動揺しながらも指示を出す。


「何であれ敵将がまんまと現れたのだ! 皆の者、囲んで殺せ!」


その言葉に本陣守りの兵達が一斉に駆けつける。


俺は後ろに下がりながら自分の周囲に防御魔法とウィンガルドにデバフ魔法をかける。

しかし、俺の魔法が当たる瞬間、ウィンガルドから暴風が吹き荒れ、一瞬でその場から消えてしまった。


しかし、俺の目にははっきりと見えていた。

風魔法とステータス移動で限界まで早くしたAGIでポルネシア兵の間を縫って自軍に帰るウィンガルドを。


「レイン様申し訳ございません。やつを取り逃しました」


スクナが即座に俺に駆け寄り謝ってくる。


「いえ、ウィンガルドの目論みに気付けなかった私の落ち度です」


まさか初手で終わらせにくるとは流石に思わなかった。今はもう俺の神眼でしっかりウィンガルドを追っている。


AGIとSTR以外の全てのステータスを犠牲にした超速移動。俺ですら見失いかけるほどだ。他の兵士に見えなくても仕方がない。


「レイン様、本陣を今すぐ移動させましょう!」

「そうです! もう一度同じことがあるかも知れません。本陣を隠しましょう!」


そう進言して来る参謀達に俺は首を振る。


「いえ、本陣が無くなってしまえば兵の指揮に関わります。ここはこのままでいきます」

「しかし! 魔導将に何かあればこの軍、いえ国は……」

「不甲斐ない姿を見せてしまったことは謝罪いたします。汚名はきっちりと武功を持って返上させていただきましょう!」


不安がる参謀達を横目に俺は前に出る。


「帝国兵騎馬突撃してきます! 数およそ一万!」


斥候の報告を聞く。


「今度はこちらの番です!」


俺は両手を虚空に掲げ魔法を発動する。


レベル8光魔法「聖域方陣(サンクチュアリ)


ポルネシア前線が淡く光り輝き、戦っていたゾンビ達が一斉に動きを止め、元の骸へと戻っていく。


「こ、これは……」

「魔導将……」


絶句する周りの者達を無視し、俺は次の魔法の餌食となる者達を見る。

突撃して来る騎馬隊だ。


浄化されたゾンビ達を見て突撃を緩めているがもう遅い。


レベル4水・土複合魔導「泥沼(マッドフィールド)


ジュブリ、という音が聞こえそうなほど、踏み固められていた草原一帯が地面に沈んでいく。

沈みゆく泥沼から抜け出そうと馬がもがくが、どんどんと沈んでいく。


それを横目に俺はこちらを見上げる弓兵と魔法兵の隊長に合図を送る。


気勢を上げて一気に放たれる魔法と矢に泥沼の中の帝国兵が次々と斃れていく。


帝国側の魔法兵が帝国騎馬隊を助けようと土を固める火・水魔法をかけている。


しかし、泥沼は全く固まらない。


相反する魔法をかけた場合、MPが強い方が勝つ。帝国の精鋭が束になろうと俺のMPには絶対に勝てない。


いつまで経っても変わらない泥沼に帝国側は痺れを切らし、帝国騎馬を救おうと歩兵が縄を持って泥沼に入る。


それを見た俺は、魔法を解除すると同時に帝国魔法兵がかけている魔法と同じ魔法をかける。


レベル5火・土複合魔導「堅土(ドライグラウンド)


次の瞬間、先ほどまで泥沼だった場所が一転、ガチガチに固まった堅土に変わる。同時に俺はポルネシア王国の将軍リークに合図を出す。


「任せましたよ!」

「お任せあれ!! 全軍突撃だぁ!!!」


その号令と共にポルネシア王国全軍が突撃を開始する。


帝国側も慌てて兵を動かすが、こちらの方が圧倒的に速い。


泥沼に下半身を埋められ抜け出せない帝国軍はポルネシア王国騎馬隊の突撃をまともに受ける。


もがき苦しむ帝国兵に、ポルネシア王国軍の無慈悲な刃が突き刺さる。


その日、帝国は一万の騎馬兵を失った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 胸熱の展開ですね! ウィンガルドは3年前の借りを返す為に確かめに来たのかな? そして本人と確認した上で帰っていった。 兵同士の戦いはポルネシアの勝ちだが、まだまだ兵力差がある。 これか…
[一言] 一瞬で帝国は損耗率20%以上 あいては本陣がにぎやかしの突撃将軍がちょっとかき回しただけでほぼ無傷 頼みのアンデッドは一瞬で動かないただの死体に これで継戦しようと考えるのなら帝国は無能だ…
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