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異世界で始める人生改革 ~貴族編〜  作者: 桐地栄人
〜第三章〜 成長期

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第119話 巻物

「では、始めるぞ」


お父様が左手に持っていた偽物の巻物を懐に入れ、本物の巻物を手に、まずリンド君に近寄って行く。


「よろしくお願いします」


リンド君はゴブリンのような見た目とは裏腹に、きちんとした頭を下げていた。

てっきり甘やかされて育ったのかと思ったが、意外にもちゃんと育てられていたようだ。


俺の隣では、横にいる俺にも聞こえるほど、大きな音で喉を鳴らすコルディア公。


とりあえず緊張しているのは分かったから俺の肩を掴むのは止めろ。

鼻息鳴らしながら俺の肩を握り潰す勢いで掴んでいた。

まあレベル差があり過ぎて蚊程も痛くはないのだが。


はたから見れば明らかに危ない人だ。

コルディア公の為にも注意するか。


「あの、コルディア卿……肩、痛いです」

「え?あ、ああ、す、すまない!つい力んでしまった」

「お父様に任せておけば大丈夫ですから。落ち着いてください」

「そ、そうだな!うん、平常心平常心」


自分で平常心とか言ってるやつ大抵平常心になれていない説。

とりあえず俺の肩からは手を離したものの、何か手慰めものがないと落ち着かないのか、両手を擦り合わせている。


目の前ではお父様が、巻物を片手に準備を終え、呪文を唱えようとしている。

俺もそれに合わせて魔法の準備に入る。


「お、おお……」


横で青白く光り輝き始めたお父様の巻物を見てコルディア公の口から声が漏れる。

コルディア公、ちょっとうるさいよ。


「リンド、覚悟はいいな?」

「はい、よろしくお願いします」


お父様の最終確認に、リンド君は大きく頷く。


巻物(スクロール)解放(リリース)!オールヒール!」


お父様がそう唱えた瞬間、巻物が光り輝き、そのあまりの眩しさにその場にいる者達が目を塞ぐ。


事前にそのことを聞いていた俺は、昼も夜も関係なく一定の明るさを保てる神眼を発動し、リンド君に向かってオールヒールをかける。


お父様はというと、ちゃっかりと懐の巻物と手に持っている巻物を交換している。

そこは抜け目ないのね。


オールヒールを掛けられたリンド君の顔がみるみると変わっていく。

そして眩い光が晴れると、そこには先程までの醜いゴブリンのような顔の少年は消えていた。


その代わりに現れたのは、俺の想像をはるかに上回る美少女がそこにいた。


「ほお?」

「マジか……」


つい口から声が漏れてしまった。

いや、リンド君は男である。故に、美少年なのだ。

ネーム君もなかなかの美少女顔だったのだが、彼に至っては幼い顔の整った男の子、で納得できる。


しかし、リンド君に至っては、明らかに女の子の顔だ。

プリム程ではないにしろ、普通に可愛い。


「いったいどうしたら……」


そう呟きながらコルディア公の顔を見る。


(このくたびれたおっさんからこんなのが生まれてくるんだ……)


さすがに口には出さないものの、俺は世界の矛盾に頭を悩ませていた。


そのコルディア公といえば、口を手で塞ぎ、涙を流しながら、リンド君に近づいている。


「リンド……」

「お父様……僕の顔は、どうですか?」


リンド君が自分の顔を触りながらコルディア公に聞き、コルディア公は涙ながらに頷いている。


「治っておる!治っておるよ!私の大事なリンドよ!」


感動の対面。

長年にわたり病に蝕まれていた子どもと、長年にわたりその病の治療方法を探していた親。

その努力が報われたこの感動の瞬間である。


「リンドォォォォ!」

「お父様!」


そう言って抱き合う二人を横目に、お父様はせっせと同じスクロールを使い、弟のレンド君を治す。


同じように眩い光の後、レンド君の顔が整っていく。

兄ほどではないにしろ、ゴブリンのようだった先程からは想像がつかないほど美少年になっていた。

その様子を見てお父様は笑顔で頷き、


「ふむ、問題ないようだな。では、感動の再会に水を差すのもなんだ。私達はお暇させてもらおう」

「ま、まてロンド!せめて礼をさせてくれ」


レンド君も抱きしめていたコルディア公がお父様の言葉を聞いて振り返り、引き留めようとする。

しかし、お父様は首を横に振り、


「王都に仕事を残してきている。それにあと数日もすれば子ども達の顔見せのパーティーがあるだろう?礼はその時にでもしてくれ」

「……わかった!ありがとう、本当にありがとう!」


感謝を繰り返すコルディア公に背を向け、お父様は部屋を出て行き、俺もその後に続く。そして部屋を出て扉を閉めたお父様は小さく


「ふぅ、危なかった……」


と、呟いたのを俺の耳は聞き逃さなかった。

本当だよ。

俺が気を利かせて支援光魔法レベル3のフラッシュを使わなかったらバレてたところだ。


「しっかりしてくださいよ、お父様」


俺のそんな呟きはお父様に聞こえなかったようだ。

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