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姫と国のつながり

 リーク達馬車のお留守番組と合流し、急いで王宮に戻ってきたカーディーンとネヴィラは、まずナディスと連絡をとって、ナディスの部屋でペルガニエスの使用人を人払いして話し合いを始めた。

 それぞれが険しい顔で難しいことを言っていたので、一体何を言っているのと尋ねることもできず、私はいつも通りカーディーンの首袋に入って大人しく寝ていることにした。

 話が終わってそれぞれがせわしなく指示を出したりと動き始めたころ合いを見計らって、カーディーンがまとめてくれた私に必要な情報だけを教えてもらう。


「今後は一層守りを固めることになった。私の処罰は……事の運びに寄るだろうが、国に戻ってからとなる」

 どうしてカーディーンが処罰を受けるの?悪いのは矢を放ってきた人たちでしょ!


 私が憤慨するように地団太を踏めば、カーディーンの手が私の背を宥める様に撫でた。


「処罰と言っても傷を負った者もいないので、今の段階では罰と言えるほどの処遇はないだろう。だが、今の私の使命はネヴィラを身の危険から守ることだ。それなのに護衛の人数を減らしたことは私の過失であった。襲撃者はおそらく最低四人はいただろう。その襲撃者からあの数の護衛でネヴィラを傷なく守り抜くのは困難だった」


 たまたま敵が慎重を期して、すぐに撤退したから大丈夫だっただけだとカーディーンは私に説明する。


「あの攻撃で万一ネヴィラが月の元へ行く様なことになれば、この国と我が国の友好に亀裂が入ったことだろう。傷一つなかったから良かったものの、事はネヴィラ一人の死では収まらぬ。それほどの危険が迫っていたのだ」


 お姫様が築いた関係は、同じくお姫様扱いのネヴィラの生死で変わってしまうようだ。

 たった一人の生死で国同士が険悪になったり仲良くなったりするなんて、私にはちょっと想像がつかない世界だと思ってしまう。


「それに間者が私を狙ったのか、ネヴィラを狙ったのかで変わってくるからな。差し当たっては我らのすべきことは、今まで以上にネヴィラの警護に努めることだ」


 カーディーンがそう話を締めくくった。ようは今まで以上に気をつけて守ればいいと言うことらしい。わかりやすくて助かる。

 ちなみにナディスは間者について王族に話をしに行ったそうだ。また色々密約を結ぶのだとかなんとか。よくわからないので心の中でそっと頑張れと応援しておく。

 そして思い出したので、リークを介してあの茶色い鳥についても忘れずに伝えておいた。


 カーディーン、池の傍でみたあの鳥は砂色の守護鳥とかじゃないからね?

「そうか。カティアから見れば異なる種族なのかもしれぬが、人の目から見ればとてもよく似ている様に見えたな」


 それは私が人間の見分けが付きにくいのと同じじゃないだろうか。よく知っている人じゃない限り、顔を見ても誰だかわからなくなるのだ。

 申し訳ないけれど、よく一緒に行動しているカーディーンの部下の人達でも名前がわからなかったり誰だっけと思ってしまったりしてしまう人も多くいる。

 そんな感じじゃないの?と言えば、カーディーンが思案するように顎を撫でながら言った。


「カティアがそう言うならばそうなのだろうが……。あの鳥を見た時に、ふと森に帰った砂殿達がその後どうなったのかふと考えてしまうな」


 通訳しながら私達のやり取りに訳がわからなさそうに首をかしげているリークにも、何があったかを簡単に説明した。

 リークがふむと考えてから口を開く。


「花が咲く季節になると姿を見せると言っていたのでしたら、渡りの鳥ではないでしょうか?マスイール邸のお子様方がカティア様を似た姿の鳥と見間違えていたようでした」


 そう言われればマスイール邸の子供達も、私を見て庭に来る鳥だと勘違いして本人達としては遊ぼうとして追い回したとかそんな話だった記憶がある。

 そして渡しの一族であるスーハは最初に私を見たとき、渡り鳥を飼っているのかと聞いてきた。あれは私の姿と似た鳥の渡り鳥がいたからだろうと言う。

 アファルダートだと砂色の獣は特に多い。砂漠を渡る鳥ならアファルダートでも空の遥か高くを飛んでいるのをみたことがあるとカーディーンが言い、それかもしれないと皆でなるほどと納得して、その渡り鳥と間違われて捕らわれたりしないように今後、砂漠では一層気をつけなければならないという結論が出てそこでその話は終わった。



 夜には子供のお祝いをした王族――どうやらこの王族が現国王と同じポリオノンテ家の一族だったらしい――に近しい人達を集めた宴に御呼ばれしたグィンシム兄妹と私は、カーディーンを護衛に大きな屋敷へとやってきた。ネヴィラとナディスがそろって参加するあたり、お祝いの宴に次いで大事な宴なのだろう。

 昼にネヴィラとカーディーンが襲われたばかりだと言うのにまた出かけるのと聞けば、だからこそ対外的に仲がいいと言うことを周知せねばならないのだと言われた。

 ネヴィラは深緑に鮮やかな青とくすんだ金色の衣装、ナディスは深緑の刺繍と夕焼け色の額帯をあわせて、黒い刺繍が絡み合うように袖を縁取っている。綺麗に着飾ったナディスとネヴィラが連れだって歩くそばを、鳥司の正装姿のリークが私を座らせたクッションと一緒に歩き、将軍としての正装を身にまとってカーディーンが私の背後に付いている。私達の周囲にはほんの少しだけ常時より人数を増やした護衛がいる。

 そういえばネヴィラは夜だと言うのに比較的露出度が高い衣装を着ていたので私が寒くないのかと尋ねると、これはペルガニエスの風習にあわせた装いなのだと教えてくれた。昼間は暑いが夜は冷え込むアファルダートと違って、夜も涼しいほどでさほど冷えないペルガニエスでは昼より夜の服装の方が大胆で派手になるそうだ。自前の羽毛で温度の変化をあまり感じないので私はわからないが、人には過ごしやすい環境らしい。

 大きなお屋敷では沢山の招かれた客人と使用人がワイワイガヤガヤと食事や談笑を楽しんでいた。アファルダートの王族代理なネヴィラ達はやはりその中でも立場が高い様で、色んな人が挨拶や話をするためにひっきりなしに訪れている。私も国賓として一緒に挨拶を受けていた。

 国賓と言っても私はネヴィラ達のついでの様な形で「国鳥様もご機嫌麗しい様で」とか簡単な挨拶を一言されるだけだった。「守護鳥様は本日も美しいですね」と言われた時だけ機嫌よくくぴーと鳴いておく。

 しかしたったそれだけのことでも私は早々に飽きてしまい、ナディスの部屋から持ちだしたクッションの房を引っ張って遊びたくてうずうずとしてしまう。

 このクッション、かなりお気に入りなのだ。その不思議な沈み込む感覚がいたく気に入ってお気に入りになったのだが、ナディスの部屋に置いてあったことからもペルガニエスでもかなり高価なものだろう。


 この挨拶いつまで続くんだろう……


 私の視線が房に、そして尾羽が徐々に下を向いて行くのを見かねたリークがナディスに断って、私はさっさと挨拶地獄から脱出した。

 カーディーンが苦笑し、リークがこっそり溜息をついていたが、私はもう我慢しなくていいよねとばかりに遠慮なく房を引っ張って遊んだ。このクッション欲しいなぁ。アファルダートに持って帰っちゃだめかなぁ……。

 お腹が空いたとリークに食事をねだり、私専用に作ってもらった綺麗な器に入った美しく飾りつけられた花や果実をもしゃもしゃ食べる。

 うん、美味しい。けれどそろそろこの食事も辛くなってきた。

 せっかくの新鮮な花なのだから器に沢山乗せて出してくれるだけで十分なのにと呟けば「頼むからそれはペルガニエスの人がいるときには言わないでくれよ」とリークに小声でお願いされてしまった。

 それはなんとなくわかるが見た目の美しさが重視されていて花を葉っぱで巻いたり、果実を細かく刻んで蜜と一緒にソースにしたりとさすが美食と芸術の国だと感じる一品が出るのだが、これがひたすら食べにくい。

 容赦なく飾りつけをぐちゃぐちゃにして食べるけれど、とにかく食べにくいのだ。

 もし私がうっかりやらかしたらそっと通訳しないでねとお願いして、また花の包みを足で押さえながらぶちぶちと引きちぎって食べていると、私の方にやってくる気配がした。

 カーディーンが意識を向けるので私も口に花弁を含んで頬を膨らませたまま目を向ければ、歩いてくるのはエウアンテスだ。いつも通りの占い師の衣装を身にまとい、ゆっくりゆっくりと独特の歩調でこちらへやってくる。


 あ、エウアンテスだ!


「ご機嫌麗しゅう存じます、カティア様。ペルガニエスの花はお気に召していただけましたでしょうか?」

 うん!美味しいよ。でも摘みたての方が好きだからそのまま出してほしい!


 言った後ではっとなったが、リークが上手くぼかして通訳してくれた。ありがとうリーク。


「……左様でございましたか。料理人達にもそのように伝えておきましょう」


 エウアンテスが穏やかに微笑んでそう言ったので、私はよろしくねと言う意味を込めてくぴーと鳴いておいた。

 それから私はエウアンテスとお喋りを楽しんだ。

 基本的には私が今日は何を見た、あれの花を食べたなどと話すのをエウアンテスがちょっとした知識を教えてくれたりしながら相槌を打つといったもので、占いで使用するからか花についても詳しいエウアンテスの静かに流れるゆったりした水の様な語り口調はとても楽しかった。


 そういえば、エウアンテスは誰と一緒に来たの?


 たしかペルガニエスの宴は男女が一緒に来るのが作法だと聞いている。けれどエウアンテスのそばには一緒に来たらしき女性がいないので尋ねてみた。


「私は占い師として参りましたので連れ添う女性はおりません……。占い師は貴人のそばに侍ることも多いので、連れ添う必要がないのです」


 身分はそれなりに高いけれど半分従者の様なものだと説明された。

 だから男性だろうが女性だろうが貴人と一緒に来た場合は一人でいいらしい。逆に占い師を連れていれば貴人が一人でいても不作法ではないようだ。

 この間ネヴィラがエウアンテスと離宮を歩いたのが丁度それにあたると言われてなんとなく理解する。


 つまり占い師がいれば一人でいても大丈夫なんだね。

「……大まかな括りで言えば左様にございます。私は本日、大叔父上の占い師として参りましたので供の女性がいないのです」


 エウアンテスの大叔父上といえば、タンナーナを見たことがあって美しいものが大好きな離宮に詳しい人だったはずだ。

 一体どんな人だろう。


 その大叔父上ってどこにいるの?

「こちらの間へ入って早々に、それぞれ挨拶があるので分かれたのですが……あぁ、ちょうど今ネヴィラ様とナディス様にご挨拶させていただいておりますね」


 周囲をゆっくり探すように視線をさまよわせたエウアンテスがぱっと視線をとめた先に、私も視線を向けた。


 そこには並んで立つネヴィラとナディスのそばに、クレイウスの姿があった。



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