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あなたのための月の守護鳥  作者: 七草
ヒナ~成鳥期
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久々の兄弟と怪我

 私はそれから数日間、カーディーンの宮で過ごしていた。

 朝はカーディーンとご飯を食べ、仕事に出るカーディーンを見送ってから、カーディーンの宮でしばらく訓練した後、散策をしたり遊んだりしているとカーディーンが帰って来て、一緒に晩御飯を食べて眠るまでお話したりする日が続いていた。


 今日は久しぶりに、午後から守護鳥の巣の区画に戻って兄弟達と会った。


 ……なんでみんな数日会わないだけで大きくなってるの?


 たった数日で、かろうじて追いついていた月の八の姉にすら大きく引き離されていた。

 むしろ兄弟達に不思議そうに見られた。


 末っこはなんで小さいままなの、むしろ縮んだ?


 末の妹は大きくならないね。


 最後の妹はまだ小さいままなのか?


 末。大きくならないと守護する相手を守れないぞ。


 兄弟達が上からぴーちくぱーちくさえずるのに私はむきーっとなった。


 私だって大きくなりたいもん!兄や姉達ばっかりずるいっ!


 私が頬も体も精一杯膨らませて、両の翼を広げつつ大きく口を開けてクピー!と鳴いても、兄弟達にはどこ吹く風だった。むしろ精一杯自分を大きく見せて威嚇する私に、兄弟の一匹が地面に立ったまま、翼も開かずクケーッ!と鳴いただけで、びくぅっと硬直した私がいた。思わず一番近くにいた月の三の姉の後ろにずささっと隠れた。

 兄弟達が、そんな私に「自分が先に威嚇したくせに、お前がびっくりしてどうするんだ」とでも言いたげな、憐れむような視線を向けてきた。

 ……そんな目で見ないでほしい。

 うえぇ、怖い。なんで鳥司達は平気でにこにこしてるんだろう。

 威嚇し返されて不貞腐れて小さくなって尾羽をしゅんと下げた私を、兄弟達が代わる代わるにくちばしで頭を柔らかくはむ様にしてなだめる。

 むぅ、これくらいで機嫌良くしたりしないんだからね。

 けれど私の気持ちとは裏腹に、尾羽は心なしか上を向いていた。

 尾羽め、裏切り者だ!


 そして、その後始まったお互いのお泊まりの話で、私達は大いに盛り上がった。

 私が母の守護相手である王妃に会ったと言うと、兄弟達がへぇ、と珍しそうな声をあげた。


 そういえば私達の母は、ファディオラが一番豪奢な衣装を着てたから守護相手に選んだって言ってたけど、みんなは何で選んだの?


 私が尋ねると、兄弟達はきょとんとお互い顔を見合わせた後、みんな一斉に小首をかしげてうーんと考えた後、口々に言い始めた。


 優しそうで瞳の色が綺麗だったから。


 頭がよさそうで声が美しかったからだよ。


 緑がいっぱいの宮とキラキラの宝石を持ってるって言ったから、あと色っぽい美しさだったから。


 髪が綺麗だったからお泊まりしたけど歌がすごくうまかったのが気に入った。毎日歌ってくれるんだ。


 もちろん、そこにいた王族の中で一番美しかったから!


 最後の発言に対してだけは他の兄弟達から一斉に「それは知ってるからいい」という突っ込みが入った。月の一の兄は、ちょっとしょんぼりしてた。


 だが口々に言う兄弟達の決め手も、母や月の一の兄に負けず結構適当なものだった。

 あと、基本的に外見は必須要素なのだなと再認識した。たぶん王族がため息が出るほど美しい容姿の者が多いのも、守護鳥に選ばれやすいためなのだろう。

 カーディーンが選ばれにくいはずだ。


 その後、久々に兄弟達とみんなで遊んで、一緒にお昼を食べた。


 ……案の定、私はお昼にありつくことが出来なかった。


 カーディーンは私のご飯をとったりしないし、私もカーディーンのご飯をとったりしないのに、とちょっと思った。

 カーディーン今、何してるかなぁ。


 お互いの近況を話していると、それぞれ相手が恋しくなってきたのか、夕方になる前には誰からとはなく守護候補の元に戻ろうと言う結論に至り、私は兄弟達と体を擦り合わせるようにして挨拶をした後、モルシャとともにカーディーンの宮へと戻った。


 けれど、せっかく宮に帰ってもカーディーンは仕事でいなかった。

 他の兄弟達の相手なら、基本的には一日中ずっとひっついていられるらしいのだけれど、カーディーンは外にでて危険な仕事が多いから、私は一緒にいられない。


 カーディーン早く帰ってこないかなぁ……。


 さきほどまで兄弟達と賑やかに過ごしていたので、カーディーン不在のこの宮がとても広くてさみしく感じた。

 鳥司や従者たちは私と遊んでくれる存在ではないので、私は一人で過ごさなくてはならない。


 なんか楽しく遊べるものを探そうっと!


 そう思い至り、私はカーディーンの宮で自分が夢中になって遊べるものを探して飛びまわった。

 けれど、基本的にカーディーン曰く「王族としては簡素」な宮には、さほど私が遊べそうなものがない。

 絨毯の模様をたどって歩くのも、壺に出入りしたり、取っ手をくぐって遊ぶのも、そう何度もやって楽しいことではない。

 こうなったら何か、自分で遊べるものを作るのがいいかもしれない……。

 そう考えた私は宮の中をぐるりと見回し、丁度よさそうなものを発見して、嬉々としてそれに近づいた。




 …………夢中で遊んでいるとカーディーンが帰ってきたので、私はぱたぱたと飛んでゆき、カーディーンの手に止まって元気に出迎えた。


 おかえり、カーディーン!


「あぁ、今戻った。…………砂殿は我が宮を満喫していたようでなによりだ」


 カーディーンが私に目を合わせてそう言ってから、私が飛んできた方向を眺めて少し呆れたような、感心したような口調で呟いた。

 少し目を丸くしながら見つめる先には、私が先ほどまで遊んでいた一角がある。私はその視線に気づいてぎくりとした。

 部屋の壁際に飾ってある、流木で作られた躍動感あふれる見事な馬に似た生き物が、ふたつの枝分かれした複雑な角に縄を幾重にも渡されており、背にはクッションやずり落ちかけた布を乗せていた。足元にもさらにクッションが積まれている。

 先ほどまであそこで遊んでいたのだ。


 え……?もしかしてあれ、ものすごく大切なものだったりするの?


 さすがに齧っちゃまずいかと思って齧ったりはしていないけれど、爪でひっかいて傷でも出来ていたらどうしようとびくびくする私に、カーディーンは気にするなとでも言うように私の頭を撫でた。


「鳥司や私の従者もなにも言わなかったであろう?だから砂殿が気にすることなどない。砂殿は守護鳥であって人間ではない。だから鳥司や我々は、極力、砂殿を人の価値観で従わせることはせぬのが決まりだ。本当にやってはいけないこと、命に関わるような危険なことはしないでほしいと言うはずだ」


 なんだ、そっか。ならよかった。


 ほっとした私を、カーディーンがまた、そっと撫でてくれた。


 それから一緒に晩御飯を食べていたのだけれど、カーディーンの食べる速度がいつもより遅い気がする。


 どうしたの?おなか減ってないの?


「いや。食欲はあるのだが……」


 カーディーンが言い淀むなんて珍しい。私が言葉の続きを待つようにじっと見つめると、カーディーンは落ち着いた表情で言った。


「仕事中に怪我をしたのだ。利き腕なので、少し手を動かすのが辛いだけだ」


 え!?怪我してるの?腕痛い?平気??


 怪我をしたことのない私は、カーディーンの「怪我で痛い」という感覚がどんなことなのかよくわからない。

 私が大慌てで、カーディーンのお皿のまわりをちょろちょろおたおたとしながらカーディーンを見上げると、カーディーンは「大丈夫だ」といいながら利き腕じゃない方の手で、私の頭をうりうりと撫でた。


 食後、カーディーンが上半身を晒して、従者達に肩から腕にかけて巻いた布を交換してもらっていた。

 私はそれを、近くの長椅子の背に座るようにして見ていた。

 肩から二の腕くらいまでが、青い痣みたいになって少し腫れていた。


 カーディーン、どうして怪我しちゃったの?


「砂漠の見回りに出ていたのだが、途中、休憩のために皆で岩場の影に入ることにした。休憩が終わり、出発しようとしたところで、岩場の先が欠けて頭上から降ってきたのだ。大きな石は避けたのだが、その石の死角の石に肩をぶつけてな」


 石が落ちてきたの!?危ないっ!誰もぺしゃんこになってない?


「あぁ、私だけ部下達と少し距離があったから、幸い巻き込まれたのは私だけだった。部下達には支障ない」


 カーディーンが怪我してるのに全然「サイワイ」じゃないよ!サイワイっていいことって意味でしょ?全然よくないっ!


「砂殿、『幸い』は『都合良い、運がよい』という意味もあるのだ。この場合は、部下が怪我をしなくてよかったという意味だな。それに私は、このような怪我は幼少のころより日常茶飯事なのだ。従者達も私の怪我の手当てには慣れているしな。私は身体も丈夫だ。死ぬほどの怪我でなければ、少しすればすぐ治る」


 従者達はその辺の医師よりは怪我の手当ての心得がある、とカーディーンは言った。確かにカーディーンの従者は手当てに慣れているようだった。ものすごくてきぱきとみんなが動いている。


 けど、やっぱりサイワイじゃないよ!だって怪我したら痛いんでしょ?怪我、嫌なんでしょ?だったらやっぱり運がいいわけないっ!!


 私がぷんすかとカーディーンの間違いを教えてあげると、カーディーンの従者が私に少し、すがるような視線を向けた。

 私がその視線の意味を考えようとしていると、カーディーンがそれを遮るように私に言った。


「私の手当てなど見ていてもつまらぬであろう。砂殿は先に沐浴に向かわれるとよい。鳥司、砂殿を浴場へ御連れせよ」

「畏まりました。さぁ、砂様。参りましょうか」


 え?あ、うん。じゃあ先に行ってるねカーディーン。


「あぁ」


 カーディーンの言葉を受けて、モルシャが私をそっと手の平にのせたので、カーディーンに一声かけて私は砂風呂に向かった。


 その後、カーディーンも入浴を済ませ、お風呂上りに私が今日あった出来事をカーディーンにお話してからベッドに入った。

 怪我をしたので、明日は簡単な書類関係の仕事や副官との打ち合わせが終わったら、午後からはカーディーンのお仕事がないそうだ。

 久々にカーディーンと沢山過ごせると知って、私はちょっとだけわくわくしながら眠りについた。


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