雨の労わりと土の中の邂逅
翌日は雨が降った。
当然と言えば当然のことらしいのだが、ペルガニエスでは雨が降っても珊瑚樹林は生えてこないし、雨も頻繁にふるので珍しくないそうだ。
私の体はもさっとしている。
雨に当たると羽の調子が悪くなるし、自由に飛びまわることが出来ないので、あんまり降ってほしくないなぁ……。
今日は外に出る予定があった様なのだが、私が外に出たくないとぼやいていたら、気を遣ったネヴィラが予定を少し動かしてくれたようで、今はナディスの部屋でネヴィラやカーディーンと少しゆっくりしていた。
今は完全にアファルダートの人間しかいないため、ネヴィラの護衛をしているカーディーンも一緒にお茶を飲んでいる。ナディスの護衛をしている部下の人が全員まとめての護衛として立っていた。
私はナディスの部屋の調度品を確認するのに忙しなく飛び回っている。
ナディスの部屋は、ネヴィラの部屋より調度品が沢山あって探索のし甲斐があるのだ。ペルガニエスではあまり見ない赤や金の壺も沢山あった。どうやらアファルダートとの貿易で交換して欲しい品々を多く並べてあるらしい。こうした品々に断りや交渉の話をするのもナディスの仕事なので、別行動している私にはわからないが大変らしい。
ちなみに私としては、この小さな赤い器が気になっている。つるつるしていて赤いのに、丸みをもたせた部分が青い光沢を帯びているのだ。青色を塗っているわけでもないのに、どうして赤が青く光るのだろう。
つるつるしすぎて足をかけても滑って危ないのだが、見ている分には珍しくて面白いと思う。私が覗き込むと影になって青い部分が消えてしまい、別の場所を覗きに行くとまた影で青い光沢がなくなって、青い光沢を覗き込もうと私は躍起になって器の周りをひょこひょこと回り続けていた。
そんな私をカーディーンが目を細めて視界の端で確認し、リークがはらはらと追いかけまわし、ネヴィラがうっとりと眺め、ナディスが珍しそうに見ていた。
一通り見て回り満足した後は、ナディスとお茶を飲むネヴィラの膝に乗って大人しくネヴィラに撫でくりまわされている。
あまり気持ちよくないのでネヴィラへのささやかな感謝の気持ちを胸に、じっと遠くを見る様に膝の上に座っていると、ナディスから「御不快でしたら遠慮なくおっしゃってください」と声をかけられた。
「まぁ、お兄様。どういう意味でおっしゃっているのかしら」
「お前が昔から愛らしい生き物を愛で過ぎて逃げられてしまうのはよく知っている。カティア様が寛大だからと言って、それに甘えてはいけないよ」
ナディスに窘められてやや不貞腐れた後、自覚があったのかしゅんとしたネヴィラがそっと私を撫でる手をとめた。
そのままカーディーンの元に戻ろうかと考えたが、しゅんとしたネヴィラが可哀そうだったので膝にとどまったままくぴーと鳴いた。
大丈夫。気持ちよくはないけれど、不快ではないよ!
私がそう言ってぐっと尾羽をあげたがネヴィラは「気持ちよくなかったのですね……」と呟いてさらに肩を落としてしゅんとしていた。
正直な気持ちを伝えたのだけれど、言葉選びを間違えたようだ。私はそっと力なく膝の上に置かれたネヴィラの手にぐりぐりと額を擦りつけた。
しょんぼりしたネヴィラを見かねたのか、それまで静かにお茶を飲んでいたカーディーンが静かに口を開いた。
「場所は頬、頭の後ろ側、口のすぐ下の胸元。爪を立てぬようゆっくりと、指の腹で円を描くように触れると良い」
カーディーンの言葉にネヴィラがちらりとカーディーンを見た後、ゆっくりと指を伸ばしてくる。
頭の後ろに指が伸びて、小さくくるくると撫でられる感触が伝わった。自分じゃ届かない場所を撫でまわされるのは気持ちがいいので目をつぶって受け入れる。
今までの私と違う反応に、ネヴィラは小さく声をあげて喜んだ。
「ありがとうございます、カーディーン様!」
「カティアとそなたの為になったならばそれで良い。あまり長く撫ですぎると煩わしく感じるだろうから、適度なところでカティアの自由にさせるといいだろう」
相変わらず表情は変わらないものの、カーディーンは少し目を細めてネヴィラに助言をする。
ネヴィラはそれをこくこくと頷きながら聞き、場所を変えてはこしょこしょと私を撫でて相好を崩していた。しかし相変わらず私を見ては可愛いと呟くネヴィラに、いつかは美しいと言ってほしいなと思う。
ナディスがじっと私達を見ていたので小首をかしげると、「妹と仲良くしてくださって、ありがとうございます」とにっこり言われたので、くぴーと鳴いて返事をしておいた。
ひとしきり私を撫で終えたネヴィラは、ナディスとお喋りしつつ外の様子に興味を引かれたようだ。
「草木が雨粒をはじく音と言うのは水の流れる音とはまた違っていて不思議ですね。雨の音を聞くと心が弾みます」
どうして?
カーディーンの膝の上に置かれた手を、くるくると立つ場所と角度を変えて無心で甘噛みしていた私は、ネヴィラの言葉に顔をあげて小首をかしげた。
「幼いころに初めて雨を見た時のことを思い出すからでしょうか?」
嬉しそうに雨を眺めて呟くネヴィラは、初めて雨をみたのがペルガニエスでのことだったと懐かしそうな声音で教えてくれた。
私は雨を見ると気分がどんよりするけれど……。
雨が珍しく、水が貴重なアファルダートの人々は雨の音が心地よく感じるらしい。カーディーンも静かに雨の音を楽しんでいるようだ。
「雨が珍しかった子供の私は、ラジーフおじ様の屋敷で雨に濡れながら庭園の散策をしたのです。雨に濡れると言う特別な体験を出来たのは喜ばしかったのですが、水に濡れた身体は熱を奪われて私は翌日寝込んでしまい、大変でした。雨の日はとても冷えるのだと初めて知ったのもその時です」
「ようやく治った後、妹が大人達から叱られて、さらにへこんでいた姿を覚えています」
くすくすとからかうように言うナディスを、ネヴィラが怒った様な顔で睨んで黙らせた後、その記憶を思いだしたのだろう溜息をこぼすように言った。
「軽率なことをした私がいけなかったのですけれど、せっかく異国へ来たのにずっと部屋の中で大人しくしているのはとても辛かったのです……」
他国との貿易を担う一族の者達は、子供のころに必ず一度、隣国を回って一通りの病気にかかって置くのだそうだ。
例えばペルガニエスだとアファルダートにはない流行病がある。その中で子供のころに一度かかっていれば、大人になってからその流行病に倒れることはないという噂の病があるのだ。嘘か本当かわからないが、実際子供のころにかかった子供は大人になってからその流行病に倒れる例が極端に少ないので、ペルガニエスでは誰かがその流行病にかかると子供達を集めてその病にわざとかからせると言う変な風習があるほどだ。大人ならば死にいたる様な流行病でも、子供ならば少々の熱で薬も飲まずに治るらしい。
そう言った他国の病に体を慣らす為に、そう言う病に一通りかかって置くためにわざわざ連れて行ったのにも関わらず、ネヴィラは勝手に雨で体を冷やして寝込んでしまった。
弱った体で流行病にかかっては大変だと、大人達は大層慌てたのだとナディスが補足した。
じゃあもしかして、今日のネヴィラがいつもより厚手の布を重ねているのは寝込まないように?
問えばネヴィラがちょっと照れたように衣を掻き合わせた。
「特別体が丈夫なわけではありませんから、熱を出したりするとなかなか治らないのです」
一度体調を崩すと治りにくい体質なのだという。グィンシム家の人間は皆似たような体質らしい。ネヴィラも一度寝込んで大変な思いをしてからは、かなり気を使っているようだ。
もしかして今回あっさりと予定を動かしてくれたのも、雨に当たると羽の調子が悪くなると言う私の言葉に、自分が寝込んで辛かったことを重ねたのかもしれない。そういえば旅の途中も、冷える夜にカーディーンの元へ布を持ってきてくれたのを思い出した。
ネヴィラの行動原理になるほどと納得して、倒れたりしたことのない自分の体を有難く思いながらネヴィラの話に相槌を打っていると、ナディスが思いだしたかのように言葉を発した。
「そういえば、私の所にクレイウス殿からお前へと首飾りや大量の宝飾品が届いている」
その言葉にネヴィラが肩を震わせて、カーディーンがぴくりと眉を動かしてそれぞれ反応した。
「『アファルダート流の求婚は首飾りを贈って当主に伺いを立てるのだと聞きました』と言葉を添えて、だ」
「……本当に贈ってこられたのですか」
「我が妻への贈り物としたいくらいの、それは見事な首飾りだったよ。お前が言葉でかわしているうちは正式な話にはならずに済むのだから、負担に思っていてもお前が相手をすべきだった。アファルダートならばそれで正しいが、ペルガニエスではしてはならない」
「申し訳ありません。私の失言でした」
「私から断っておいたが、クレイウス殿は諦めた様子がない。よほどアファルダートの美しい物が好きと見える」
正式な宴には妻かそれに代わるふさわしい女性を伴わなければならないという、ペルガニエスのしきたりがなければ連れて来たくなかった、とナディスはぼやいている。
「くれぐれもクレイウス殿や他の男性から求婚を受けてはならない。この国の釣り合いのとれる年齢の王侯貴族に、お前が嫁いで両国の為となる相手は存在しない。お前との婚姻はすなわち貿易の担い手であるグィンシム本家と直接繋がりを持つということだ。ペルガニエスに置いてその価値は高い」
「承知しています」
「ビビは昔から、異国の男女が夢の様なひと時を過ごして恋や愛が芽生えるだとか、情熱的に口説かれるという物語を好んでいたな。ペルガニエスで情熱的に口説かれても、それが愛だと勘違いしてはいけないよ」
「……私はもう幼いビビではありません。お兄様の手を煩わせるようなことは二度といたしません」
ナディスが静かにネヴィラを諭し、ネヴィラがぐっと固い物を飲み込んだような表情で答えた。
カーディーンは視線を少し外して雨の音を聞いている。一度目を伏せて、それから静かに口を開いた。
「ネヴィラには私もついている。護衛とは言え男の私が傍にいれば、ネヴィラを口説くこともさぞやりにくかろう。ネヴィラを守るために私はここにいるのだから必要ならば私を使いなさい」
「カーディーン様……」
ネヴィラがじっとカーディーンを見つめる様子を見て、ナディスがはぁと息をひとつ零した。
「それならばこの話はここまでにしよう、ネヴィラ。カーディーン様のご配慮に感謝なさい」
この話の後、ネヴィラがいない時にカーディーンが教えてくれたのだが、カーディーンをネヴィラの護衛につけることにはネヴィラへの求婚をけん制する意味もあったようで、それをナディスがカーディーンにお願いしたそうだ。
国同士の思惑があるとはいえ、兄として妹を案じたのだろうとカーディーンは言っていた。
そう考えると、クレイウスがネヴィラと庭園を散策する時にカーディーンがやけにすんなりネヴィラの傍に私を置いたのも、もしかして私がいた方が口説きにくいと思ったからなのかな?
私は自分もネヴィラを一緒に守ってあげる!と羽をぱたぱたと広げて言うと、カーディーンは頼もしそうに「あぁ」と頷いて私の頭をひと撫でした。
翌日は晴れて、空が青いよい天気だった。
お城の外に行くの?
「はい、カティア様。アファルダートよりこちらに嫁いだ最後の王女タンナーナ様の離宮です。グィンシム家より使者として参りました者は、滞在期間の間に必ず一度はその離宮を訪ねる習いがございますので」
ペルガニエスで起きた災いのせいでずれ込んだ予定が今日になったらしい。
カーディーン達と共に王宮を出て、相変わらず立派な角の馬が引く馬車で移動した。道中どこからか馬に乗るカーディーンめがけて鉢植えが落ちてくる出来事があったが、私が防いだのでカーディーンに怪我はない。
ペルガニエスって花が空を飛んでくるんだね。
アファルダートの砂漠で岩が落ちてくることはあったけど、花が落ちてくることはなかった。やっぱりお花はアファルダートでは貴重なものだからかな?
「さすがにそれはないだろう。背の高い家が多い道だ、どこからか落ちてきたのだろうと思うのだが……」
地面におちて粉々になった鉢植えを見て、私と考え込む様に鉢植えを睨むカーディーンがぽつりと零した。言われて道の両脇にある家を見上げれば、なるほど確かに家の濡れ縁の手摺りに花を飾った壺を置く家がいくつもある。ペルガニエスでは特にお金持ちだけの習慣ではないようだ。そのひとつが落ちてきたということだろう。カーディーンに怪我がなくてよかった。
私が鉢植えの花がもったいないと主張し、花を食べようとしてカーディーンに破片が危ないからやめなさいと止められるという出来事があり、一瞬馬車の足が止まったくらいしか問題はなかった。
到着したのは白い柱に緑が映えて美しい離宮だ。建物自体は巨大なペルガニエスの王宮や、私のよく知るアファルダートの宮殿よりも小さくて、その全貌が見渡せるくらいのやや大きめな建物と言った印象だ。
広い庭園には白と黒の石が敷き詰められており、その向こうに緑の絨毯と風に乗って沢山の花の香りがする。
わぁ!ここが……えっと……誰の離宮だっけ?
「タンナーナ様だ」
そう!そのタンナーナがよく過ごしていた場所なんでしょ?
「そうだ。全体的にペルガニエス風だが、花が多いのはおそらくアファルダートの貴人としての価値観だろう」
カーディーンとそんな話をしていたら、ネヴィラが離宮の案内役から挨拶を受けようとしているところだったのだが、その中に知っていた顔があったらしくネヴィラから小さな驚きの声が上がった。
「まぁ、本日はエウアンテス様が離宮を案内して下さるのですか?」
「左様にございます。不肖ながらタンナーナ様の離宮にはよくご挨拶をさせていただいております。守護鳥様、ネヴィラ様の供としてお使いいただけますと我が身の栄誉にございます」
以前と同じ占い師の衣を纏っているが、今日は独特な匂いが控えめなエウアンテスが綺麗な挨拶をしながらそう言った。
「ではよろしくお願いいたしますね、エウアンテス様」
ネヴィラがにこりと微笑むと、エウアンテスの肩がちょっとだけ跳ねて耳が赤くなっていた。
嬉しそうに微笑むエウアンテスと、ネヴィラの少し後ろを守るようにしながら私が肩に乗るカーディーン達も離宮の門をくぐった。
長い回廊や沢山の部屋を寄り道することなくまっすぐやってきたのは、私の感覚から推測するに門から一番遠い庭園だった。
カーディーンの腰ほどまでしかない背の低い木には香り高い小さな花が咲き、広い地面には柔らかな緑と花が青い空を見上げている。
私は大きく羽を広げて胸を張り、体いっぱいにその香りを満たす。門まで届く花々の香りはここから風に運ばれていたのだ。
花と緑を避ける様に奥に向かってまっすぐに石畳が伸びており、いつのまにか会話をやめたネヴィラとエウアンテスが静かな面持ちで奥へと進む。
その後に続くカーディーンやさらに後ろのリークまで静かで、どこか緊張したかのような空気に私は少しだけ尾羽を固くした。
奥にはぐるりと花と緑に囲まれて、ひとつの彫像があった。
まる壁の一部を切り取って運んで来たかのように背後に白い円柱を数本従えて、白壁に半分埋め込まれたように彫り込まれていたのは一人の女性の姿だ。
目の高さに持ち上げた指の先に止まるのは一羽の鳥。もう片方の腕に花を抱えきれないほど抱いて、こぼれおちた花が纏う衣のたっぷりとしたひだを翻す風に、今にも攫われてしまいそうに感じる。
動き出しそうなほど精巧に作られた女性の像は全身まっ白にも関わらず、輝くほどの存在感で色とりどりの花と緑、青い空と太陽の光を従えてそこにあった。
女性の足元にあるよく磨かれた石には文字が彫られている。それを静かに見つめてエウアンテスが静かに読み上げた。
「ペルガニエスとアファルダートを繋ぐ風となりし タンナーナ・ザフナ・ポリオノンテと 守護鳥ナーリア 火の神ピュレイオンの腕の中に憩う」
どうやら石にはそう刻まれているらしい。
私はその言葉を反芻してから疑問を口にした。
人って死んだら月へ行くんじゃないの?タンナーナはここにいるの?
私の疑問に、ネヴィラが私を振りむいて優しく説明してくれた。
「カティア様のおっしゃる通り、我が国では人は皆、死ぬと月の神の元へ向かうと言われております。ですがペルガニエスでは亡くなった人は火の神ピュレイオンが守ると言われているのです」
「タンナーナ様はペルガニエスに嫁がれてペルガニエスの人となられました。その魂が還る場所もペルガニエスの神の元となります。ペルガニエスでは魂も体も土に還るので、アファルダートとは弔い方が異なります」
エウアンテスがさらに詳しい説明をしてくれた。
私が理解出来た範囲で簡単にまとめると、ペルガニエスでは死んだ人を燃やして残った体をさらに土の中に埋めるらしい。そして埋めた場所に目印の彫刻などを建てたりするそうだ。これをペルガニエスの人はお墓と呼ぶらしい。
つまりタンナーナは私達の目の前にあるお墓の中にいるということになる。
私はちょっとだけ考えてみた。
カーディーン達の食事で鳥や四足の獣を燃やしているのなら見たことがある。カーディーン達は燃やしても骨は残るのだと言っていた。砂漠を巡っている時ならば、昼でも夜でも残った骨はいつも砂に埋めて後始末をしている。そうすれば夜には海砂の生物たちが月の元へ連れて行ってくれるからだ。
しかしペルガニエスでは土の中に残り続けるらしい。ゆっくりと時間をかけて土に還るが、それまでは土の中にあり続けるのだと言う。つまり今もなお骨だけのタンナーナとナーリアがここに眠っているかもしれないのだ。ちょっとだけ背中がぞくぞくした。
……羽も服もないだなんて、絶対に寒いと思う。
それとも土の中だから寒くないのだろうかと思いながら、当たり障りのない言葉を選んだ。
神様が違うと葬儀のやり方まで変わってしまうなんてびっくりだね。まさか体を燃やしちゃうなんて……あ、火の神様だからかな?
国ごとに慕う神様が違うので、神様の望む作法も違うのだと言う。リーク曰く「宗教の違い」だそうだ。
「左様にございます。ピュレイオン神の炎でまず魂を神の元へ。残った体は神の力が満ちた土の中でゆっくりと眠っていると言われております」
ちなみにペルガニエスでは亡くなった人はお墓にいるため、生きている者が会いに行けるのだと言う。ネヴィラ達が離宮へ来たのもタンナーナに会いに来るためだったようだ。
お墓の前に摘んだ花が束になってひとつ置いてある。花が弱っているのできっと数日前にでも誰かがタンナーナに会いに来たのだ。
アファルダートでは生きている者が亡くなった人に会えるのは自分が月へ行った時らしいから、生きている間に会えると言うのはいいことだと思う。そう考えればぞくぞくした気持ちがなくなった。
私がふむふむと話を聞き終えたところで、ネヴィラが従えていた従者から美しい装飾の箱と珊瑚樹林の枝を腕に抱いて、ゆっくりと進み出る。
ネヴィラが彫像の前に立つと、従者の一人が静かに出てきて持っていた絨毯を敷いて、ネヴィラはゆっくりとその場に跪いて腕に持っていた箱と枝を絨毯の上に置き、祈りを捧げた。
カーディーン達もその場で静かに目を伏せて祈りを捧げていたので、私も真似をして静かにひと鳴きしてから尾羽と頭を伏せて祈りを捧げた。
亡くなった人と会うって、なんだか不思議な感じがした。