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愛らしい生き物とネヴィラ

連続投稿その3

 本日も私は、書類仕事に追われるカーディーンとマフディルにがっちり肩を掴まれたリークをおいて庭園の散策だ。

 書類仕事の中には、そんなに急いでいない私の所有財産になる予定の麦の木に関するものもある様で、どうやらカーディーンはとにかく仕事に没頭したいらしく、マフディルとリークがそれに付き合わされているようだ。

 まぁカーディーンが身体を動かす鍛錬を始めると、今度は実働部隊の部下の人達が何人も地面に倒れ伏すことになるのでカーディーンは大人しく書類と格闘していた方が軍は平和だと思う。

 鍛錬には私も付き合っているのだが、部下の人相手には基本的に魔力の壁を使用しないことにしているので、することのない私はカーディーンの首元の袋から顔だけ覗かせて大人しくカーディーンに振り回されているだけだ。

 リークに「そんな悟りきった表情を小動物がするのはどうなんだ……」って呆れた顔で言われたけど、ひたすらじっとしながら視界だけがぐるんぐるん動いて振り回されていると言うのもなかなかに鍛錬なんだよ、と私は声を大にして言いたい。

 それにちょっと油断しているとどこからか落下してきた何かがカーディーンを直撃しようとするので、寝ているわけにもいかないのだ。

 砂漠の移動中や宮殿の移動中よりも訓練や砂漠で何かと闘っている場合などの方がカーディーンに災いが降りかかることが多いので、私もちゃんと守護鳥として仕事はしているのだ。

 私には治癒の能力がないとわかってから、実はカーディーンの怪我に少し敏感になった。

 私の力だと、怪我が起きてから治すことは出来ない。私は怪我を未然に防ぐことしか出来ないのだから。

 しかしそんな私のひそやかな決意とは裏腹に、カーディーンの仕事は怪我に突撃しに行く様なものなのだ。将軍だから仕方ないのだけれど……。

 だから悟ったような顔くらい、許してほしい。

 そしてそんなカーディーンの生傷と私のひそかな不安が競り合う毎日の中で、私が心安らぐ時間がカーディーンの会議や書類仕事中に与えられる散策時間だ。

 カーディーンから離れるのが不安な半面、好き勝手してもいいこの時間は私には貴重な休憩時間だ。

 そんなわけで私は今、庭園の葉っぱを咥えてひっぱったりして遊んでいる。

 鳥司達は私が葉っぱをむしり取ってしまわないかはらはらしているようだったけれど、私だってなんでも食べるわけじゃない。

 この葉っぱを千切っちゃだめなことぐらいはわかってるから、そんなに固唾をのんで見守らないでほしいな……。

 あんまり遊んでいると、鳥司達が不安そうな顔をするのでこれで最後とばかりに葉をひっぱると根元からぶつりと音を立ててちぎれた。……ごめん。

 葉っぱは責任を持って食べた。ちょっと苦かった。


 鳥司が不安そうな顔をするので、今度は庭園より緑の少ない水路にやってきた。

 水路には先客がいたようで、従者の人達が水路の近くに控えている。

 従者の人達が私達に気づいてすぅっと下がって頭を下げた。

 誰の従者だろうと主を探すと、水路にしゃがみこんだネヴィラだった。

 後ろ姿でもわかる。衣装が豪華で鱗石をしゃらしゃらさせて、ネヴィラの家の花を髪に挿していた。

 どうやら私にまだ気づいていない様で珍しいことに絨毯も敷かずに膝をついてしゃがみこんでいた。

 何をしているのだろうとじっと見ていると、手を伸ばして何かを呼んでいるようだった。

 その手と視線の先には一匹の獣がいた。

 駁貂はくてんと言う名の胴が長い獣だ。柔らかそうなまだら毛並で愛らしい顔立ちだがやや気性が荒く人には懐かないが、見た目の愛らしさと気難しさから飼おうとする人が多い生き物だと言う話をカーディーンから聞いたことがある。

 ちなみに砂漠の駁貂は砂を掘って隠れ住んでいた。肉食だから私は近づかないようにと言われたのでよく覚えている。

 ネヴィラ何してるんだろう?あれがネヴィラの飼っている駁貂なら罰せられてしまう。守護鳥が住む宮殿には守護鳥を襲う可能性のある肉食の生き物は連れて来てはならないと言う決まりがある。

 ネヴィラはじっと手を伸ばしておいでおいでと呼んでいたようだけれど、威嚇の構えでネヴィラから距離をとっている駁貂はしばらくじっとネヴィラを睨みつけた後、すばやい動きでどこかに消えてしまった。

 私は駁貂が完全にいなくなってからネヴィラのそばに行き、声をかけた。


 ネヴィラ、何してたの?


 モルシャの通訳によってようやく私の存在に気がついたネヴィラが青い顔ですぐに立ち上がり、私に気づかずにいたことを詫びながら頭を下げた。

 別に私は気にしないからいいんだけど、モルシャをはじめとした鳥司達がちょっとぴりぴりしていた。

 駁貂が周囲にいるかもしれないから警戒しているのかもしれない。


 あの駁貂はネヴィラが飼っているの?


「はくてん?あの生き物は駁貂と言う名なのですか」


 そうだけど、知らないの?


「はい。はじめて拝見いたしました。どこからか迷い込んだのか、突然私の眼の前に現れたのです。連れてきた貴族の手から逃げてしまったのでしょうか?とても愛らしい姿ですね」


 嬉しそうに語るネヴィラが飼っているわけではないとわかり、ほっとした。

 ネヴィラ曰く、この回廊を歩いていたら駁貂を見つけ、愛らしい姿だったので触れようとして手を伸ばして呼んでいたのだと言う。

 肉食で宮殿に連れてきたら処刑されてしまうたぐいの生き物だと教えてあげると「あんなに愛らしい姿なのに肉食なのですか!?」と驚いていた。

 ネヴィラがしょんぼりしていたので少しおしゃべりに付き合ってあげることにした。

 ネヴィラの従者が絨毯をしいて、ネヴィラは私を手に乗せてにこにこしながら撫でている。私はといえばまたネヴィラからお花をもらって頬張っていた。

 あんまりあっちこっちで知らない人から花をもらっても食べてはいけないと言われているけど、ネヴィラは私のお友達だから大丈夫だと言い聞かせている。

 モルシャ達にはお花を食べたことをカーディーンに内緒にしてもらうように口止めしておこう。御飯を減らされてしまうかもしれない。

 私がそんなことをぐるぐると考えていると、ネヴィラがちょっと落ち込んだような声でつぶやいた。


「どうして私はいつも愛らしい生き物と仲良くなれないのでしょうか……」


 仲良くなりたいのになれないの?


 私が尋ねると、ネヴィラは大きくうなずいた。


「私が近寄ろうとすると、なぜか逃げられてしまうのです。私に寄ってくるのは蛇や蜘蛛、大きくて恐ろしい姿の生き物ばかりです。逆にシャナンは愛らしい小動物にとても好かれているようなのです。一体何が違うのでしょう?」


 はぁ、とネヴィラは頬に手を当てて困ったようにため息をこぼした。

 正直ネヴィラの言うところの小動物である私はなんとなくわかる気がする。

 たとえばネヴィラが私に向けてくる眼差しの好奇心の強さとかが、なんとなく怖いのだ。それが好意だとわかっていても、強い関心を向けられると何をされるかわからなくて、つい本能的に逃げたくなる。

 あとネヴィラはいつも派手で豪奢な衣装と装飾品を身につけているが、ネヴィラが今つけている頭にかぶっている布の縁を飾るようにしゃらしゃら揺れている鱗石の音や腕輪の音など、人間の耳にはほんのわずかで心地よくて綺麗なものでも耳のいい動物にとってはそうではない。

 同じ理由でネヴィラはいつもよい香りを纏っているが、それも動物からしたらちょっときつめなのだ。あとよく胸元や髪を飾っているお花を食べたくなるから自制するために守護鳥はあまり花を飾っている人間には近づかない。

 とか考えつくだけでもこれだけネヴィラには小動物的が少し逃げたくなるような要素が多いのだ。シャナンが小動物に好かれやすいのは、シャナン自身の持つ雰囲気もあるだろうけれど、シャナンがネヴィラと逆の要素を多く持つことは関係してると思う。

 しかし私はこのことをネヴィラにどこまで教えてあげるべきか迷った。

 どれもこれもネヴィラは何も悪くない。むしろ人間としては好ましいことなのだろうことはわかる。

 私はちょっとだけ首を傾けて悩んだ後、結論を先延ばしにすることにした。


 たまになら私がネヴィラと遊んであげるからいいじゃない。ほら、私達友達だしね。


 私が言うと、ネヴィラはぱぁっと顔を輝かせて「そうですね!」と同意した。

 しばらく大人しくネヴィラに撫でられてあげた。


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