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カーディーンと恋の話

連続投稿その2

 ねぇ、カーディーンの伴侶探しはどうなっているの?


 カーディーンが会議をしている間、宮にいるカーディーンの従者の人を掴まえて話を聞いてみた。


「はい、まだ決まった話はございません。縁談の話もございましたし、何度か相手の女性とも会われていたようですが、そこから話は進んでおりません」


 カーディーンによく追従している従者の一人が、上ずった声音で答えてくれた。

 リークを介しているとはいえ、私がカーディーンの従者の人とおしゃべりするのは珍しいことだから、ちょっとだけ緊張しているのかもしれない。

 基本的に私のお世話は鳥司がするし、砂漠に行ったり訓練を一緒にする軍の部下の人達とはおしゃべりしたりするのだが、カーディーンの宮殿内での従者とはあんまりおしゃべりする機会がないからなぁ。

 最初の話題にしてはちょっと重すぎたかもしれない。でも私が気になっていたのはそこだ。


 なんで話が進まなかったの?


「申し訳ございません、カティア様」

「……俺の想像で答えるぞ、カティア。俺もさほど貴族の婚姻に詳しいわけじゃないが、基本的に女性と王族はかなり早い段階で相手を探し始めて伴侶となるんだ。女性はいいとして王族の婚姻が早い理由はわかると思う」


 静かに頭を下げて答えることを避けた従者の人にかわり、リークが想像で、という前置きのもと説明してくれた。

 王族が早くに伴侶を探す理由は聞いたことがあるし理解もしている。

 あまりに死が隣り合わせな王族はその血筋を残すべく、いつ自分がなくなっても血筋が途絶えぬようにと子をなすことを求められている。

 そして若くして伴侶を探す王族にあわせて必然的に相手の年齢も若くなる。例えば王族の男性が伴侶を探すとなれば、自分と同じ年齢かやや若い方が妻となるには好ましいとされる。

 自分より年上の女性を伴侶にと望む男性は貴族には少ないのだと聞く。これが平民だとまた多少なりと事情が異なってくるのだそうだ。

 王族と縁づく上級貴族の女性はかなり早い段階で婚姻することも珍しくない。

 そして王族の相手でなくなると、次は上級貴族の男性が相手を探す。

 ここには多少の年齢の差が生じることもよくあるのだそうだ。

 なんにせよ良い条件の女性ほど、沢山の相手がこぞって縁を求めて求婚するのだそうだ。

 そして沢山の相手の中から身分や娘と家のことを考慮して父親が相手を選ぶのが一般的だと言う。

 そこまで説明したリークは、ここまではわかるか?と尋ねてきたのでくぴーと鳴いて返事をする。


「さて、ここでひとつカーディーン様の婚姻には現在いくつか条件がある」


 私は思い出すように呟いた。


 えぇっと……シャナンよりいい条件の相手と二月以内に婚姻する。


「そうだ。そしてその条件がかなり厄介なんだ」


 期限が?確かにもうあんまり時間ないね。


「そこは実はあまり関係ないのだけれど今はまぁいいとして……問題はシャナン様より良い条件という部分だ」


 私は小首をかしげる。

 そんなに難しいことだろうか。


 シャナンより可愛くて身分が高い女性でしょ?単純にその条件だけならば結構いると思うよ、当てはまる女性。


 私が兄弟達と比較されるのが嫌だということもあって、あんまりこういう比べる様な言い方をしたくはないのだが、シャナンは確かに可愛くて若い女性だが貴族的な条件で言えば家柄で言えば低い方だし、シャナンより綺麗な女性は王族の血がより多く入っている身分の高い女性にはわりとたくさんいる。

 ラナーの宮でおしゃべりした女性達を思い出しながら考えていると、リークが静かに首を振った。


「そういう女性には大抵決まった相手か、既にほぼ求婚がたくさん来ている状態なんだ」


 リークが指折り数えて言うには、若さと未婚であることと武官の多い血筋の家で愛らしい容姿の持ち主であること。これがシャナンの良い部分だったのだそうだ。

 悪い点として家の身分がさほど高くないと言うことがあるが、それはラナー派閥に属しネヴィラと交流があるという社交性の高さで補えるし、母方が武の名門で自身が将軍位を持つカーディーンの伴侶と考えるなら、家の身分が低いことはたいした障害にならない程度にはシャナンの条件は良かったのだと言う。

 そもそもは王族のカーディーンが相手だから家柄が低いと言われるのであって、同じ身分の相手からすれば高嶺の花と言えるほど好条件の女性だったのだとリークは言った。

 私は見る立場が変わればここまで印象や条件が変わるのかと驚きつつ、リークに続きを促した。


「誰が見ても文句なくシャナン様より上だから選んだと言えるほど条件の良い女性はもちろんいる。そしてまた婚姻が成立していないのであれば、その女性がいる家に求婚の申し出をすることは何も問題がない」


 私は小さくうなずいた。ようはザイナーヴがシャナンにしたことだ。

 作法的には何も問題ない正式な求婚の手順だ。

 従者の人が悲しげに眼を伏せる様にして言葉を引き継いだ。


「しかし……カーディーン様と条件の釣り合う女性はほとんどが既に相手を決められており、まだ迷っている段階の家も大半は女性があまりにもカーディーン様の相手としては若すぎるか、現在いる求婚相手の中から親しい相手を見つけているという状況なのです。そしてそこに後からカーディーン様が求婚をすると、王族とつながりを持ちたい家はカーディーン様に娘を嫁がせたいと思うことでしょう。ですが、嫁ぐ娘はさぞ驚くことでしょう。突然自分が王族で将軍のもとに嫁ぐことになるのですから……」


 カーディーンを……というよりカーディーンの出自に関して良く思わない人はいるだろうし、カーディーン自身は女性に怖がられる存在感がある。

 そこにきてカーディーン自身がちゃんと自分を愛してほしいと言う女性自身に求める想いが強いとくれば、相手などいないに等しいのだ。

 リークが言いにくそうにそう結論付けた。

 なるほど。


 つまり、アファルダートの婚姻の作法とカーディーンの願いが噛みあわない上に、条件がさらに邪魔をしてるんだね。


 私はぺしょりと尾羽を下げた。

 もうこれカーディーンに伴侶を持たせないための呪いか何かだとしか思えない。

 補足として条件がなければシャナンと同じ身分がやや低めの女性を選ぶか、もしくは王族と一度婚姻を結び死に分かれた女性ならば身分の高い女性がいるという。

 カーディーンは年齢が上なので女性の若さにはかなり広さがあることから年齢的な条件はゆるいので、年下の女性自体は多くいるらしい。

 しかしどちらもどうしてもシャナンより絶対に上とは言い切れないのだそうだ。

 可愛くて家柄がよく、若くてしかもカーディーンを怖がらずに好意をもって伴侶になりたいと思う、誰が見てもシャナンより条件のいい女性……探すのはさぞ困難なことだろう。

 そりゃあカーディーンもやる気をなくすよ。


 どこかにいないかなぁ……カーディーンの伴侶になってくれる人。


 私は従者の人とリークと一緒に憂い顔でうなだれた。



 今まではカーディーンの伴侶はカーディーンが選ぶべきだと思っていたし、カーディーンも私を関わらせないようにしていたから私は気にせずにいたのだが、期限が近づいてきたこともあって私も少し協力した方がいいんじゃないかという心境になった。


 だからカーディーンの伴侶にしたいと思う女性をなるべく具体的に教えて!私も一緒に探してあげる!!


 私は宮で寛ぐカーディーンの大きな手に握られながら、顔だけで自信満々に語ってみた。

 カーディーンは私を握ったまましばらくきょとんとしていたが、少しして小さく笑いながら言った。


「そうか、カティアにもずいぶんと気をまわされていたのだな。そなたとも長い付き合いになるのだから、カティアにも口を出す権利のあることだしな」


 私をにぎにぎしながらカーディーンは考えるように視線を伏せる。


「そうだな……守ってやりたくなる雰囲気の、私を怖がらない女性が好ましいな」


 私はふむふむと頷いた。まだ握られているので頬がカーディーンの指に当たってぎゅっとなっただけだった。

 シャナンがその言葉に当てはまる。

 小柄で柔らかそうなふわふわした雰囲気の、守ってあげたくなるような容姿だ。


「カティアはどんな女性が良いと思うか?」


 私?私はねぇ……一緒に遊んでくれる様な人がいいな。


「ならばそれも考慮せねばならんな」


 問われたのでそう返したが、実はもうひとつだけ私がカーディーンの伴侶に望んでいることがある。

 カーディーンを守ってあげると言ってくれる相手がいいなぁ……。

 カーディーンの希望とあわないので黙っておいた。

 私はにぎにぎされていた手からずりずりと出てきて握った形のままのカーディーンの手にとまった。


 私も可愛くて守ってあげたくなるようなカーディーンの伴侶になりたい!って女性を探してみるね。どんなことも最初は誰だって失敗するって聞くし、二回目の恋はきっとうまくいくよ!


 私が胸を張って言うと、カーディーンは歯切れ悪く頷いた。


 どうしたの?


「シャナンは二度目だな。私の一度目の恋は別の相手だ」


 あれ?シャナンが初めて好きになった相手じゃなかったの?誰?


「私の胸にしまっておきたいので誰かは明かさぬ」


 その恋はうまくいかなかったの?


「……いかなかったな。何せ悲鳴を上げて拒絶された」


 それを聞いて、思わず何があったのかと尋ねてしまった。

 母親との訓練を終えた子供のカーディーンが宮殿で見かけた少女に一目惚れした。その少女が蛇に追い回されていたので助けたら、しがみついて泣きじゃくったのでなんとかなだめていると、落ち着いたらしい少女がおずおずと顔を上げた。

 カーディーンが間近で見る少女の美しさに改めて見惚れていると、それとは逆に、カーディーンを見つめた少女は悲鳴を上げて気絶した。

 カーディーンは遠くを見つめて淡々とそう教えてくれた。


「そしてその日からしばらくして少女と宮殿で再び出会い、怯えた表情で申し訳なさそうに感謝と謝罪の言葉を受けたときに、私は少女にとって恐怖の対象にしかならないのだと理解したな」


 そう締めくくられたカーディーンの初めての恋の思い出を聞いてひとつ理解したことがある。

 つまりカーディーンが「自分を怖がらない女性」にこだわっているのは、その思い出がかなり傷になっていたからなんだ。

 カーディーンはほとんどの人間に初対面で怖がられているし、カーディーン自身もそれに慣れている節があったのに伴侶にだけ妙に怖がらないことを重視するなと思っていたら、そんな思い出があったからだったとは……。

 つまり初めてカーディーンを間近で見たのに怖がることなく笑顔で見つめてくれたシャナンは、本当にそれだけでものすごく好印象だったんだ。

 私はふむふむと頷いて尾羽をぴんとのばす。

 迷信とは言え守護鳥は王族の恋愛も祝福すると言われているのだ。そんなものはないとわかっていても、なんとかならないかなぁと思ってしまう。

 いや、私が本気を出せば意外と何とかなるかもしれない。私だって守護鳥なのだ!


 まかせて!きっと条件に合う伴侶を探してみせるよ!!ところでどこにいけば伴侶がいると思う?


 伴侶が砂漠にでも落ちていればいいのにとぼやくと、カーディーンが笑いながら同意した。


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