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尾羽は輝かず

 ちょっと待って、守護鳥の口づけって何?


 やたらと長いナーブの話を聞いていて、私がまず気になったのはそこだ。

 シャナンとザイナーヴがどうとかよりも、私の知らない守護鳥のことがあった。


 ん?ただの治癒の魔力の話じゃないか。口づけって言っているのは人間達であって、俺達はそんな名前をつけた覚えはないし呼んでない。別にそこはどうでもいいだろ。


 どうでもよさげなナーブに食い下がる。私にとってはどうでもよくなどない!


 私そんな力があったなんて知らない!それがあればカーディーンの怪我も治せるの?


 治せる。けれど基本的には命を脅かす様な怪我や病でない限りは使わない方がいいだろうな。痛いし気軽に何度も使えるものじゃない。というか本当に使えないのか?


 ナーブが言うので、ちょっと教えてもらいながらやってみることにした。

 羽って簡単には抜けないんだね。何度か痛みで口を離してしまい、無駄に痛い時間を長くしてしまった。

 なるべく軸の部分をしっかり咥えて覚悟を決めてひっこ抜けとの助言を受けて、思い切って何とか抜いてみたはいいけれど、ここから魔力が通らない。


 ど、どうするのナーブ!尾がひりひりする!!すごく痛い!涙が出るよ!!


 泣けないから大丈夫だ。こう、治れ!って思いながら魔力をひたすら注ぐんだ。加護相手の怪我の様子でも想像してみるといいぞ。


 ナーブからさらに詳しい助言をもらいつつ、一生懸命魔力を注ぐ。

 思い出すのは海砂の大波に巻き込まれて、木の蕾でぼろぼろになっていたカーディーンだ。

 目を閉じて必死で魔力をこげ茶色の羽に注ぎ込む。

 私としてはかなり注いだところでちらりと目を開けて確認した。羽は変わらず普通のこげ茶色だ。


 光らないね。


 光ってないな。


 私としては注げる魔力はかなり注いだはずなのだ。

 しかし羽には何の変化もない。これはただの抜けた羽だ。


 どうして光らないの……。


 私は羽をぽとりと落として、しゅんと尾羽を下げた。

 光ってとろりと零れればその液体が治癒の魔力なのだという。

 なのにどうして私の羽は光らないのだろう。

 魔力を注ぎ込んでいただけでやたらと疲れた。身体全体がぐったりする。ナーブから魔力の使い過ぎで起こる症状だと教えてもらった。


 動けなくなるほどではないけどしんどいね。


 え?動けるのか!?俺は一度レーヴを癒した後はしばらく動けなくなるほど疲れるぞ。


 互いに互いの変化に驚いて顔を見合わせた。

 このあたりは単純に砂の私が月の兄弟達より体力的に優れているからなのだろう。砂漠を飛んだりして運動量だって桁違いだろうし。


 砂って本当に身体能力に優れているんだな。羨ましい。


 そのかわり守護鳥として優れてはいないけどね……。


 ナーブの純粋な驚きと称賛の声に、私はすこし拗ねたような返事をした。

 くぴー……とうなだれていると、ナーブが私の落とした焦げ茶の尾羽を見ながら首をかしげつつ言った。


 もしかしたらお前の羽は魔力を通すことが出来ないのかもしれないな。でもお前の加護の相手は病にはかからないんだろ?だったら大丈夫なんじゃないか。


 その言葉に、また自分が守護鳥としてひとつ能力が足りないのだと思い知らされた。

 私の何がいけないのかわからないが、どうやら砂は治癒の魔力が使えないようだ。


 でも……カーディーンが大怪我した時、私は治癒の魔力で治してあげることは出来ないんだよね。


 まぁそうだな。


 つまり、私にできることはカーディーンが大怪我を負わないように、出来るだけそばにいて守るくらいしかないようだ。


 とりあえず教えてくれてありがと。


 お礼はムーンローズで良いぞ!


 ナーブはくふーっと胸を張って言いきった。なるほど、花目当てで丁寧に助言までくれたようだ。

 しかし感謝の気持ちはあるけれど、お礼する予定はない。返事はしないでおいた。

 私はじくじくと痛む尾羽からなるべく意識をそらすように、話を切り替えた。


 それよりシャナンのことだけど。


 あぁそうだ。シャナンだ、シャナン。


 ザイナーヴは本当にシャナンが好きなの?ただ友達として好きなんじゃなくて?人間って好きの感情が沢山あるんだよ。


 私が尋ねると、ナーブは「それはない」ときっぱりと言った。


 人間が理解できないけど色んな愛情があることは知っている。けれど俺が唯一理解できるのは誰か一人を誰よりも特別に想う感情だ。それだけはカティアなんかよりずっと俺の方が知っている。


 逆に言いかえされて言葉に詰まった。

 確かに、誰かのことが何よりも大切と言う感情は私には理解できないかもしれない。私はみんなが大好きだから。


 それに聞いたってレーヴは答えないと思う。カティアの加護相手の番いを奪うことは悪いことなんだろ?自分が口に出したら何でもかなってしまうことを、レーヴはよく知っている。


 少しだけ寂しそうにナーブが言った。


 そこを理解してるのになんでシャナンをくれって発想が出てくるの。


 私がじとーっと睨みながら尋ねると、ナーブは堂々と言い放った。


 レーヴが言えば駄目になるなら俺が言えばいいんだろ?


 呆れて尾羽がぺたりと下を向いた。


 それに今の話だとシャナンがザイナーヴを好きかどうかなんてわからないじゃない。


 人間は好きな相手に頬を染めるのだろう?シャナンはレーヴを見て何度か頬を染めていたからレーヴのことが好きなはずだ。


 別に頬を染めるのは好きな相手を見るときだけじゃないよ。シャナンからちゃんと聞いたわけでもないんでしょ!


 私が言うと、ナーブは黙った。

 そして黙った後、ゆっくりとした口調で言った。


 ならシャナンに聞いてみればいいだろ。……お前とシャナンは似ている気がする。いや、むしろ俺達に似ているのか?


 ナーブはシャナンに聞いたの?


 ここで会って話をしたことはある。けどここでの話を誰かに言うことは禁じられているそうだから、俺は何も言わない。


 あぁ、だからなんだか慣れているような雰囲気があったんだ。

 私が納得していると、ナーブが言った。


 とにかく俺はレーヴの番いにはシャナンが良いと思った。誰の気持ちがどこにあるかなんてどうでもいい。レーヴがシャナンのことを好きならば、番いはシャナンがなればいい。俺はレーヴのまだ見ぬ美しい表情が見ることが出来ればそれでいい。だからカティアの加護相手の求婚を取り消す方法が知りたかったんだ。


 ナーブにとって大事なのはあくまでザイナーヴだったんだね。


 本当によくわかった。

 ナーブが認めるザイナーヴの番いにふさわしい条件って、本人の美しさじゃなくてどれだけザイナーヴの心を動かして様々な表情を引き出せるかなんだ。

 だからザイナーヴ以外はどうでもいい。シャナンのことも、カーディーンのことも、私のことも大して考慮してないからこそ、私にカーディーンとシャナンを引きはがす方法を知りたいと聞けるのだろう。

 カーディーンのことが怖くなければ、もしかしたらカーディーンに直接言っていたかもしれない。それが今はいいことなのか悪いことなのかわからないけど……。

 ナーブに悪気がないとわかっていても、はっきりいって面白くない提案なので私はこの際、はっきり言っておかなくてはいけない。


 あのね、ナーブ。私だってカーディーンが喜ぶ姿をみたいの。今カーディーンはシャナンと恋をしようとしている最中で、二人が恋をしたらちゃんと求婚するんだって言ってた。だから誰にも邪魔して欲しくないの!


 私がはっきりした語調で言いきると、ナーブはちょっと首をかしげながら問い返してきた。


 ……まだ求婚してなかったのか?


 正式にはまだって言ってた。だから邪魔しないで。


 そうか。


 ナーブはそれっきり何も言わなかった。



 私は風の留め箱を出てナーブと別れの挨拶をしてリーク達と合流し、カーディーンの元へと戻った。

 カーディーン達は風の留め箱での話は他の人にしてはならないと知っていたのだろう。私に何も聞いては来なかった。

 私はずっと迷っていた。

 シャナンのこと、レーヴの気持ち、私の能力のなさ。

 カーディーンに言うべきか迷って迷って、結局どれも言わなかった。

 なんだか色んな事が後ろめたくて、ぐるぐるしていた。

 とにかくすぐにでもシャナンに会って、話を聞こうと思った。


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