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宴の儀式とナーブの踊り

鳥に対してこの表現が正しいのかもよくわかりませんが、近親相姦的な話になります。

苦手な方はご注意ください。

 花嫁側の会場は、花婿側とは比べ物にならないほど色の大洪水が起こっていた。


 男性ばかりの花婿側も皆それぞれに着飾っていたのだが、服の色はだいたい薄い色と濃い色のどちらかで合わせる色も多くなく、同じような色合わせの人達を見かけたけれど、女性側は同じ色でも鮮やかさと取り合わせで全く違う印象を受ける。しいて言えば鮮やかな赤色や黄色が人気の様だ。

 鳥の鼻にはむせかえる様な花の匂いと、目に鮮やかな衣装は見ていて気持ちと尾羽がふわふわ浮き立つようだ。

 そんな女性達が鮮やかな絨毯の上で、ある場所では輪を作って食事と談笑を楽しみ、ある場所では楽器を奏でたり、集団で輪になってくるくると踊ったり、その周囲で手を叩いて歌を歌っているのだ。

 花婿側とは同じようでがらりと違う会場の様子にナーブと二人、圧倒されていた。


 きらきらだね。

 きらきらだ。


 二人で大興奮であちらこちらに目を奪われながら、モルシャの手に乗り会場へと入る。

 ラナーとイリーンを探してみたが、いなかったので次にシャナンを探してみる。

 シャナンはほどなく見つけたので近くへ向かうと、一緒にいたらしいネヴィラが私達に気付き、シャナンと一緒にこちらにやってきた。


「まぁナーブ様、カティア様!こちらにいらっしゃったのですね。御挨拶が遅くなって申し訳ございません。本日は善き日でございますね」

「ナーブ様、カティア様。善き日でございますね。共に祝いの言葉を述べる幸運に感謝いたします」


 ネヴィラとシャナンがそれぞれ挨拶してくれた。

 ナーブは着飾った二人をまじまじ見つめてうんうんと何か楽しそうだ。王族以外……というよりザイナーヴ以外を見つめるなど珍しいことだ。

 まぁ二人とも綺麗だしそういうものなのかな?

 ネヴィラは濃い紫色に銀の刺繍がいっぱいの衣装、シャナンは鮮やかな濃い緑の衣装に黄色い薄布を被っていた。


 今来たところだよ。二人とも綺麗だね!


 私が答えると、二人はにこやかにほほ笑んで礼を述べた。


 イリーンとラナーを探してるんだけど二人はいないの?


 イリーン様は少し前まではいらっしゃったのですが、体調を崩してお倒れになり、今は宮に戻っておられるかと思います。


 ネヴィラが心配そうに眉を寄せながら教えてくれた。

 ラナーの祝いの席なのにイリーンが倒れたのはとても残念だ。きっとイリーンもラナーも辛いだろうなぁ。


「イリーン様の分まで私達でたくさんお祝いいたしましょう」

「よろしければこちらにお食事を運ばせますね」


 ちょっと尾羽を下げた私にシャナンが言って、ネヴィラも努めて明るい口調で言って従者に私達のご飯を運んでくるように命じた。


 シャナン達と一緒にごはんをもしゃもしゃする。

 ちなみに私は座ったシャナンの膝の上にいるのだが、なぜかナーブまで一緒に私の隣で花をもしゃもしゃしていた。

 絶対に私の花を狙ってるんだ!!これはあげるもんか!

 私は自分に与えられた花を守るようにじりじりとナーブの出方をうかがっていた。ナーブは自分のお花を食べつつも、時々こちらをチラチラ見てくる。狙われている!!


「おかわりが必要でしたら遠慮なくおっしゃってくださいね。いくらでもとってまいりますので」


 ネヴィラがもしゃもしゃしてる私達を見ながらにこにこ言った。

 私もナーブもシャナンの膝の上にいるので、ネヴィラは最初ちょっとだけ悲しそうな顔をしていた。

 ネヴィラの膝に行ってあげてもいいのだけれど、私も少し学習したのだ。人の多いところで私がネヴィラの膝に乗るってことは、カーディーンとネヴィラが仲良くしていることを示唆するようだ。

 カーディーンが仲良くしているのはシャナンなので、私はシャナンの膝にいた方が余計な誤解を招かないだろう。

 一番いいのは私がシャナンの膝、ナーブがネヴィラの膝に乗ることなのだけれどナーブはシャナンにしか触れさせる気がない様で、ネヴィラの元には行こうとしない。

 仕方ないので二人してシャナンの膝だ。シャナンはネヴィラと私達の間で視線を忙しく動かしてすごく困った顔をしていた。こんな時どうすればいいのかわからないのでモルシャを見ても、モルシャはにこにこと微笑んで静かに立っている。

 結局ネヴィラが気を取り直して、せっせと私達にお花を持ってきてくれた。花を求めて人の多い会場を、あちらこちらに移動するネヴィラの従者の人は大変そうだった。ありがとう、お花は美味しくいただきます。

 私達はシャナンの膝に花粉をや花弁をぼろぼろこぼしながらお花を食べる。

 シャナンはにこやかにほほ笑んでるし、ネヴィラは可愛い可愛いと小さな声で呟いている。

 私をやたらとちらちら見ていたナーブが私に自分の花をひとつ咥えたままずいっと顔ごと差し出してくる。


 え、何?


 やる。


 あ、ありがと……。


 ナーブがおかしい。

 自分のお花をくれるだなんて。

 どうしたのだろう。そっと花を受け取ってもしゃもしゃする。

 ナーブはそれを嬉しそうに見てる。ちょっと怖くなってじりじりと距離をとったら、同じ分だけじりじりと詰められた。

 御飯でお腹がいっぱいになったので、お喋りをしながら女性の華やかな歌と踊りを見て楽しんだ。

 ネヴィラの踊りがみたいとお願いしたら、ネヴィラは嬉しそうに踊りの輪に途中参加して一緒にくるくる踊っていた。

 シャナンの膝の上でネヴィラを見る。


 ネヴィラ上手だね!それに綺麗!!


「左様でございますね。とても華やかで目を奪われてしまいますね」


 シャナンと話しながらネヴィラを褒めていると、隣にいたナーブがむっと頬を膨らませた。


 カティアはあんなのが綺麗だと思うのか?


 そうだね。あぁ、大丈夫だよ。ザイナーヴの方がずっと素敵だし美しいと思ってるよ。


 絶対に「俺のレーヴの方が美しい!」って怒ると思ったので、付け加えてザイナーヴのことも褒めておくと、ナーブはますます怒りだした。


 俺の方がもっともっと美しいんだ!見てろ!


 そう叫んでばさばさと飛び立ち、ネヴィラ達の踊る輪の一番前にひらりと着地した。

 突然やってきた守護鳥に周囲の女性達が小さく声を上げてぴたりと動きをとめた。

 足元のナーブを踏まないように少し避けて空間を作っている。


 曲!曲!


 ナーブが足をふみふみしながら音楽を所望したので、楽器を奏でていた女性達が戸惑いながらも演奏を続ける。

 するとナーブは奇妙に尾をふりふりしたり、ふらふらしたような足取りでくねくねしたりしている。何あれ?


「踊っていらっしゃるのでしょうか……?」


 私の疑問に答えるように、シャナンが小首をかしげながらつぶやいた。

 言われてみれば、微妙に音楽と動きが合っているようないない様な、何とも言えない動きだ。

 そしてくっぴっぴ、くっぴっぴと鳴いている。歌かな?

 何せ何やら真剣に歌を歌って踊っているようだ。

 ネヴィラをはじめとした周囲の女性達も、どうやら踊りに参加しているらしいということがわかると、一緒に踊り始めた。

 もちろん絶対にナーブを踏んだりしないようにくるくる回るのはやめて、上半身だけの踊りになった。

 珍しい守護鳥による祝いの踊りと言うことで会場は沸きに沸いて大盛り上がりだ。

 私も真似してシャナンの元から飛び立ち、ナーブの近くに降り立って一緒に翼を広げて足をふみふみ、ゆらゆら踊ってみた。

 ナーブのくっぴっぴという囀りに私のくぴーと言う鳴き声が応えるように響く。みればシャナンは移動して弦箱を奏でていた。

 楽しい!


 そうして会場のほとんどの人達が何らかの形で参加した、大きな祝いの踊りが終わった。

 終わった時は皆がわぁっと歓声を上げた。

 私はネヴィラと一緒にシャナンの元へ戻った。ナーブはネヴィラの手には乗らなかったけれど、私にぴったりくっつくように一緒に移動した。


「ナーブ様、カティア様、ネヴィラ様!とても素晴らしい踊りでございました。守護鳥様の祝いの踊りはきっと素晴らしい幸運を呼ばれるでしょうね。ラナー様もきっと御喜びになられます」

「えぇ、本当に。ここにいる者達にとっても、またとない素晴らしいひと時でございました!」


 シャナンとネヴィラは口々に私達の踊りを素晴らしいと言って手放しに褒めてくれた。悪い気がしない。

 くふーっと胸を張って称賛の言葉を受け取っていると、モルシャがすいっと現れた。


「カティア様、素晴らしいお姿でございました。ですがそろそろカーディーン様の元へ戻られた方がよろしいかもしれません」


 にこにこした表情でそう言ったが、口調がいつもよりほんの少しだけ早かった。

 モルシャはいつももっとおっとり喋るはずだ。

 それにモルシャはにこにこしてるけど、じっと私を見てる。……私と言うより、ナーブかな?


 そう?じゃあ戻ろうかなー。ナーブもそろそろ戻ろう?


 まぁ私はご機嫌だったので、胸を張ったままナーブに声をかけて、ネヴィラの手からモルシャの手へと足をかけた。

 するとモルシャの手に乗りきるところで、ナーブが私に声をかけた。


 カティア!俺は美しかったか?


 おや、本当にどうしたと言うのだろう。

 ナーブは美しいものが大好きだしザイナーヴを美しいと言ってはばからないが、自分を美しいと言うことはめったになかったと言うのに、どういう風の吹き回しだろう。

 怪訝に思いながらも、楽しく踊ったのだし気分を害するのも悪いかなと思ったので褒めておく。


 そうだね。美しかったと思うよ。


 それを聞くと、ナーブはくふーっと胸を張って上機嫌になった。

 なんだいつも通りジャンと思ったら、飛びあがったナーブがモルシャの手に脚をかけ、私のくちばしに自分のくちばしをすりすりこすりつけてくる。


 何?邪魔しないでよ、ナーブ。


 ぐいぐい身体を押し付けてくるナーブが邪魔で押し返そうとしたら、ナーブががばりと背中に飛び乗ってきた。


 ならば番うぞ、カティア!


 びっくりしてくぴぃーっ!!と悲鳴を上げると、すばやくモルシャが私とナーブの間に手を入れて私を守った。

 ナーブがモルシャの手を引っ掻いたり噛みついたりしたが、モルシャは私をそっと手に包み込んだままだ。

 すぐにナーブの鳥司が暴れるナーブをそっと包んで私と引きはがす。


「申し訳ありませんが、カティア様とナーブ様は急ぎ殿下の元へ戻らねばなりません。どうぞごゆるりと宴をお楽しみくださいませ」

「え、えぇ……どうぞ。ナーブ様とカティア様、ザイナーヴ殿下とカーディーン殿下によろしくお伝えくださいませ」


 目の前での突然のナーブの行動に驚いたままのネヴィラが、ちょっと呆けたまま返事をした。

 同じようにシャナンも突然の行動に首をかしげていた。

 そんな二人にモルシャは有無を言わせぬ丁寧なお辞儀で挨拶した後、くるりと踵を返して縫うように歩いて会場を抜けた。


「ご不便をおかけいたします、カティア様。もうしばらくこのままお運びさせていただきます」


 私はモルシャの手に包まれたまま、くぴーと鳴いた。


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