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婚礼の準備と終わらぬ宴の始まり

 ラナーの婚姻の儀式まであっという間に月日が過ぎたように感じる。

 たぶんカーディーンやリークが忙しそうにしてて、あんまり私と遊んでくれなかったからだと思う。

 あと私の羽が一部抜けた。

 抜けたときはちょっとした騒ぎになったけれど、モルシャの「季節の変化でございますねぇ」の一言で解決した。

 多少痒い思いをしたけれど、今回は全部抜けるわけじゃないらしいので痒い期間もすごく短かいそうだ。よかった。

 しかし飛べないほどではないけれど、ずっと痒いし無性に腹立たしくて、私はしばらく機嫌が悪かった。

 そんな私にカーディーンは根気良く付き合い、服と指が私の噛みつきでなかなか悲惨なことになった。けれどカーディーンはさして気にせず、私が沢山服や額布をぼろぼろにしても鷹揚に構えていた。むしろ初めて苛々した守護鳥を見たリークが、一番変化に動揺していた。

 私の普段との差に戸惑い、痛いつつくなとびっくりしていた。モルシャもカーディーンも当然の様に受け止めるので、リークが痛がっているのに私がびっくりしてしまった。でも反応があるとなんとなくすっとするし、皮膚の柔らかいリークはモルシャやカーディーンより噛みやすい。そして一緒にいることが多いので、私の苛々はリークに沢山ぶつけてしまった。ごめんね、リーク。


 どうやらこの部分的な生え換わりが守護鳥の繁殖期の始まりの合図らしい。

 守護鳥のこの現象を目安に、鳥司達は普段定期的に手入れをしている王家所有の森への出入りを完全に禁止するらしい。

 番う守護鳥は森へ行き、それ以外の守護鳥はお互いが絶対に顔を合わせないように徹底されるのだと言う。

 まぁ生え換わりで苛々してるしね。喧嘩になるので会わなくて丁度いいのだろう。

 けど普段会っていないくせに、会っちゃだめって言われると会いたくなるのってなんでだろうね?

 そんなことよりそれによって、森から採取していた花や木の実が一部しばらく食べられなくなると言う事実の方に、私は衝撃を受けた。

 私の御飯の種類が減っちゃう……。

 私は悲痛な鳴き声を上げた。



 そして部分的な生え換わりはモルシャの言った通りすぐに終わり、私はラナーの婚姻の準備をしてる真っ最中だ。

 王族が多く参加する宴なので、全守護鳥の生え換わりが終わるのを待って時期を合わせていたらしい。

 カーディーンと一緒に、儀式クラゲとの月光浴をしながら身を清めているのだ。婚礼の儀式に参加することが事前に分かっている人は全員身を清めるのが礼儀らしい。

 今回は私がカーディーンの手に乗って、カーディーンがその手を私の体が半分浸かるほど水に沈めることで一緒に入るようにした。

 また器に乗せられるとカーディーンがつついて遊びかねない。


 明日がいよいよラナーの婚姻なんだね。


 私が感慨深くくぴーと鳴くと、カーディーンが言った。


「そう言えばカティアには婚姻の儀式を説明していなかったな。正しくは婚姻の儀は二日間行われるんだ」


 アファルダートの婚姻は文字通り昼夜関係なく日を徹して行われるものらしい。

 なので明日は婚姻一日目の宴が催されると教えてもらった。

 会場には守護鳥達の為の花も飾られているから、お腹を壊さない程度ならば好きに食べていいと言われて、私は上機嫌で返事をした。

 そしていつもより少し早い時間から眠りについた。明日から寝れないらしいからたっぷり眠っておくようにと言われた。

 え、婚姻の儀式って寝ないで祝うものなの……?

 不安に思いつつも、就寝の挨拶をして眠りについた。



 そして次の日、朝からラナーと従兄弟の婚姻の儀式に参加しなければならない。

 少し遅めに起きて、朝ご飯を食べる間もなく準備を始める。御飯は会場で嫌と言うほど食べれるからしばらく我慢だと言われた。

 カーディーンは白色に金の装飾品をふんだんに使った、丈の長い服を着ている。額布はズボンと同じ鮮やかな深緑色だ。

 私もいつもの鱗石の首飾りと片足にカーディーンの額布と同じ深緑色の布を結んだ。

 邪魔で違和感が酷くて、ぐいぐいひっぱると余計結びが硬くなった気がする。これ、ちゃんととれるよね……?


 準備を終えて、カーディーン達と会場に向かう。と言っても宮殿内にある宴の間なので、勝手知ったる私の庭だ。

 一日目は完全に男女で別れての宴がある。花嫁側と花婿側に別れ、花嫁側は女性、花婿側は男性だけで主に知人と騒ぎ倒すそうだ。ここには主役のはずのふたりはほぼ姿を見せず、ひたすら身を清めたり飾りつけたりしながらの準備の時間なのだそうだ。それを周囲の者が騒ぎ倒して祝う意味があるらしい。

 基本的には花嫁側には女性、花婿側には男性であれば主役の二人を知らなくても勝手に祝いに来ることが出来るそうだが、基本的には貴族の婚姻には貴族、平民の婚姻には平民しか足を運ばないそうだ。

 誰がどれほど来るかわからないので、食べ物を切らさないことが主役の二人の甲斐性となってくる。

 参加者は二人の為にひたすら飲んで食べて騒ぐそうだ。祝う声が大きいほど祝福が大きいと言われており、鳴りやむことのない歌と踊りは日が沈むまで行われるそうだ。

 じゃあ身を清めた主役二人は一日目は何をするのと聞けば、割れんばかりの宴をどこかで聞きながら、本当に近しい身内のみが集まり静かな部屋でずっと婚姻の儀式をしているそうだ。

 これは本当に身内しか集まらないので、兄弟がいないカーディーンは何をするか知らないらしい。知らずに儀式を迎える人も珍しくないと教えてくれた。

 静かな場所で夜ずっと起きていなきゃだめとか絶対辛いと思う。どうせ祝ってもらうなら宴の部屋で儀式も一緒にやってしまえばいいのにと言ったら、カーディーンも同意してた。

 道中そんなことを教えてもらいながらカーディーンと花婿側の会場に入った私は、感嘆の声を上げた。


 わぁ……、すごくきらきらしてるっ!!


 宴の間には溢れんばかりのクッションと食べ物、そして祝いの水花があちこちに様々な形の器、花で目を楽しませてくれている。あれは食べちゃだめなやつらしい。

 床には鮮やかな刺繍の絨毯が大小様々に並べられている。敷き方はばらばらに見えるが、四隅の縁をほんの僅かに重ねることで絨毯が手を繋いだように見える。これは『家族の縁を繋げる』ことに由来している敷き方らしい。会場の絨毯は絶対にどこかが別の絨毯と繋がっているそうだ

 色も模様もさほど統一感が見られないのに、どことなくまとまった印象を受けた。右と左で部屋の印象がまったく代わってしまうのが不思議だ。

 そして煌びやかに着飾った男性ばかりが溢れかえっている。そこらかしこで小さな輪を作っては食べて飲んで、歌ったり楽器を演奏したり、踊ったりしていた。

 煩いくらいの賑やかさにちょっと顔をしかめていると、幾人もの人たちがカーディーンに話しかけている。

 私はリークと一緒に、ご飯を食べに向かった。

 守護鳥の御飯として用意された花は、人の食事とは少し離れた場所で大きな器に綺麗に飾り付けられて盛られていたようだ。

 ようだ、というのは私が到着した頃には、既に他の守護鳥達に食い散らかされた後だったからである。もはや花がごちゃっと皿に座っているようにしか見えない。

 無論守護鳥の御飯も切らしてはならないとばかりに、給仕の人が新しい器をもってきてくれた。

 私も負けずにそのお皿へ果敢に飛び付いた。

 その場で食べると必ず取られてしまうので、欲しい花だけ奪ってリークと一緒に逃げてきた。


 逃げた先にはザイナーヴとナーブがいた。


「カティア殿もこちらにいたのだね。今日は喜ばしい日だ。よければ共に祝わないかな?」


 誘われたのでザイナーヴの座っている絨毯に、手近なクッションをひっぱってきてちょこんと座った。

 ザイナーヴの膝に座っているナーブがこちらを見たので、リークとお花はあげない!と頬を膨らませて威嚇しておいた。

 今日のザイナーヴは金糸の刺繍をあしらった薄い青色の上下揃いの衣装を着て、こちらもきらきらとした装飾品をふんだんにつけていた。額布は鮮やかな青色だ。

 ナーブはザイナーヴの服とおそろいの薄い青色の布を首に巻いていた。気になるらしく時々胸元を見ては爪で引っ張っている。

 その気持ちすごくわかるよ。


 ザイナーヴの服、カーディーンと似てるね、模様とかが。


「これは王族の正装だから似ているだろうね。本来は白が一番正式な色なのだけれど、王族が多く集まるここで皆が白を着てもつまらないだろう?だから各々自由に色をあわせているはずだよ」


 つまらないで好きな色を着るんだ。


 似合っているのでいいと思うけれど。

 結構適当なんだね。

 そう考えるとちゃんと白を着てたカーディーンって真面目なんだ……。


「まぁもっと言えば、普段から大切な儀式のとき以外は白を着ないね。特に上衣は」


 なんで?ザイナーヴは白も似合いそうだけど。


 私が首をかしげながら尋ねると、ナーブが横から「当然だ!俺のレーヴはどんな色だって似合うんだ!!」と騒ぎだしたので、ザイナーヴが話を続けながら片手でナーブの尾羽を撫でていた。ナーブはぴたりと大人しくなってザイナーヴにお尻を高らかに向けて、目を細めている。時折ふるふると身体を震わせているのは気持ちいいからだろうか。

 ザイナーヴのナーブのあしらい方がすごく慣れてた。よくあることの様だ。


「私が上に白を着ると、肩に留まるナーブが目立たないだろう?おそらくカーディーン殿も、上にカティア殿と似た色はあわせないようにしているのではないかな?」


 ザイナーヴに優しく目で尋ねられ、思い出してみるが全く意識してなかったので全く記憶にない。


 そもそも私、基本的にカーディーンの肩じゃなくて頭に乗ってるから。


 ザイナーヴはちょっと目を丸くした後、にっこりとほほ笑んだ。


「カーディーン殿の髪色は濃い茶だから、砂色のカティア殿ととても似合いではないかな」


 うん、とてもお似合いだよ!


 ナーブが「ごまかしたな」って呟いてたけど、気にしないことにした。

 実はそんな気遣いがあっただなんて知らなかった。でもその気遣いを汲まず頭に乗ってたらしい。今度、たまには肩に乗って移動してみようかな。


 ラナーどんな格好かなぁ?


 楽しみだな。


 私が言うと、意外なことにナーブがそわそわと楽しそうに返事をした。

 どうやら花嫁のラナーが盛大に着飾ると聞いて楽しみにしているらしい。


「今日、ラナーの姿を見るのは難しいかもしれないな。そうだ!ラナーではないが今頃花嫁側の会場は様々に着飾った女性達が集まっているので、さぞ美しい光景だろうね」


 ザイナーヴに言われてちょっと想像してみる。

 男性側でもこれだけ賑やかで飾り付けた人々が集まっているのだ。女性側はもっとすごいはずだ。私もナーブも尾羽をふりふりしながら駄々をこねた。


 行きたい!花嫁側の会場にも行ってみたい!!ね、私メスだし行っていいよね!?


 カティアだけずるいぞ!!俺も行く!なぁレーヴいいだろう?


 ふたりしてザイナーヴの膝の上でぴょんぴょん跳ねてくぴーくぴー騒ぐ。最後にザイナーヴに上目遣いでじーっとねだると、ザイナーヴがうーんと考える。

 私のこともあるのでザイナーヴは私達を両手に乗せてカーディーンの元に行き、これまでの経緯をカーディーンに話した。


「ならば女性の鳥司ならば会場に入ることが出来るので、モルシャ達を連れて共に行けばいいだろう。会場ではラナーかイリーン……はいるかどうかわからぬが、いればイリーンのそばにいなさい。いなければシャナンと共にいればいい」


 シャナンの近くにはネヴィラもいるだろうから、知ってる顔がいれば安心だろうということになった。

 カーディーンとザイナーヴの許可が出たところで、私とナーブは一度花婿側の会場を出て、モルシャ達と合流してから花嫁側の会場に向かった。


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