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あなたのための月の守護鳥  作者: 七草
ヒナ~成鳥期
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交わす名前と王家の血

 禿げる、痒い、苛々する!の試練に耐え続けた私がついに成鳥になった。

 私の生え換わりは一月かからずに終わり、他の兄弟達はまだ苦しんでいると聞くと、みんなより一番幼い私が一番初めに大人になったようでちょっと嬉しい。


 みんなももう少しであの苦しみから解放されるからね。それまで頑張れ!


 私は悟ったような穏やかな心で、他の兄弟達が早く痒いのから解放されるといいなと思った。


 さて、成鳥になった私の姿なのだが、やはり砂色なのは変わらなかった。

 実は羽が生え換わったら兄弟達と同じ月色になれるんじゃないかとひそかに期待していたのだが、新たに生えた羽が砂色だった時点で諦めた。禿げ始めた間の、儚い夢だった。

 以前よりふわふわ感が少し控えめになったが、かわりに艶やかさが増して美しくなったように思う。まぁ、カーディーン達曰く「やっぱりふわふわしてて可愛い」らしいんだけど……。

 あと尾羽と両の翼等、体の一部に綺麗な黒檀色の羽が混じった。


 カーディーンの髪の色と、ちょっとお揃いみたいだね。


「そうだな。砂殿とお揃いで光栄なことだ」


 私が言うと、カーディーンが真面目な表情で、でも声に嬉しさを少し滲ませて答えてくれた。

 今の私は絶好調だ。新しい翼は以前よりずっと力強くてたくさん飛べる。

 私の日中の行動範囲が飛躍的に伸びた。嬉しい!

 私を追いかける鳥司は大変そうだけれど頑張ってほしい。ごめんね。


 私がカーディーンにつけた傷が治ってきたころ、月の一の兄の生え換わりが終わったとモルシャが教えてくれたので、せっかくだから会いに行ってみることにした。

 鳥司に私直筆の先触れのお手紙を出してもらい、来てもいいよのお返事をもらった。私には王子と一の兄直筆のお返事の手紙が来た。

 自分がもらって初めて分かった。


 足形のお手紙なんてもらっても読めないよ……。今度からお手紙は鳥司や従者達に任せよう……。


 私は、インクの飛び散り具合に兄が嬉々として書いたのがありありと滲みでてるお手紙を眺めながら、そっと思った。


 私がさっそく一の兄と王子の元に向かうと、二人は王子の宮で一緒に私を出迎えてくれた。

 カーディーンの宮と大きさはそんなに変わらないけれど、こちらの宮の方が豪華だ。まぁ私はカーディーンの宮の方が好きだけれど。

 笑顔の王子は相変わらずきらきら美しいけれど、腕や手のあちらこちらに一の兄に噛まれたのであろう傷があった。

 兄は白い美しい羽の中に、部分的に深い青色の羽が混じっていた。綺麗だ、いいな……。

 私が久々の兄に頬を擦りつけるように挨拶をすると、兄も同じように挨拶したあと、得意げに私に言った。


 末の妹、俺は正式にザイナーヴの守護鳥になったぞ。俺の名前はナーブだ!


 ザイナーヴって王子の名前だったよね。え?『月の一の兄』が名前じゃなかったの?


 私が小首をかしげて尋ねると、今度は一の兄が私の発言に小首をかしげた後、私の間違いを訂正するように告げた。


 それは名をもらうまでの通称に過ぎない。……末の妹、お前の『砂』も名前じゃないからな?


 えぇっ!!嘘っ!?これ名前じゃないのっ?


 衝撃の事実を聞かされて、私は目を丸くした。

 その後、私は月の一の兄改めナーブの守護相手である王子、ザイナーヴから詳しい説明を受けた。

 月の一の兄や砂、というのは守護相手が決まるまでの便宜上の通り名だったそうだ。本当の名前が決まるのは、守護相手が決まった時らしい。

 ザイナーヴとナーブで言えば、羽が全て生え換わった次点でナーブがザイナーヴを守護すると決めたらしい。そしてザイナーヴから御魂名を教えてもらい、一緒に「ナーブ」という名前をもらったそうだ。

 御魂名と名付けをもって守護鳥となるようだ。

 少し考えてみれば、私達の母リオラも、リオラって言う名前がちゃんとあった。たしかファディオラの話だと、リオラは四番目の雛、つまり月の四の姉だったはずなのだ。

 ファディオラが当たり前にリオラ、リオラ言ってたから気付かなかったけれど、リオラにちゃんとした名前がついていたと言うことは、私達にだってちゃんとした名前がつくはずなのだ。

 そしてそれは、守護に選んだ相手からもらうものなのだと、私は初めて教えてもらった。

 守護鳥の名前は、守護する相手の公の名と御魂名を混ぜたような響きの名を贈られるそうだ。ファディオラの名前はファディオラ・イブラ・ファーリン・アファルダートで守護鳥はリオラ、王子の名前はザイナーヴで一の兄がナーブだ。確かにどちらも少し名前が似ている気がする。

 これには守護相手をわかりやすくすることと、似た名前を贈ることによって加護を受けやすく、魂の結びつきを強くする意味があるそうだ。


 いいなぁ……名前。


 私がナーブを見ながらつぶやくと、ナーブは誇らしげに言った。


 自分が守護する相手がいると言う証だからな。末の妹も加護する相手を選べば名をもらえるさ。名前が欲しいから守護するんじゃなくて、守護する相手と魂を結ぶ名だから大切なんだ。


 私にそういうナーブはなんか、不思議とかっこよかった。生え換わりの時期でも、頑なに顔への噛みつきはしなかったらしい傷一つないザイナーヴの美しい頬にすりすりしながらでなければの話だが。


 しばらくお喋りしてから、ザイナーヴはこれからお仕事でナーブもそれについていくというので、途中までは一緒に廊下を歩き、別れの挨拶をしてカーディーンの宮へと戻った。

 別れ際に見たザイナーヴとナーブの姿は、まさに壁画に描かれる守護鳥と王族の姿そのものだった。

 私だってと思い、カーディーンの頭に自分がちょこんと乗っている姿を思い浮かべた。なぜだろう、あまり絵になっている気がしないのは。


 色合わせ的には悪くないと思うんだけどなぁ……。


 早くカーディーンのお仕事について行ってみたいと思いつつ、私はカーディーンの宮へと飛んで行った。



 カーディーンの宮へ到着すると、従者達が慌ただしく行ったり来たりしていた。


 な、何事?どうしたの?


 私がきょとんとしながらその様子を眺めていると、邪魔にならないように壁際に控えていたモルシャが、私の疑問に答えてくれた。


「本日、カーディーン様が怪我を負って戻られたようです。それが少しばかり大きな怪我だったため、従者が手当てしているのでございます」


 えぇ!カーディーン怪我したの!?


 これは大変だと思い、私は従者達の手当ての邪魔にならないところからカーディーンの様子をうかがった。

 カーディーンはベッドで眠っており、その顔にはびっしりと汗をかいている。


 カーディーンどうしたの?


 私が尋ねると、従者の一人が答えてくれた。


「……傷自体はたいしたことがありません。ですが、同時に王家の血の災いがあったようです。傷口からよくないものが入り、熱を出しておいでです。どうか……どうか、砂様。カーディーン様にご加護を与えて下さいませんか。年々カーディーン様への災いは大きく強くなっております!このままではカーディーン様もリオラ様の加護の切れた王妃様の様にっ……―――」

「無礼な、口を慎みなさい。守護鳥様のご意思に我ら人が口を挟むなどもってのほか。全ては砂様の御心によって決められること」


 焦ったような声で従者が私に言い募るのを、ぴしゃりとしたモルシャの声が遮った。

 モルシャはそのまま、私を連れてカーディーンの寝室を出て、私お気に入りの馬の様な彫像に連れて来てくれたけれど、私はとても遊ぶ気分にはなれなかった。


 ねぇ、リオラの加護が切れたってどういうことなのかな……?


 私がモルシャに聞いても、モルシャは何も教えてくれなかった。私がカーディーンに加護を与えないと、加護の切れたファディオラみたいになるって従者は言った。

 そういえばファディオラの従者も、ファディオラが倒れた時に「リオラの加護が切れた」と言っていた。

 従者は『王家の血の災い』って言ってた。


 モルシャ、王家の血の災いって何?


 私がモルシャや鳥司に尋ねても、何も教えてはくれなかった。

 私はもやもやしたまま、その日を過ごした。



 二日ほど寝込んでから目覚めたカーディーンは、ようやく体調が回復したようで、ベッドの上で上半身だけ起こして書類とにらめっこしているようだった。


 カーディーン!もう起きていいの?お仕事していいの?


 私がカーディーンのベッドに着地しながら尋ねると、カーディーンは私の頭を優しく撫でながら答えた。


「あぁ、砂殿にも心配をかけたな。私はもう大丈夫だ。あまり寝込んでいると、仕事が溜まっていく一方だからな。私の副官は優秀だが、それでも私にしか出来ぬ仕事もある」


 そう言ってカーディーンは、私を安心させるように小さく笑った。

 そんなカーディーンに私は、この二日ずっと溜めこんでいた疑問をぶつけるべく、意を決して口を開いた。


 カーディーン、王家の血の災いって何?……ファディオラはリオラの加護が切れたってどういうこと?


 始めモルシャが私の言葉を通訳してくれなかったが、私が威嚇するとしぶしぶカーディーンに私の言葉を伝えてくれた。

 カーディーンは一度考えるように目を瞑り、モルシャに一度視線を向けてから私に向き直って口を開いた。


「私達王族は、砂殿達守護鳥に加護を与えてもらい生涯を共にする。では、この加護とはいったいどんな加護か、砂殿は知っているか?」


 幸福と未来を与える加護だって聞いた。あと魔力で痛いのから守ったりするって。


 私が自分の知識から答えると、カーディーンは小さくうなずいて肯定した。


「そう、守護鳥が与えるのは幸福と未来だ。では何故、それを王族に与えるのだと思う?」


 え?なんで?……えっと、王族って偉いから?


「違う。王族が人の中で最も幸運ではないからだ」


 幸運ではない……?どういうこと?


 カーディーンは少し長くなるが、と言いながら話し始めた。

 それは、王族と守護鳥の関係の始まりのお話だった。


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