プロローグ
ぱきり、ぱきんと音を立てて目の前の乳白色の壁を突き破り、私は光の中に飛び出てきた。
一番初めに私が見たのは青い青い空と、空を閉じ込めるようにぐるりと輪を作った緑の木だった。
辺りを見渡すと、そばには白い大きな鳥が一羽と、私と同じくらいの大きさの兄弟達がいた。そして私と同じように産まれてきた兄弟達が、高い声で鳴いていた。私も本能の命ずるままに、兄弟の真似をして同じように鳴いてみた。どうやら私が一番最後に産まれてきたようだ。
すると、同じ場所にいた一番大きな……おそらく私の父は、私がしっかり鳴いたのを確認すると大きな翼を広げてどこかへ飛んでいってしまった。優美で美しい父はどこかふらふらとしていて、途中で落ちてしまわないかとはらはらしてまた鳴いた。
父の姿が見えなくなってしばらくすると、がざがざと草を踏み分ける音がした。
私や兄弟達は、警戒心も皆無で必死で父を探して鳴いていた。
その声に呼ばれるようにやってきたのは、二人組のヒトだった。知っている。この動いているのはヒトと言うのだ。
ヒト達は私達を見つけると頬を紅潮させて、なるべく私達を警戒させないように、けれど興奮を抑えられないような足取りで近づき、私達がいた巣を覗き込んで言った。
「ご誕生を心よりお待ち申し上げておりました。貴方様がたは我ら人と王家の守護鳥の直系でございます。さぁ我らが王宮にご案内させていただきます」
一人がそう言って、もう一人と一緒に深々と頭を下げた。私も兄弟も、突然のヒトの行動にきょとんとしている。
私達がきょとんと困惑している間に、ゆっくりと頭を上げた一人は持ってきた柔らかそうな布が敷き詰められた籠に、一羽一羽壊れものでも扱うかのようにそっと巣から籠に移し替えた。私も籠にそっと移されて布のあまりの滑らかさに足がつるつるしてぼてりとこけた。こけても痛くないくらい布はつるつるで柔らかかった。
そんな私の行動を愛おしそうに見つめたヒトは、もう一人に言った。
「お前は先に広間にもどり先触れを、御生まれになった国鳥様は月様が八羽、砂様が一羽だ」
もう一人はその言葉に短く返事をして、また私達に深く頭を下げて足早に去っていった。
もう一人がゆっくりと私達の乗った籠を捧げ持つようにして歩きだした。
しばらく歩くと森はすぐに途切れてしまった。そして広がるのは砂、砂、砂ばかりだった。私達を運ぶヒトはこの砂を「砂漠」と呼んだ。
そして最も目についたのは、一面砂色と空の青の中で色を塗り忘れたかのような白亜の宮殿だ。
壁のあちらこちらにアーチの形の穴がたくさんあいていて、風通しがよさそうだ。全体的に曲線で造られていて、上には杯を逆さまにしたような曲線の屋根がついている。
あそこが私達の新しい巣で、あそこに向かっているのだと説明された。父は一足先にあそこに戻ったそうだ。
さっぱりわからないが、私は自分がとてもわくわくしているのがわかった。あそこにはとても素敵なことが待っているような気がしたのだ。
私は逸る気持ちを抑えられずに、籠の中で力いっぱい鳴き続けた。
これが、私が砂漠国アファルダートの守護国鳥として産まれてからの、一番最初の出来事だ。