第3話
のんびり進行で申し訳ありません。
スノウの両親が死んだあの日から半年が経過した。 スノウはあの日から冒険者崩れとして生きてきた。 モンスターを狩り、東の国の首都に行ってモンスターの部位を売って資金を調達し、生活用品を買い、森の木の上で眠ると言うサイクルを繰り返していた。
スノウはもう、熟睡が出来ない体になっていた。 熟睡してしまえば、死ぬからである。 故に浅い睡眠だけに留め、何か音、気配などがすればすぐに飛び起きて退避行動を取れるようにしていなければならなかった。
スノウは、街の人達には名無しと名乗っていた。 記憶を一部失っていると嘘をついて。 スノウにとっては、逃げ出した扱いを自分はされていると考えていたからだが、国から見れば死亡扱いでこの世にいないはずの人間であり、既に興味が無いというのが事実なのだが、それをスノウが知る由も無い。
ただ、毎日毎日モンスターを狩り続けた事で、スノウの力だけは大幅に強くなっていた。 女神のいたずらによる祝福でその経験が更に上乗せされているし、女神の指示を受けた女神直下の部隊がスノウの成長をばれないように底上げしていると言う事実をスノウは知らないので、モンスターを狩り続けられるのならこんなに早く強くなるんだと勘違いをしていたが。
装備の方は、片手剣がミスリル・ソードに進化し、盾はミスリル・バックラーに。 そして鎧もミスリル・アーマーと外見から見たらこんな少年が纏うには不釣りあいな外見へと変貌していた。
成長は外見にとどまらず、内面の業の習得にも現れていた。 半年のモンスターとの戦いで得た業は、近距離武器でありながら中距離への攻撃が可能な〈死神の吐息〉。 姿を隠し暗殺や不意打ちが出来る〈闇薙ぎ〉。 そして、レアな回復の業である〈癒しの吐息〉の三つを習得していた。 同じ口から漏れるのに、死神と癒しが同居しているのは女神の遊び心なのだろうか。
ともかく、不意打ち、近距離、中距離、そして回復と1人である程度戦えるようになってきてからは
スノウの戦闘ははるかに安定した。 モンスターとの1VS1ならまず負けはないし、厳しくなったら『闇薙ぎ』を発動して隠れて逃げる。 死ななければいいのだ。 名誉も必要ない、どんな状況からも生き延びることが出来れば勝利なのだ。
そんなスノウは装備の影響で街中ではかなり目立つ、が街の人たちは深いことは何も聞かない。 冒険者である、もしくはその真似事をしている者は皆訳ありであると誰もが分かっているからだ。 ましてや自分の子供ぐらいの歳の子が、よっぽど死線をかいくぐらなければ、ここまで武具は進化しないとされるミスリル・シリーズをその身にまとっているだけで、歳をとった大人たちは痛々しい気分にさせられる。 こんな子供が何故ここまで戦い続けられるのだろうかと。
そんな子がモンスターを狩って来る。 モンスターも生きているときは恐ろしい存在だが、死体になってしまえば色々使える部分が多い材料に早代わりである。 服、食料、道具、義手義足など使い道は多様に渡る。 なので街の人はスノウを受け入れ、スノウには分からない程度にモンスターの買い取り金額に色をつけていたりする。 せめて美味しいものを食べて欲しいと願いをこめて。
スノウはそんな事には気がついてはいないが、とりあえず自分の欲しい生活用品が買えるように見逃してくれている状況を利用し、生活を続けていた。 少しでも強くならなければ、生きている以上何時戦争に召喚されるか分からない、と言う恐怖は常に付きまとっていたからだ。
自分は冒険者扱いなのだから、戦争には呼ばれないだろうという楽観的な考えはできなかった。 逃げ出したと言うより、逃げ出さざるを得なかった状況になったと言うことで、自分は女神に冒険者扱いをされ戦争召喚の対象者から外されているとは到底思えなかった。 その時がこないと何ともいえないが、その時が来たときに生き延びられるだけの力を。 スノウの頭にはそれしかなかった。
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「現時点では、かの者、スノウの力はこのようになっています」
執事が女神の前で報告を行なっている。
「ふうん、なかなかやるじゃない。 貴方達が適当に手加減して弱らせたモンスターをあの子にぶつけて、手っ取り早く育てる計画は順調のようね」
女神は任まりを笑みを浮かべる。
「はっ、お楽しみの時間は出来るだけ早く、そして長続きさせねばなりませんので」
執事はこの女神の性格を熟知しており、機嫌をとる。
「次回……は無理ね、その次、スノウちゃんを初陣させましょうか」
スノウを戦争に放り込むタイミングを女神は伺う。
「は、では部下にそれに間に合うぐらいの強さをスノウに身につけさせろと指示します」
そういい残して執事はその場からすぐに消え去り、残るのは女神1人。
「いいわよスノウちゃん。 10回、戦争に耐えてほしいわ。 耐えれたらここへ呼んで思いっきりかわいがってあげましょうね……♪」
女神は呟き、スノウが写る水晶球を眺め続ける。 この世界の最後にいいおもちゃを手に入れた女神は微笑む。 その微笑みは美しいのに寒気を感じるような微笑だった。
スノウ
剣 ミスリル・ソード
盾 ミスリル・シールド
鎧 ミスリル・アーマー
業 〈連斬〉 〈受け流し〉 〈死神の吐息〉 〈闇薙ぎ〉 〈癒しの吐息〉