7話 離別
「ヘル!!」
どうしてだろう。
「流落ち着いてよ!!」
何故だろう。
「テメェ、何しやがった!!」
なんで、こんなにも・・・・
「ヘルを・・・返しやがれ!!」
ヘルがいないと、こんなにもむなしいんだろう。
「ヘル様は返してもらいますよ。流さん」
カルラは水晶を片手に俺を見る。その目は冷たく、俺を映しているようで映していない。
「ヘル様の魂だけをこの吸魂晶に取り込ませていただきました。グレア様、これでこの男は用済みです。そこの勇者共々、殺してしまいましょう」
「・・・・・・」
どうすればいい?俺は今やただの人間。優はもとから人間だし、ミアとクロノさんでどうにかなるわけない。
「クラウソラス・・・」
ダメもとで呟いてみるが、やはり魔剣は現れない。
「カルラ、この男たちは無害です。そこまでする必要は・・・」
「グレア様。この男たちは私たちの存在を知っています。それだけで殺す意味はある」
そう言うとカルラは指を鳴らす。すると、辺りを数十の気配が取り囲む
「特にそこの二人は天界側の人間。せめて彼らだけでも殺して・・・」
「そうはさせないよ。魔族さん」
突如上空から知らない声。そして俺の前に降り立った。
「久しぶりだね、流。元気にしてた?」
いや、知らないんじゃない、忘れてたんだ
「親父・・・!!」
「久しぶりだね、グレア。相変わらず愛想のない顔だねぇ」
「マハト・・・」
俺の親父、神谷魔刃十。ふざけた名前だと思ったら・・・
「親父、魔族だったのか・・・」
「まぁね、そんな感じ。それにしても・・・」
親父の周囲の空気が一変する。どこか邪悪なオーラを纏う。髪が白く変色し、まるで魔帝みたいだ
「俺の息子にてぇ出そうとは・・・覚悟できてんだよな?」
周囲の空気が震える。圧倒的な存在感。
「相変わらず馬鹿みたいに強力ですね、マハト。」
グレアがこちらに目くばせする。
「流。どうやらお別れの様ですね」
「グレア・・・」
「もともと私はヘル様のお目付け役です。ゆえに、ヘル様がいないのならあなた達と一緒にいる必要はありません」
「・・・そうだよな」
「・・・ですが。短い間だったとはいえ、とても楽しかったですよ。・・・これは私からのお礼です。これであなたも戦えるはずです」
そう言ってグレアが渡してきたのは鈍く光る水晶。俺が握ると同時に、それは一つの剣の形になる。
「その剣の名はカラドボルグ。ヘル様の九の剣の一つです。」
「これを、どうして」
「もともとヘル様は武器を多く持ち歩くのを好まないのです。ゆえにヘル様が常に持っているのはクラウソラスとフラガラッハ、その二つのみ。残りはとあるところに保管されています。」
「とあるところ・・・」
グレアはなおもつづける
「良いですか、流。あなたが魔族の血をひいているのなら、必ず見つけられるはずです。残りの六の剣を見つけて、私たちの所にたどり着きなさい。」
「・・・・」
「そして、全てを片づけて、家に帰りましょう。・・・あの日々に」
言い終えたグレアはおもむろに短剣を取り出し、何かを呟く。すると短剣に埋め込まれている蒼い宝石が輝きだした
「お!久しぶりだなぁ。其れ使うのを見るのは!」
親父が次々襲い来る魔族を斬り伏せながら楽しそうに言う。どうでもいいけどアンタ、強すぎんだろ・・・何人殺ってんだよ
「この者たちを安全なところへ・・・ナルシル!!」
輝きが強まり、周囲の空間がねじ曲がる
「しばしの別れです。流」
その声を最後に、俺達は意識を失った。
夢を見ていた。
長い長い夢を。
数奇な運命のもとに集まった七人の物語を。
一度は離別するも、またいつか集結しようと。
しかし、運命に導かれて集まった七人は、たがいに剣を交えた。
信じる者のため、愛する者のため、運命を変えるため・・・それぞれが何かのために。
やがて勝敗が決し、一人の男が勝ち残った。
倒れ伏すかつての仲間。それを殺めたのは自分自身。
男は悲しみに暮れ、絶望に飲み込まれた。
男は仲間の武器をもちかえり、禁術をもってそれぞれの剣にそれぞれの魂を封じ込め、自身も光と闇、二つの剣に魂を封じ込めた。
それぞれ世界中に散らばった剣は、今も目覚めるときを待っている。