6話 騒動の呼び笛
「突然申し訳ありません」
警察官は、俺を人気のない場所に連れて行くと開口一番にそう言った。
「・・・何の様ですか??」
相手の考えがわからない以上、下手に刺激していけない・・・俺はとりあえず、なれない敬語を使っておくことにする。
「最近の魔界の情勢を伝えに参りました。」
魔界。って事は・・・
「魔人か」
「はい。カルラと申します。」
警察官。もとい魔人のカルラはそう言って変化する。
「おいおい、大丈夫なのかよ」
「心配ありません。結界を張ってありますので」
魔人の姿に戻り、スレンダーな女性と化したカルラ。その首筋には魔人の象徴である不可思議な文様が刻まれている
「ヘル様、魔界では現在二つの派閥が争っております」
「二つの派閥?」
「ええ。一つはグレア様を筆頭とした穏健派。もうひとつは、魔老会率いる過激派です」
魔老会・・・初めて聞く名前だな
「魔老会とは魔界の中で魔王の次に有力な組織です。その魔老会が、現在天界への進撃準備を進めているのです。」
「その話、詳しく聴かせてもらっても良いかな?」
突如割り込んできた知らない声、いや、この声は・・・
「クロノさん」
「やぁ、流君。」
ミアのお父さんで天界の勇者。クロノさんだった
「貴様・・・勇者か!」
カルラが剣を抜いて斬りかかろうとする。
「待ってくれ、私は敵じゃない。そうだろう?ヘル君」
クロノさんは俺をヘルと呼ぶ。それで俺は意図を理解した
「カルラ。この者は勇者だが敵ではない。剣をしまえ」
「・・・ヘル様がおっしゃるなら」
剣を収めたカルラはまだクロノさんを睨んでいる。
「さて、ヘル君。こちらも天界の情勢を伝えにきたよ」
「天界の方も動きがあったんですか」
「うん、えっと、カルラ・・・君?君にも一応聞いてほしい。これは双方にとって重要なことだから」
「・・・聞こう」
うわ、完全に敵意むき出しだよカルラ。
「先刻、神が魔界への侵攻を決定した」
クロノさんの言葉に、俺はもちろん、カルラも驚愕の表情を浮かべていた
「落ち着いてくれ。決行までまだ時間がある。決行されるのは一ヶ月後。それに伴い、全勇者が天界へ帰還命令が出た。もちろん、ミアも」
「ヘル様。私は魔界へ戻ります。急ぎ、このことを伝えねば・・・」
「待つんだ。まだ続きがある」
カルラを止めるクロノさん。これ以上何があるんだ?
「そしてヘル君。君の存在が、天界に気付かれてしまった。」
「それは・・・俺の中にヘルがいるって」
「そう。神谷流という人間の中に、ヘルという魔王がいることがばれてしまった」
「それじゃあ・・・」
「そう、君たちも危険だ。君も、君の幼馴染みも」
優まで・・・どうすれば
「どうするもこうするもなかろう。戦えばいいのじゃ」
そう言って木の陰から現れたのは
「お前ら・・・」
ヘルを始めとした四人。グレア、ミア、優、ヘルだった。
「お父さん・・・」
「私は、ミアを天界に連れて帰るように命令を受けてきた。しかし、ミア、お前が決めるんだ」
「僕は・・・」
「ヘル様。私たちは・・・」
「お前の好きにするがいい」
「流。私も戦う」
「何言ってんだ、お前じゃ無理だ」
各々が言葉を交わす中、カルラが
「ヘル様。我々を御救いください。」
ヘルにひざまずき、そう嘆願した
「・・・そうしたいのじゃがな、私はこ奴の体の中におる。動けんのじゃよ」
「はい、存じております」
ぞわ、と悪寒が走った。何か嫌な予感がした。何か大変なことが起きる気がした。
それが何か気付くときには、全てが終わっていた。
カルラの持つ手のひらサイズの水晶体。それを視認した時には、もう間に合わなかった。
「・・・?ヘル?」
俺の中の何かが消える。心の中に穴が開く。そして、一番顕著な変化が。
「ヘル様は返してもらいますよ。神谷流」
右手の刻印が、跡形もなく消え去って。
水晶体に、その刻印が刻み込まれていた。