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10話      来訪

ヘルさんが流の体から奪われてから二週間が経過した。

流は、あれからずっと魂が抜けたように動かない。

いや、実際抜けてしまったのだろう。少なくとも半分は。

そして、ミアとクロノさんは天界に帰り、グレアさんはヘルとともに魔界へと帰った。

マハトさんはいつのまにかどこかへ行ってしまった。

つまり、私と流の二人だけが、この家に残ったのだ。

当たり前だったはずの二人が、ひどくさみしく感じる。


前は空き部屋ばかりだったそこには、それぞれのネームプレートがかかっている。

ヘル、グレア、ミア。今は敵同士の名前が、並んでいる。

「流・・・」

名前を呼ぶが、流は反応しない。

それに少しだけ心を痛めて。


「!!!」



突然現れた天使。

天使だけじゃない。その隣には魔人もいる。

「・・・ん?おいマリア。あの人間、僕達が見えるみたいだぜ?」

「そんなわけないでしょうリルム。」

マリア、と呼ばれた天使。

リルム、と呼ばれた魔人。

白黒反転しただけにも見えるほどそっくりな顔立ちの二人。

ともに白と黒の短剣を流に突き付けている。

流には二人が見えていない。

相変わらず死んだように動かない。




「・・・」

声が出ない。

「早く終わらせるわよ」

まるで金縛りにあったように、指一本動かせない。

「んー・・・見えてる気がするんだけどなぁ・・・まぁいいか」

流が死んじゃう。

「兄様を」

「うん。兄ちゃんを」

流が殺されてしまう。

そんなこと・・・・・


「ちょっと待って?兄ちゃん?兄様?それって流のこと?」

我に返った私は二人に聞いてみる

「・・・そうだ。僕はリルム・神谷。こっちが妹のマリア・神谷だ」

リルムちゃんは私の雰囲気が変わったのを察し、武器である短剣を鞘に収めつつ名乗る。どちらも「神谷」という名字を使っていることと、確かによく見れば顔つきが流に似ていなくもない。

とはいえ頭の処理が追いつかない。少なくとも私の記憶では、流に妹なんていない。

「・・・どういうこと?なんで妹のあなたたちが流を殺そうとしてるの?」

私の問いかけにリルムは呆れたように

「は?僕たちは兄ちゃんを復活させに来たんだよ。今の兄ちゃんは心を半分抜かれてる。だから、その替わりになるものを兄ちゃんに渡しに来たんだ。」

「えっと・・・?」

え、ちょっと待って?いろいろ一気に来すぎて混乱してるよ?私

「とりあえず、大天使の姉ちゃんはそこでおとなしくしてて。マリア、いくよ」

リルムちゃんは私にそういうと流のほうへ向きなおる。

二人はそろって短剣を流に向け、何かを唱え始める。

「「ヘル・アルル・エギル・イスキオス」」

詠唱が始まると、短剣の先から光が走り、流の胸へと一直線に何かが流れる。

「「解き放て。ミラ・メムリアス」」

それからしばらくの間、光は流れ続け、やがて輝きは消え、二人は短剣を鞘に納める。

「終わったの・・・?」

「うん。今兄ちゃんに入れた、というか開放したのは。」

「ヘルの側近がお兄様に渡した9つの魔剣の一つ。紅剣カラドボルグ」

「カラドボルグ・・・」

名前だけなら聞いたことがある。といってもゲームの知識なんだけど

「・・・ん・・・」

流の目に光が戻る。辺りを見回して、何かをつぶやく。

「優・・・ごめんな」

私のもとに歩み寄り、いつの間にかほほを伝っていた涙を優しくぬぐってくれる。

「流・・・よかった・・・!!」

気がつけば、私は泣きながら流に抱き付いていた。

優しく頭を撫でてくれるのは、いつもの流で。

やっと、流が元通りになったんだと確信する。

元に戻ったんだ。やっと。私の大好きな流に・・・・・

















優が泣き疲れて寝てしまった後、しがみついて離れない優をコアラのように抱きつつ、そこにいた二人の「妹」達から語られた話。

「今、魔王は天界に進軍しようとしてる」

「天界もまた、魔界に進軍しようとしてます」

「・・・まて、お互いにとってお互いの世界の空気は毒なんだろ?」

その話が本当だとしたら、一体どうやって進軍しようってんだろうか

「天界、魔界双方ともに、まずは人間界を拠点とし、そこから相手に攻め込む腹づもりだろうね。」

「人間界に・・・?」

そんなことが起きたら・・・

「うん、間違いなく人間界は混乱して、それこそ大惨事になるだろうね。」

あっけらかんと、リルムはそう言った。

「魔人も天使も、人間を巻き込むことになんら疑問を抱いていません。というより、そもそも興味がない、といったほうが正しいですか」

マリアもそう付け加える。

「そんなこと・・・!」

「でも、今の兄ちゃんには何もできない。」

リルムがふいに、俺の眼を見つめる。その黒い瞳はすべてを見透かしているかのようだった。

「・・・」

確かにそうだ。今の俺には勇者も、魔人も見ることができない。

妹たちが見えるのは。単に血のつながりがあるから。

「だから、私たちがここにいるんです。」

マリアは、俺の心中を察してか、そんなことを言う。

「グレアさんが言っていたこと、覚えていますか?」

「グレアが・・・?」

「魔王の持つ七振りの魔剣。そして・・・」


「それと対となる、天界の七聖剣。」


「それを見つけるために、私たちはここに来たんです。」

リルムとマリアの言葉に。

俺は、思考が止まった。


「「戦争を未然に防ぎ、均衡を取り戻すために。」」


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