9話 真紅の悪魔
「・・・何者だ?お前は」
外に転移した奏は目の前の大柄の悪魔にそう問いかけられていた。
「俺は桜花奏。身長165センチ、体重45キロ。好きな食べ物はオムライス。嫌いな食べ物はセロリだ。」
「・・・そこまで詳しいプロフィールは聞いてない」
奏のボケに若干引き気味の悪魔。魔界大将の一人、アーヴァイン・ヴィルムだ。
「もうひとつ言うと、好きな動物は猫だ。」
「だから聞いてない。」
「家族構成は妹が一人だ」
「・・・」
「趣味は・・・」
なおもボケ続ける奏にしびれを切らし、後ろの魔族が矢を放った。しかし
「・・・人が喋ってんだよ。黙って聞きやがれ」
その矢は届くことなく、奏の周りに吹き荒れる風に阻まれた。
「風の魔術か」
「惜しい。魔術じゃないな」
超能力だよ。
そう言って奏は右手を引く。まるで弓を引くかのように。
「風の槍」
そう呟いて右手を放った瞬間、まるでその手を延長するかのように質量をもった風がアーヴァインのすぐ横を通過し、後ろの魔族たちに当たる。その一撃で軍団の大半がチリと消えた。
「・・・っと、やり過ぎたかな?」
「その魔力、人間ではないな」
一瞬だけ、放つ瞬間に感じた膨大な魔力。それはアーヴァインよりも多く、下手をするとヘル・ミラージュよりも上かもしれない。その事実にアーヴァインは戦慄していた。
「うーん、半分正解だ。俺は人間じゃねぇ。でも半分は人間だ。」
「・・・今日のところは引き上げよう。お前の存在、ヘル様にお伝えせねば」
「あ、帰ってくれるの?そりゃありがたい・・・だけど、そう簡単に帰れなそうだぞ?」
奏の指差す先、そこには
「天使・・・!!」
圧倒的な数の天使。戦力ではまず勝てない、というか、逃げることすらできない
「あーあ、せっかく魔族と闘わないで済んだのに・・・」
奏はそう呟くと宙に浮き
「魔族のおっさん、死にたくなきゃ逃げな。後ろの軍団もだ。今ならまだ間に合うぞ」
「だが、敵を目の前にして逃げるなど・・・」
「わからねぇのか?俺はこう言ってるんだよ。」
俺に巻き込まれて死にたくなかったら逃げろ。
「そう言ってるんだよ」
そう言うとほぼ同時に、奏の髪が変色していく。黒髪から紅に、まるで紅葉する楓のように。
「・・・奏、といったな」
「ん?なんだ、覚えていたのか」
「この恩はいずれ返そう」
そう言って、アーヴァインは魔界へと帰っていく。
「いずれ、ねぇ・・・」
まあ良いか。いい土産話ができた。
そう呟いて、真っ赤になった両目で天使を見る。
「だいたい一万ってところか・・・」
いいねぇ、面白くなってきた。
奏の呟きは風に乗って消え、遠く離れた軍団のど真ん中で大爆発が起きる。これがのちに真紅の悪魔伝説としてどこかで語られるのだが、それはまた別のお話。