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観測者は感情を知らない  作者: 白鐘
第一章 境界
9/27

9 観測


―縁日の帰り道。


ファニーが掲げる。


「見てこれ! 大当たり!」


黒い脚、八本。

安っぽい光沢。


マスターが止まる。

笑顔、固定。


「……大丈夫」


一拍。


「これは、おもちゃだ」


「苦手なの?」


「合理的に脚が多い」


「理由が雑」


少しだけ、視線が揺れる。


「昔、少しね」


シロがじっと見る。


ぽす。

胸ポケット。


「……近い」


カチ。


脚が、わずかに動く。

シロの瞳が細くなる。


「観測しておるの」


「ただの玩具だ」


即答。


――その夜、境界堂。

机の上に、黒い脚。 


マスターはそれを見下ろす。


「境界堂に害はない」


言い聞かせる。


窓の外。

街灯の下、影がひとつ揺れた。



………

……



暗転。



「特別観測記録:突撃!?最高幹部クロード」



――これは、本編とは関係のない、

とある最高幹部の災難である。




朝の境界堂。

窓からの光。


机の上に黒い蜘蛛のおもちゃ。

触れていないのに、少し斜め。


マスターはそれを視界の端に入れたまま書類を揃える。


ファニーはソファの背に座って足をぶらつかせている。


シエルは窓辺、腕組み。


「怪異ゼロだ」


「逆に怪しい」


「嫌な静けさじゃの」


一拍。


ドアが、ノックなしで開く。


逆光のシルエット。

黒スーツ。 


「観測任務だ」


場の温度が下がる。


ファニー、指差し。


「ラスボス休日出勤!」


……



舞台中央、街角。


ファニーとシエル、紙袋を抱えて歩く。


ドン。


袋、破裂。

リンゴ三つ、放物線。

長ネギ、水平回転。


クロード、一歩前。


無音。


片手でリンゴ三つ。

反対の手でネギを空中で止める。


静止。


通行人が背景で二度見。


ファニー、叫ぶ。 


「なんでそんなキメ顔でネギ持てるの!?」


クロード、ネギを縦に持ち直す。


「訓練だ」


「何の」


「……総合的な」


ネギの先が少し震えている。


……



境界堂に戻る。


クロード、ソファの端に座る。

背筋が壁と平行。


ファニーはわざと正面に立つ。


「なあ」


「何だ」


「友達いないだろ」


シエル、咳払い。


一瞬の間。


「……部下はいる」


空気、凍結。


マスター、ペンを持つ手に力が入る。

パキン。


全員、音に反応。 


「妬いてんの?」


ファニー、にやり。

マスター、完璧な笑顔。


「妬く? 何に?」


だが折れたペン先からインクが滲む。


シロ、卓上に跳ぶ。

徳利、コトリ。


「飲め」


マスター、受け取る。

一気。


「……ウグッ」


三秒。


顔が赤くなる。


「あははははは!」


机を叩く。


「クロードが特売コーナーでネギ持ってた!」


クロード、目線を逸らす。

耳がほんのり赤い。


「やめろ」


ファニー、床で腹を抱える。

シエルは壁を向いて震えている。

シロ、満足そう。


「次」


徳利がクロードの前に滑る。


「断る」


五秒後。

なぜか持っている。


一気。

静かな間。


「……リンゴ係とは何だ」


真顔。

全員、崩壊。


クロードだけが理解できていない。


……



バラバラバラバラ。


天井の蛍光灯が揺れる。

窓ガラスが震える。


ファニー、天井を指差す。


「え、まさか」 


シエル、無言で窓へ。


黒い影が屋上に降りる。

縄梯子、するり。


クロード、何事もなかったように立つ。


「では、失礼する」


「派手すぎるだろ!!」


マスター、額を押さえながら笑う。


「観測、過剰だねぇ」


クロード、梯子に足をかける。

サーチライトが室内を横切る。


逆光。


「……線は越えるな」


軽い声。

だが風圧で書類が舞う。


机の上。

黒い脚が、くるりと向きを変える。


ヘリ、上昇。


静寂。


ファニー。


「うち、国家機関だったっけ?」


シエル。


「今さらだ」


マスター、窓の外を見る。


「騒がしい観測員だ」


シロ、尻尾を揺らす。


「増えたの」





―完。


………

……


マスター「みかんが好きだねぇ」


ファニー「急に平和!」


シエル「柑橘は安全圏だ」


マスター「脚がない」


ファニー「まだ言ってる!」


シロ「次はタコ焼きかの」


全員「脚が増えるな!!」


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