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観測者は感情を知らない  作者: 白鐘
第三章 選択
22/27

2 温度


■ 朝


境界堂。

包丁の音。

規則正しい。


ファニーが顔を出す。


「おはよー!」


マスターが振り向く。

少しだけ、考えるような間。


「……おはよう」


声は柔らかい。


けれど、

“慣れ”がない。


ファニーが首を傾げる。


「なんかさ、初対面みたいなんだけど」


マスター、困ったように笑う。


「そう見えるかい?」


その“かい”が他人行儀。

シエルが入る。

視線を合わせる。


「記憶に欠落があるな」 


マスターは少し考え、


「自覚はないよ」


嘘ではない。

クロードが言う。


「昨夜二時。侵入」


空気が止まる。


「対象は一名。感情連結記憶」


ファニーの喉が鳴る。


「……誰」


クロード、視線だけ動かす。

マスターは首を傾げる。


「僕かい?」


まるで他人事。



ファニーが写真を持ってくる。


「これ、覚えてる?」


マスターは見る。

穏やかに。 


「楽しそうだね」


「誰と?」


一拍。


「……君たち、かな」


その“かな”で、写真の中の笑顔が遠くなる。


ファニーの笑顔が揺れる。


シエルが問う。


「私は何だ」


マスターは迷わない。


「大切な――」


一瞬、言葉が止まる。


すぐ修正する。


「保護対象だ」



昼。


電話が鳴る。

クロードが出る。


「怪異発生。接触型」


マスターが立ち上がる。

迷いがない。


現場。


崩れた商店街。

黒い影が揺れる。


ファニーが前に出ようとする。

マスターが腕を軽く掴む。

強くない。

でも動けない。


「君たちは保護対象だ。後ろに下がれ」


声は優しい。

命令ではない。

ただの“定義”。


ファニーが睨む。


「いつも一緒にやってたでしょ!」


マスターは困ったように微笑む。


「そうだったのかもしれないね」


その言い方。

覚えていない。


シエルが低く言う。


「戦力比は」


マスターは影を見る。

ほんの少し目を細める。


「問題ない」


空気が変わる。

言葉が、世界を固定する。


「そこに在るな」


怪異が縫い止められる。

動きが止まる。


「消えろ」


一言。

あっさり。


削り屑のように崩れる。


静寂。

ファニーが呟く。


「……強くなってない?」


シエルが分析する。


「定義精度が上がっている」


クロードが言う。


「軽いからだ」


マスターは振り向く。


「怪我はない?」


優しい。

ちゃんと優しい。

でも。

共闘の位置に立たない。


二人は守られた側にいる。

その事実が、重い。


ファニー、爆発。


「あるよ!!」


マスター、きょとん。


「どこだい」


「ここ!!」


胸を叩く。


「うちらの場所!」


マスターは困ったように笑う。


「後ろに下がっていてもらうのが最適解だった」


「最適解とかいらない!」


声が震える。


「一緒にやるのが普通だったじゃん!」


マスターは少し考える。


「それは……効率的ではない」


言ってしまう。


ファニーの目に涙が滲む。


シエルが前に出る。

冷静な声。


「質問です」


マスターは視線を向ける。


「どうぞ」


「我々は“保護対象”と定義したな」


「ああ」


「では我々が自律戦闘を行う確率をなぜ排除する」


一拍。


「危険だからだ」


「以前は許容していた」


沈黙。

マスターは少し目を細める。


「……以前の僕は、非合理だった」


シエルの声がわずかに揺れる。


「それを“成長”と呼ぶのか」


マスターは穏やかに答える。


「損耗率は下がる」


数字で殴る。

シエルの指が震える。


「我々は数値か」


「違うよ」


即答。


「守る対象だ」


ファニーが泣きながら言う。


「うちら、仲間だったでしょ」


その言葉。

ほんの一瞬。

マスターの瞳が揺れる。


微かな既視感。

胸の奥が、チリ、と痛む。


でも。


「……仲間、か」


呟く。

声が少し低い。


少しだけ。

懐かしい響き。


ファニーが顔を上げる。


「思い出した?」


マスターは沈黙する。

数秒。

長い。


「分からない」


静かに首を振る。


「でも」


一歩だけ近づく。

無意識。


「君が泣くのは、望ましくない」


柔らかい。

優しい。

けれど。

“共有の記憶”がない。


ファニーが笑う。

泣き笑い。 


「それそれ……それなんだよ……」


守られている。

でも、並んでいない。


クロードが低く言う。


「強化されている」


マスターが視線を向ける。


「何が」


「定義精度」


「感情ノイズが減った分、干渉が通る」


ファニーが睨む。


「ノイズじゃない!」


クロードは淡々と続ける。


「だが事実だ」


マスターは静かに言う。


「軽いほうが、落とさない」


昨日と逆の理屈。

シエルが否定する。


「違う」


はっきりと。


「軽いほうが、落ちる」


沈黙。


マスターの指先が、ほんの少し震える。


理由は分からない。

だが、その言葉は深い。





マスター「あーれー、だされちゃったー。どうやら僕は、この物語の中心人物らしいですよ。困ったなあ」

「はい、では仮称田中さんどうぞー。今回いちばん頑張った当事者です」

田中?「頑張った覚えはないねぇ」

マスター「じゃあ主犯?」

田中?「やめたまえ」

ファニー「やめたまえって言ってるよ!?」

シエル「品があるのに逃げ場がないな」

マスター「では次回、犯人は現場に戻る!」

田中?「犯人と呼ばないで欲しいねぇ」

マスター「大丈夫。まだ“証明”されてないからねぇ」

田中?「証明されないことも、あるんだよ」

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