表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
観測者は感情を知らない  作者: 白鐘
第一章 境界
10/26

エピローグ 願い


組織本部・夜


無機質な会議室。

報告書が机に置かれる。


「境界堂、本日も怪異を三件処理。

 うち一件は我々の観測対象でした」


沈黙。

最高幹部、クロードがページをめくる。


ゆっくり。

淡々と。


だが視線だけが、ほんの僅かに柔らぐ。

榛色の男の写真。

エメラルドの瞳。

笑っている。

不自然に。


「……処理対象に追加しますか?」


若い幹部が問う。


クロードは答えない。

代わりに、窓の外を見る。


遠い街の灯り。

あの場所だ。

境界堂がある。




あの男は、危うい。

壊れないふりが上手い。

感情を計測して、角度を調整して、

笑顔を“作る”。


35歳。

十分に大人。


だが、成熟とは別物だ。

彼は未完成のまま止まっている。

だから目が離せない。


だから。


「最高幹部。ご判断を」


クロードは書類を閉じる。

静かに。


「不要だ」


空気が変わる。


「しかし彼は組織の管理外です」 


「承知している」


淡々。


「彼に手を出すな」


はっきり。

若い幹部が食い下がる。


「なぜそこまで?」


沈黙。

ほんの一瞬だけ、クロードの指が止まる。


「……線を越えない」


「根拠は?」


視線が鋭くなる。

琥珀の瞳。

冷たいが、奥は燃えている。


「私が保証する」


部屋が凍る。

最高幹部の保証。

それは命より重い。


「もし越えたなら」


ほんのわずか、息を吸う。


「私が処理する」


誰も反論しない。

会議は終わる。




部下が小声で問う。


「なぜ、そこまで彼を?」


クロードは歩みを止めない。

低く答える。


「彼は、私がならなかった可能性だ」


部下は意味を理解できない。

だが、それ以上は聞けない。



境界堂。

夕暮れ。

ファニーが笑い、

シエルが呆れ、

マスターが口角を3度、目じりを2度傾ける。

その笑みを、遠くから見る者がいることも知らずに。


ページ最後。

クロードの独白。


「――まだ、壊れるな」


その声は、命令ではない。


願いだ。



「観測日誌・クロード私記」


本日の観測対象、相変わらず騒がしい。

休日にネギを持たされた件については抗議したい。

リンゴ係という役職は存在しない。

なお、境界堂は危険だが悪性ではない。

線は、まだ越えていない。


備考:

ネギは似合わない。断じて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ