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幻想タロット〜魂の旅路〜  作者: いもたると


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皇帝

 私のガールフレンドは人妻だった。


 彼女は高校を出たあと普通に就職し、そこで知り合った十五歳年上の男性と二十歳のときに出来ちゃった結婚をして会社を退職した。


 翌年に女の子が生まれて、彼女の幸せは絶頂を迎えたが、その幸せは長く続かなかった。


 彼女の夫は会社で役職についており、収入は高かったが、海外出張が多く、子育ての負担は全て彼女にのしかかった。


 高校の同級生たちがまだ独身でファッションだ海外旅行だと二十代の無責任な自由を謳歌する中、夫名義のセキュリティがしっかりとしたタワーマンションの一室で、小さな女の子の世話をすることだけで彼女の人生の瑞々しい時間は過ぎていった。


 おまけによくある話だが、彼女の夫にはひどい浮気症があった。


 彼女がそれに気付いたときは、ひどく頭に来て、離婚してやろうと思ったが、結婚して以来、何年も社会から離れてきたため、今さら新しい仕事をすることには不安があった。


 小さな女の子を抱えてシングルマザーとしてやっていく勇気も覚悟も持てなかった。


 不本意ではあるが、夫と婚姻関係を継続することで、物質的には不自由なく暮らすことはできた。


 そういうわけで彼女の女盛りの時期は子育てと夫に対する恨みとで過ぎていった。


 やがて娘が高校生になり、子育てにもそんなに手がかからなくなってから、やっと彼女は精神的に自由を感じるようになった。


 暇を見つけてはスポーツクラブに通い、ヨガとテニスで余分な肉を落とした。

 実年齢より少しだけ若いメイクをして、少しだけ若いファッションに身を包んだ。

 行きつけの美容院のランクを少しだけ上げた。


 私と出会ったのはスポーツクラブのヨガ教室であった。


 私は魔術研究の一環でヨガにも興味を持っていた。


 ヨガ独特の呼吸法がうまく出来なくて、ついつい西洋魔術式の呼吸法をしてしまっていた私を見て、彼女の方から声を掛けて来たのだ。


 それがきっかけで私たちは時々一緒に食事をするようになり、彼女も私が研究している魔術に興味を示すようになり、時々私の家に来るようになった。


 というのが私が彼女から聞いた彼女の生い立ちであり、私と彼女との馴れ初めであるのだが、私と出会うまで夫以外の男性と関係が全くなかったというのは信じがたい。


 彼女は実に手馴れた様子で私に声を掛けてきたし、その後の展開も実にスムーズで彼女主導で進んでいった感がある。


 きっと私の前にも何度かこういうことがあったのだろう。


 彼女にとって大事なことは、二人の関係を秘密にしておけることであり、適度の刺激が与えられることであり、決して本気にならないことであった。


 そして彼女は求める人材にぴったりの男を見つけたのである。


 いつの間にかは知らないが、彼女はそういう男を見つける嗅覚のようなものを身に付けていたのだろう。


 現在の彼女は旦那が長期海外出張中なのをいいことに、平日にテニスとヨガ、土曜日にカルチャースクールで油絵を描き、日曜には私のところにやって来て、二時間か三時間を過ごして帰っていくという、忙しい日々を送っている。


 その間に私は彼女が求めるものを与えてやる。私にとってそれは容易いことであった。


 私は男女の仲にそれほど詳しい方だとは言えないが、どうやったら女の人が悦ぶかを充分に心得ていた。


 初めて経験したときは大変ぎこちなかったのだが、何回か経験すると簡単にコツを掴めるようになった。


 まるでそれは生まれる前から知っていたような感覚だった。考えなくても自然とやるべきことが分かった。


 女性が今、何を求めているのか、体のどこが刺激を求めているのか、どのくらいの刺激を求めているのか、手に取るように感じ取ることが出来た。


 あたかも、人の体内を流れる見えない気の流れが目に見えるかのようであった。


 私の方も、それを受け止めてくれる女性が必要だった。


 私がこの力を使おうとすると、ある女性は力の受け入れを拒否し、ある女性は進んで受け入れた。


 何度かの失敗の後、私はこの力を受け入れてくれる女性の見分けがつくようになった。


 受け入れてくれる女性の数が少ないことにも気付いた。


 彼女と初めて会ったとき、すぐに彼女が後者であることが分かった。


 最初から私たちは言葉で確認しなくても、お互いが求めているものを理解していた。


 私は彼女と過ごす時間のあいだ、存分に力を発揮し、彼女はイノセントに力に身を委ねた。


 二人を縛るものは何もなかった。ただ本能だけに従い、尚且つ、グレイシャスでソフィスティケイトされていた。


 まるで熟練のピアニストの指が軽やかに鍵盤の上で踊るように、解放された時間が過ぎていった。


 たっぷりと欲望を貪った後で、彼女は言った。


「来週は悪いけど来られないの。その間に浮気しちゃ嫌よ」


 最後に一つ、キスをくれて、帰っていった。

 唾液の余韻が私の唇の中心にしばらく粘り付いていた。

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