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幻想タロット〜魂の旅路〜  作者: いもたると


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審判

 私は、道ですれ違う人に、変な人に思われないかと思ったが、太陽の光がすぐに涙を乾かせてくれたのでその心配はなかった。


 ああ、私の周りにあるものはどうしてこんなにも私に優しいのか。


 しばらく歩くと、私たちは目的のカフェについた。


 秋咲きのバラが絡み合ったアーチを潜ると、ピザを焼いた香ばしい匂いが漂ってくる。


 単純なことだが、生きてるって素晴らしいな、などという気持ちにさえなる。


 カフェの中には誰もいない。


 あれ?今日はやってないのかな、とも思うが、店は開いている。


 子供が「早く行こうよ」と促すので、いいのだろうと思い、店の中へと入っていく。


 ここで誰かに会うのではなかったろうか?そんな気がしたのだが、うまく思い出せない。


 誰もいないテーブルに、ティーセットが置いてある。


 ポットが一つとカップが三つ。私と子供と、おそらくもう一人、ここで誰かが来るのを待つのだろうか?


 私は急に怖くなった。


「ねぇ、帰ろうよ。僕はここに来てはいけない気がする。何だかすごく悪いことが起こりそうなんだ。そうだよ、僕はここに来るのが不安でしょうがなかったんだよ」


 私は、奥に行こうとしていた子供を呼び止めた。


「大丈夫だよ。僕が言ったじゃないか。君はただここに来るだけでいいんだって。君はいつも人生に期待し過ぎるんだよ。人生はただ受け止めるだけでいいのに、君は余計なことをし過ぎるんだ。君はただ、ミットを構えて、ピッチャーが投げてくる球を受け止めるだけでいいんだ。サインなんか出さなくてもいいんだよ。投げるのはピッチャーの仕事だからね」


「ねぇ、僕は何をしにここに来たの?ここに何があるというの?僕はここで誰かに会うんじゃなかった?すごく大事な人に会うつもりだったような気がするんだ。今朝、僕は一番上等な服を選んで着たんだよ。何でそんなことをしてしまったんだろう?それと同時に、すごく嫌なこともあったような気がする」


「君は人生を解釈し過ぎるよ。いいかい、人生というのはただ流れていくだけのものなんだ。人生に特別な意味なんてないんだよ。君はただ、君の中を人生が通過するのを見ているだけでいいんだよ。解釈はしなくていい。この世界がどこから生じたのかとか、人生の使命が何だとか、そういうことは、意味のないものに無理矢理意味をくっつけることと同じことなんだ。まさしくそういうことなんだよ」


 私は、子供が今言ったことを、どこかで聞いたことがあるような気がした。

 この世界はどこから来たんだろう?私は何のために生きているのだろう?


「さあ、行くよ。ここでは絵の展覧会をやっているんだ。君はここに絵を見に来たんだ。絵を見たら家に帰るよ。誰とも会わない。誰もいないよ。ミッションがあり、それを遂行する。それだけのことなんだ」


 子供は奥へと入っていった。


 私は釈然としない気持ちを抱えながらも、一人で取り残されることの方が怖かったため、後を追った。


 私が絵を見に来たって?私は絵になんか興味を持ったことがない。絵を描いている人たちの気持ちもよくわからない。


 写真があるのに、なんだって絵なんか描かなくてはいけないんだ?なんで絵なんか見に来たんだろう?これっぽっちも興味がないのに?


 奥に入ると、ギャラリースペースになっていた。広めの部屋の四方の壁一面に、絵が掛けられている。


 風景を描いたものやら、動物を描いたもの、人物を描いたものなど、いろいろだったが、素人の私が見ても、それ程上手とは言えない。


 その中に、一際大きなキャンバスに描かれ、部屋の一番目立つ位置に掛けられた荘厳な絵があるのが目に留まった。


 一目見て、他の絵を描いた人たちとは全くレベルの違う技量を持った描き手によって描かれたものだということがわかる。


「うわぁ……、凄い」

 思わず声が漏れた。


 ラッパを吹いている天使が上空から現れ、地上の人たちが立ち上がってそれを見上げている。


 人々は皆、裸で、手を胸の前で組み、穏やかな恍惚の表情を浮かべている。

 棺桶のようなものから上体を起こしたばかりといった人もいる。


 何を描いたものかはよくわからなかったが、何か救われたような、そんな気にすらなった。


「同じところにずっといちゃ駄目さ。一定のペースで歩き続けるんだ」

「あ、うん」


 子供が急かしたので、私は次の絵に進んだ。出来ることなら、ずっと今の絵を見ていたかったのだけれど。


 全ての絵を見終わった後で、子供が言った。


「さあ、帰ろう」

「うん」


 私は子供の後をついて、部屋から出て行こうとした。


 あれ、待てよ?

 私は急に何かを思い出したように立ち止まった。


 今見た絵の中に、気になるものがあった。


 それは、どう考えてもペアで描かれたものとしか思えない絵だった。

 その二つの絵が、向かい合わせに掛けられていた。


 私は部屋の中へと戻り、もう一度、その絵の前に立った。

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