太陽
秋の柔らかな日差しが窓からお行儀よく入り込み、私の顔を撫でた。
目覚ましのけたたましい音に無理矢理起こされるのに比べれば、天国のような目覚めである。
私はベッドから起き上がると、横で寝ている子供を、愛おしそうに見つめた。
赤ん坊は夜のうちに成長し、小学生くらいの大きさになっている。
洗面所に行って顔を洗い、トイレを済ましたら、朝食の準備に取り掛かる。
電気ポットに水を入れ、スイッチを入れる。トースターに食パンをセットする。
昨日の夜に、かなり飲んだような気がするが、頭はすっきりしている。
なんだって昨日はあんなに飲んじゃったんだろう?
何かがあったような気がするけど、思い出せない。
窓から朝日に照らされた空を見上げる。
こんなにいい天気なのだ。気分が良くないはずはない。
それにしても、こんなに気持ちのいい朝を迎えたのは何年振りだろう?
ええと、今日はどこかに行く予定があったような、そんな気がするけど、どこだったっけな。
「郊外のカフェだよ。庭が綺麗で有名なところ」
子供が答えてくれた。この子はいつだって私の考えていることがわかるのだ。まるで親子というより……。
「パートナー」
子供が答えてくれた。そうだ。親子というよりパートナーだ。人生のパートナー。いや、もっと大きな……。
「魂のパートナー」
またしても子供が先に答えてくれた。
そうそう。この子は魂のパートナーだ。ずっと昔から私と一緒にいてくれた。
あれ?待てよ。この子が産まれたのは昨日の夜だったような気が……。
「お湯が沸いたよ」
子供が知らせてくれる。
「ありがとう」
「言わなくてもいいよ。君が考えることは全部僕に伝わっている」
「ああ、そうだったね。でも、言葉に表したい気分なんだ。その方が、君に対する感謝をよく伝えられる気がする。君はいつだって僕によくしてくれたけど、僕はまだ君に十分な感謝を伝えられていないんじゃないかっていつも思う」
子供は、好きにしたら、という表情を浮かべた。
私はインスタントコーヒーを入れ、焼けたトーストを皿に乗せる。
「対した朝食じゃなくて悪いけど」
「僕は構わない。どうせ食べるのは君だけだから。でも、余計なお節介かもしれないけど、牛乳も飲んだ方がいいね」
「ああ、牛乳。そうだったね。今、冷蔵庫の中に牛乳は切らしているから、帰りに買って帰ろう。ありがとう。君のアドバイスに従うよ」
「いつもそうしてくれると嬉しいんだけどね。それより、皿を片付けておいて」
いつの間にか私はトーストを食べ終わっていた。
全く食べたような気がしなかったし、コーヒーを飲んだ後の苦い味も口の中に残ってはいなかったけれど、カップは空になっていたから、私はきっともう朝食を食べ終わったのだろう。
もし食べ終わってないとしたら、子供が知らせてくれる。この子は、私の健康に関しては私よりうるさいのだ。
言われた通りに皿を片付けると、私は歯を磨き、髭を剃った。髪の毛をセットし、クローゼットの中を覗き込む。
今日はなるべく上等な服を着ていこう。なぜだかわからないけど、そういう気持ちがあった。
服を着替え、玄関に行くと、子供が待っていた。
子供はグレイのダボっとしたズボンに、ダボっとした赤い服を着ていた。首元には大きなヒダヒダのついた襟巻きのようなものを巻き、頭には四つ又に分かれた先にそれぞれ鈴の付いた、大きな帽子を被っていた。
「メイクもバッチリだね」と私は声を掛けた。
子供はニヤリと笑い、いたずらっぽい目で私を見た。左右に引きつった口元が、顔の輪郭を大きく超える。
「歩いて行こう」
「うん」
最高の提案だった。こんなにいい天気なのだ。歩かないなんて、神に対する冒瀆だ。
私は白いテニスシューズに足を入れた。
カフェまでの歩いて行く道すがら、私たちはずっと話をした。
といっても話すのは主に子供で、私はずっと相槌を打っていた。
子供は主に私の健康のこと、仕事のこと、生活習慣のことについて話していた。
早寝早起きを続けるように、あまりお酒を飲まないように、新聞は毎日読むように、時々、身体を動かすように、授業で同じ生徒ばかり当てないように、もっと丁寧に内容を説明するように、難しい言葉を使いすぎないように、色々なアドバイスをしてくれた。
そのどれもが深く思い当たるものばかりだった。
私は反省した。こんなにすぐ近くで私のことを思ってくれている人がいたのに、ずっと私は正反対のことばかりをしていた。
夜ふかしをし、朝、眠い目をこすって仕事に行き、難しい言葉を喋って、自分が頭のいい人であるかのように見せかけていた。
ニュースもたまにネットでチェックするだけで、味もわからないのに強いお酒を飲んでいた。
私は涙を流した。こんなに私はひどい生活をしてきたのに、子供は私のことを愛してくれている。
そう思うと、涙が止めどなく溢れた。




