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幻想タロット〜魂の旅路〜  作者: いもたると


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愚者

 いつも何気なく通り過ぎてしまう道なのに、奇妙な感じがした。

 何の変哲もない住宅街。誰かに見られている気がした。


 おかしい、と思って振り返ると、ゴミ捨て場を囲っている低いブロック塀の上に猫が数匹いるのが目に入った。


 気の所為か、と思って前を向きなおす。今度ははっきりとそれが見えた。

 十メートルばかり正面、街路樹の下。


 ただ同じ空間に存在しているだけで、私とすれ違うのを待っていたわけではない。


 だが、それは私がそこにいることを認めていた。あらかじめ私がここを通るのを知っていて、しばらく前から待ち構えていたかのように、確実に決定的に疑いの余地もなく、私を捉えた。


 私は視線を下げた。相手の大きさに合わせて視覚がフォーカスする位置を変える。子供だった。


 だが、一言で子供だったといい表すには、いささか的はずれな感が否めない。


 奇妙な子供だった。見たことのない服装をしていた。赤を基調としたダボッとした服だ。


 所々に青や緑の小さな部分がある。色と色は黒いラインで分けられているようだ。それらの色のタータンチェックのようにも見える。


 首元には大きなヒダヒダが幾重にもついた派手な飾りが付いている。これも赤い。


 襟巻きのようなものを巻いているのか、それとも元々服にくっ付いているのか見分けが付かなかった。


 くすんだグレーのズボンを履いているが、これもダボッとしていて、裾は足下を覆い隠している。


 どんな靴を履いているのか見えない。あるいは靴などというものは履いていないのかもしれない。


 取り分け目を引くのは頭部だった。小さな頭に不釣り合いなほどの大きな帽子を被っていた。


 鍔のない山高帽の先が四つ又に分かれてそれぞれのさきに大きな鈴が付いている。見たことのない帽子だった。


 だが、その顔に比べれば服装など副次的なものでしかないかもしれない。

 逆三角形のややほおがふっくらとしたその顔には、ペイントがされていた。


 ピエロ。それがそいつの顔を見たときの私の第一印象だった。そいつは顔一面にピエロのようなフェイスペインティングを施していた。


 あるいはそれはペイントではなく、入れ墨のように消すことが出来ないものなのかもしれない。


 それは実に自然にそこにあった。もしかしたらペイントでも入れ墨でもなく、それは最初からそいつの顔にあったのかもしれない。


 そういう顔を持って産まれてきたのだろう。奇妙なことだが、その方が自然に思えた。


 私がそう思ったのは、それが現実に存在しているものではないということに気付いたからだった。


 それは奇妙な服装をした子供の形をしていたが、質量を持っていなかった。

 人間の肉体を持ってもいないし、何らかの物体でもない。

 三次元的空間に存在している我々とは違った種類の実体であった。


 しかし私はそれが確実に実体であることを知っていた。私は完璧に覚醒していた。


 夢を見ているわけではないし、幻覚でもない。私の精神は完璧に正常だった。


 私の理性は完璧にその持って産まれついた怜悧さを実行していた。


 私は理性によって、それがこの世界に合理的に存在を許されている、夢や幻でなく確実にこの世界に影響を及ぼす力を持った実体であることを認識していた。


 どうして私がそのことを知っていたかというと、それは私が創り出したものだったからだ。


 この数ヶ月の間に、私が魔術的作業によって創り出した実体であるからだった。


 私は長いことかけて、その実体を創り出した。そして今それは私の手を離れて自分の意識で動き出している。


 しばらくそいつを眺めていると、唐突にそれが笑い始めた。

 口角がありえない角度に引きつり、口の大きさが顔の輪郭の大きさを超えてしまう。

 あっという間に、口が顔の半分よりも大きくなった。


「あ・そ・ぼ・・・」


 周囲全体を震わせるような大きな声でそいつが言った。

 しかし私の耳は何の刺激も感じていなかった。


 私の心に直接語りかけてきて、実際にはその音が空気を震わせることはなかったのかもしれない。


 私は十字を切り、目の前の空間に五芒星を描いた。


 普通の人の目には見えないが、私の前に五芒星形の炎があがった。胸の前で両手を組み合わせ、集中して呪文を唱える。


「レ・オラーム・アーメン」


 五芒星形の炎が消えると同時に、そいつも消えた。辺りは変わらず、いつもの住宅街であった。


 私の額には汗が浮かんでいた。私は誰かに見られなかったことを祈りつつ、何事もなかったかのように家路を急いだ。


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