第九話 「チームになる魔法」
マリネの一言によってみんなは勢いよく立ち上がって、マリネの傍に詰め寄った。
「ちょっと、マリネ!マリアさんからの癒しがなくて頭おかしくなっちゃったの?」
「えっ?あらあら、そうなん?マリアさん、キツう言いすぎてもうたかしら・・・。どないしよ・・・・??」
「ヒメカじゃないんだから・・・。それにしてもマリネさんどうしちゃったの?」
「ちょっとおお!エリオどういうことよ!!!」
「どうしたんだよ、マリネ。らしくないじゃないか?」
マリネはパンパンと大きい音を出すように手を叩いて、みんなの口を止めさせる。そのまま、みんなの顔を見て苦笑いをして肩をすくめた。
「はーぁ。みんな落ち着きなっての。ウチらしくないって酷い言われようだなーー?」
マリネの言葉にいの一番に反応したヒメカは、マリネの机を両手で叩きつけてマリネの顔に自分の顔を近づける。マリネはあらと嬉しそうにヒメカの顔を見つめた。
「マリネが変なこと言いだすからみんなこうなってるんでしょうが!もぉ。分かりなさいよね。いっつもこういうときニヤってして、わっる~いこと考えるのがマリネじゃない!それなのに集まったら即解散って、どういうことよ!」
「んーン?なんかすっごい貶されてない?」
ヒートアップするヒメカを楽し気にあしらうマリネを見て、エリオがヒメカを後ろから羽交い締めにして距離を取らせた。ヒメカは駄々っ子のように足をジタバタさせている。
「ヒメカも落ち着いて!」
「マリアさんも含めてマリーちゃんが心配なんやわぁ。いつもなら次こうするって張り切って言うやない?」
マリネの後ろで頬杖をついて首をかしげるマリアにマリネは机に肘をついて頬杖をして横目でマリアを見た。
「んーン?なら、むしろ、ゆっくり席について考えてみ?この会の意味と次の試験の意味」
各々が首をかしげながらも席につくと、マリネはまたしてもどこから取り出したのか分からない、みんなの分のカップを机に置いてお茶を準備する。
「まーぁ、話はするけど、その前にゆっくりお茶にしましょ?どうせ、焦ったところで変わんないし」
「お茶してもいいんだけどよ、マリネ。ちゃんと話してくれるんだな?」
マリアの横で仁王立ちして真剣な眼差しをマリネに向けるレヴィン。マリネは頬杖をしたままレヴィンの方を見やって、すました顔で問いただす。
「あら、レヴィン。ウチが嘘つく女に見えて?」
「いや、話してくれるんだったらいいんだ」
レヴィンが素直に頷いて自分の席に戻ると、マリネはにっこりと頷く。マリネの態度にヒメカは納得できないと言わんばかりに怪訝な顔をしながら席に戻る。それにつられてみんなも席に戻って、ゆっくりと勧められたお茶を飲んでいく。
みんなのカップも空いてきた頃、最後にエリオが飲み干してティーカップを置くとマリネのほうを見つめる。
「マリネさん、ご馳走様でした!」
「はーぃ。エリオどうやった?」
マリネはにっこりと笑顔でエリオを見つめると、エリオはぴっと背筋を伸ばした。
「あ、えっと、おいしかったです!とても」
「あーぁ。そっちじゃないよ。試験のほう」
おどけるエリオを見て苦笑しながらもマリネは手をひらひらと振った。
「あ!そっちですね。えっと、試験はヒメカの盾になってただけで・・・。な、なぜかヒメカからすんごい睨まれてるんですけど・・・」
エリオがそっとマリアを盾にして隠れると、マリアはそっとエリオの方を向いて、微笑みながら頭を撫でた。ヒメカはそんなエリオをジトッと睨みつけている。
「だって、あんたの盾、壊されちゃったじゃない、もぉ!こっちは、やっと助かった!と思ったら全然違うんだもの!!!」
「えー!!!?それ僕のせいなの!?」
マリアの影からひょっこり顔を出してエリオがヒメカに異を唱える。しかし、ヒメカがキッと睨むと、またマリアの影に隠れてしまうのだった。
「それに!みんな来たと思ったらエリオだけだったし!?」
「それこそ僕のせいじゃ・・・」
「エリオは悪くねぇな」
エリオの言葉を遮ってレヴィンが割って入ると、ヒメカはレヴィンのほうを見つめた。
「レヴィン?」
「そうなんよねえ」
「マリアさんまで!?」
マリアとレヴィンがそっとマリネのほうを見つめると、ヒメカも二人の視線の先を辿ってマリネのほうを見る。
「もぉ・・・マリネのせいなの?」
「えーぇ?人聞きの悪いこと言わないでよね」
マリネは明後日のほうを向きながら手を仰ぐ。
「実は、マリーちゃんがフラッといなくなってもうて」
「マリネを探してたんだが、全然見つからなくてな。時間がかかりそうだったから、エリオだけ先にヒメカの様子を見に行かせたってわけだ」
「もぉ、それなら完全にマリネのせいじゃない!!!!」
そういうとキッとヒメカはマリネのほうを見たが、てへっと言わんばかりに舌を出してヒメカにウインクをするマリネを見て、大きな溜息とともにガックシと肩を落とした。
「それは置いといて」
「置いとけないでしょうが!」
「まーぁ、まぁ、それより、エリオの盾はレオの拳も防げたんだし、自信持って使えばいいんじゃない?」
マリネは手のひらと視線をエリオに向け、エリオと目が合うとニヤッと笑みを見せた。そんなマリネを見て、溜飲が下がらないヒメカはマリネをジトッと見続けている。
「ぐぬぬ・・・何か納得いかないな~もぉ」
「そろそろいいか?マリネ、話してもらえないか?」
レヴィンが大きな咳払いをして会話を遮り、そのまま席を立つ。マリネはそんなレヴィンを見上げて、やれやれと息を吐きながら手でパタパタと仰いで座るように促す。レヴィンがゆっくりと席に腰を付けるのを見て、マリネは話を続けた。
「うーン。そうだなー。ウチらって去年まではみんな同じクラスで仲間だったじゃない?今日戦ったあの子ら含めて」
「そやなあ」
「だな」
マリネはみんなを見渡すと、みんなも頷いているのを見て、話を続けた。
「でーぇ?今日は模擬試験だったじゃない。まずさ、この試験の目的ってみんなは何だったと思う?」
首を傾げてみんなが真剣に考えていると、急に静まった空気にマリネはぷっと笑い始める。
「っぷ、みんな真剣に考えすぎだって」
「ノーラン先生は力比べと言っていたな」
マリネは小さく何度も頷きながら、レヴィンを指さした。
「そーぉ、そぉ。レヴィンの言う通り。で、模擬戦なんだから練習みたいなもんだよ?顔合わせって考えれば、特に私ら五人は腐れ縁って感じ?なんだかんだ一緒にいたし。こんだけ話せて、みんなウチにぞっこんなんだし」
「だ、だれが、マリネなんかにぞっこんなのよ!!!!!」
「えーぇ?さっきあっちの部屋で気持ちよ・・・」
ヒメカは耳まで真っ赤に染めて急いで席を立ってマリネに駆け寄って、口を塞いで顔を付き合わせ、話を遮った。
「マ、マリネ!?それ以上言ったら・・・!!!!!」
焦った様子のヒメカに対して、マリネはゆっくりと口を塞いでいるヒメカの手をどかして、ニヤリと余裕そうな表情を浮かべてヒメカのほうを見た。
「ぷはっ。えーぇ?でも好きでしょ?ア、レ」
「ちょっとおおお!!もぉ、知らない!!!!!!!」
ヒメカがぷいっとそっぽ向いて自分の席へと戻っていくと、マリネはやれやれと息を吐いた。
「あーぁ。ヒメカ拗ねちゃった」
「僕たちぞっこんなのかな・・・?」
エリオが真剣に考えている隣で、マリアが頬に手を当てて、首をかしげる。
「どうやろねぇ・・・?あ、でも確かマリーちゃんの言葉に納得できたり、助けられたりしてるからなあ・・・。あ、でもマリアさんといると、マリーちゃんはどっちかっていうと甘えんぼさんかも・・・」
「ぁーあ!マリアさんは逆でもいいのよ!!!!」
マリアの言葉にマリネは勢いよく机から身を乗り出して頷く。興奮気味のマリネを見て、レヴィンが大きい音を立てて咳払いをすると、はっとしたマリネはすっと席に座り、レヴィンのほうを見る。
「話を戻すぞ。要するにこの試験では、チームの連携を見れればよかった、そういうことか?」
「おーぉ。レヴィンにしてはまともじゃん。みんなの魔法は知ってるけど、クラスは人数多かったから個々で頑張る!!!だったじゃん?」
「そうですね、去年まではずっとクラス単位で魔法を使ってみるみたいな感じでしたしね」
マリネの言葉にエリオは思い出すようにゆっくりと頷く。マリネは満足げにエリオを見て頷きながら話を続ける。
「でしょ、でしょ?で、これからチームってなるんだったらそうはいかないじゃない?だから、まずお試し試験だったわけでしょ?なら、ウチのチームはこんだけ和気あいあいとしてるんだし、連携取れないわけないわよ」
「なるほどな、だいたい分かったぜ」
レヴィンは納得したようにニカっとマリネに笑顔を見せると、マリネもレヴィンと視線を合わせてニイっと八重歯を見せて答えた。一瞬の間の後、マリネは視線を戻して澄ました顔で手を仰いだ。
「そ、れ、に、ぃ、どうせこの後の試験でチームの人数増えるんだよ?だとしたら今反省しても、なーんも意味ないのよ」
その説明にみんなは納得して頷いた。しかし、一拍を置いて、ヒメカが首を傾げて神妙な顔をする。
「・・・ん?チームの連携を試す試験なのに、マリネは一人ほっつき歩いてたってことであってるかしら・・・?」
ヒメカは俯いて思い出すようにつぶやくとだんだんピクピクと眉毛が動き、マリネに鋭い視線を向ける。ヒメカの言葉にエリオも何かを思い出した様子で、バッとマリネのほうを向く。
「そういえば・・・、僕がレオの攻撃を盾で防いだのは、マリネさんが来る前だよ!?なのになんでさっき僕の盾がレオの攻撃を防げたのを知ってたの・・・!?」
「んーン?そうだっけね?ウチはちょーーっと調査に出てただけだよ~?」
マリネが八重歯をニッと見せながら笑みを浮かべると、みんなは安堵の表情を浮かべた。
「おっ、いつものマリネだな」
「もぉ、ごまかしてんじゃないわよ!!!!マリネなんて知らない!!!!」
「ヒメカはウチのこと信じてくれないんだぁ。ウチは悲しいなー。リーダーやめちゃおっかなー。あ、それとも、ウチと同じチームは嫌になっちゃった?」
「え、ちょ・・・」
空気が落ち着き始めたのも束の間、マリネがニヤニヤとした顔でそう言ったが、思いがけないその言葉にヒメカは凍り付いた。ワンテンポ遅れてみんなが席を立つと、マリネの周りに集まる。
「ちょ、ちょっとマリーちゃん!?」
「マリネさん!?」
みんなの焦った様子を見てマリネはふうと大きく息をつくと、ヒメカに顔を向けなおす。
「あーぁ、ごめんって。ヒメカと別チームなんてウチが困るもん。意地悪言ってごめんな?」
「・・・いいわよ。もぉ。マリーのバカ」
――ガラガラ
勢いよくドアが開くと、ノーラン先生が入ってきた。
「お前たちまだいたのか~。とっとと帰れ~。帰る時間とっくに過ぎてんぞ~」
「え~ぇ!!!!ウチとマリーさんの時間が!!!」
「とりあえず学校から出やがれ。明日からはチームの時間だからそこでやれっての」
「ぁーあ。今日のウチとマリーさんの時間が・・・」
ノーラン先生にみんな追い出されると、みんなそれぞれ帰路につくのであった。




