第六話 「心を見透かす魔法」
ダニエルはふうっと息を吐き出して、俯きながら呟いた。
「厄介」
「ほーぅ?どの口が言ってんだか」
ダニエルの言葉にマリネは呆れながら肩をすくめる。マリネに顔を合わせることなくダニエルは続けた。
「いつか」
「んーン?」
マリネが片目を開いてダニエルのほうを見ると、ダニエルは拳をギュッと握りしめていた。
「・・・・・・解放させてみせる・・・・・・」
「ふーン。じゃあね、ダニー」
よろよろとダニエルが歩き始めると、仲間たちはさっとダニエルの元に集まって、肩を貸して去っていく。その姿を見てマリネは手を上げてゆっくりと手のひらを回して別れの挨拶をする。
「はぁ。ようやく落ち着ける・・・」
ヒメカは全身の力が抜けてドサッと地面に座り込む。マリネはゆっくりとヒメカに近づく。ゆっくりと腰を下ろすと、ヒメカを嘗め回すように全身を見て、口に手を当てる。
「あーぁ!?ウチのヒメカがこんなにも痛めつけられてる!!!」
「ほんとね、こんなにボロボロなんだよね。ね?マリー?」
「そうねぇ?」
「・・・ここはあなたに蹴られたんだけど・・・?」
ヒメカがわざと背中を摩りながら、じとっとマリネのほうを見ると、マリネはそっとヒメカから目をそらした。
「ちょっとぉー?それはごめんなさいなんだけど、仕方ないんだって。ね?許して?」
マリネは自分が蹴ったヒメカの背中をいっぱい摩りながら、ヒメカに上目遣いで訴えかけた。ヒメカはふっと息を吐き出して、柔らかな表情を見せる。
「しょうがないな~、そういうことにしといてあげる」
「さっすがウチのヒメカ!」
マリネが上機嫌にヒメカの背中を労わっている。ヒメカはありがとねと呟きながらダニエルたちが去っていったほうを見つめた。
もぉ。なんて日なのかしらね。それにしてもダニエルって人はマリネとどういう関係なのかしらね。
頬杖をつきながら首をかしげていると、背中をさすっていたマリネがニヤッとしながらヒメカの顔とダニエルの去ったほうを交互に見る。
「あーぁ。ウチとダニーの関係が気になる!って顔してるわね?」
「なっ・・・!?」
ヒメカは目を丸くして体を跳ねさせると、マリネはヒメカの頬をツンツンと人差し指でさした。
「ヒメカの顔に書いてあるよーぉ?隠すことないからいうけど、ただの腐れ縁、幼馴染よ」
「マリーに幼馴染なんていたの!?」
ヒメカがバッとマリネのほうを見ると、マリネはにっこりと笑顔を見せる。
「生きていればそれくらいいるでしょ?」
「そうだけど、マリーと今までいて全然喋ってるとこ見たことないわよ」
「仕方ないじゃない?あんなガッチガチな鳥かごの中にいるやつじゃさ。ウチなんかと合わないからなー」
マリネがないないと手を仰いで見せると、ヒメカはふーんとダニエルたちが消えていったほうを見つめた。
「あらーぁ?メルヘンチックな展開でも期待しちゃってたかしら?でも、ごめんなさいね?ヒメカのご期待には答えられなくって」
マリネは残念でしたと言いながらヒメカの頭をゆっくりと撫でた。ヒメカは撫でているマリネの手を払うと立ち上がる。
「ちっ、違うわよ!!マリーの男事情なんて興味ないわよ!」
「へーぇ?」
マリネはすっとヒメカの後ろに亡霊のように立ち、そっとヒメカの肩へ手を置いた。ひぃと金切り声をあげてじわじわとヒメカは後ろにいるマリネに顔を向ける。マリネは見たこともないくらい冷たい笑顔を浮かべている。
「あ、ちょ、ちょっとした言葉の綾よ」
「ほーぉ?まぁ、いいんだけど?」
「えっ、許してくれ・・・る?」
「ない」
マリネは冷たい笑顔とともにヒメカを思いっきり抱きしめるように両手を広げた。ヒメカはすかさずマリネの両腕から抜け出してダニエルたちの去った方向へと逃げていく。
「待ちなさい?ヒ・メ・カ!!!!」
「お断りします!!!!!」
ああああ!!!終わった・・・!こうなったらマリネはもう止まらないんだった・・・!私のドジーー!!!
ヒメカが全力で走って逃げ続けるも、チーターのように猛追してくるマリネに足元が震えて、ヒメカはコケてしまう。四つん這いになっているヒメカにマリネは近づいてヒメカの目の前でしゃがみ込み、ヒメカの顔を覗いた。
「さーぁ?天に捧げる祈りは終わったかなーー?」
「あああああ!!!ごめんね!!!マリー!!!」
「ふふふふ~!!!」
マリネがゆっくりとヒメカに抱き着こうとしたその時。
――ザッザッザッ
ヒメカとマリネが複数の足音がしたほうを向くと、そこにはエリオと高身長で髪の毛がボサボサの男性が立っていた。
「ちょっとマリネさん!!!何してるんですか!!!」
「あらーぁ?エリオがきちゃったのか。残念」
「マリネさんとヒメカが全然戻ってこないから探しにきたんですよ!!」
マリネは残念そうに今にも抱き着きそうな両手を開いてヒメカを解放した。
た、助かったーーー!!!エリオナイスーーーー!
ヒメカは目を輝かせながらエリオにグッと右手を出すと、エリオは、ハハハと苦笑いしながら人差し指で頬をかいた。当然のごとく、エリオにはマリネの今にも殺しちゃいそうな鋭い視線が刺さっていた。
「お前たち、こんなところで何してんだ。試験も終わったんだ。さっさと教室に戻れよなー。めんどくせぇ」
ボサボサの髪を掻きむしりながら、面倒くさそうに言い放つのだった。




