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1ダメしかでない私の魔法で弾いたら最強魔法になった!?  作者: 星燈 紡
第一章 入学編

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第五話 「敗北者にならない魔法」

 男は姿を現すと、腕を組み、黒ブチ眼鏡をクイっと元の位置へと戻す。そのまま手を額に当てて、やれやれと溜息を吐き捨てる。


「おーぉー。なんだそのどうしようもないなーみたいな呆れた感じは?」

「どうせ分からない」

「相変わらず愛想もなければ言葉もないじゃんねぇ?」

「そう?」

「ほーんとぉ、あんたね~~!!そういうとこぜんっぜん変わんないのね~」

「・・・それは傷つく・・・」


 マリネの知り合いにあんな黒ブチ眼鏡かけたがり勉くんとかいたっけ・・・?そもそも同じクラスにいたっけ・・・?


 マリネはそっとヒメカの前に立って、ジャケットについた土を払って、腕につけている黒の時計の位置を戻すと眼鏡の男を睨みつける。


「まーぁ、いっか。しっかし、あんたのとこのチームだったとはねぇ。めんどくさいったらありゃしない」

「そうだね」

「でさーぁ?お互いにそのまま立ち去ってもいいんじゃない?そっちのほうがお互い有意義な時間になるでしょ?もう試験時間も残り少ないはずだしねぇ。そっちのチームは二人も落ちてるんじゃ、こっちにはウチとヒメカいるわけだし、あんた一人じゃ勝ち目ないわよぉ?」


 マリネが右の瞼をヒクっと動かすと、すかさず男がマリネの右目を指さした。


「・・・嘘・・・」

「はーぁ。だからめんどくさいのよねー」

「いつも嘘をつく時のクセ」

「本当にうっざいな~」

「・・・傷つく・・・」


 黒ブチ眼鏡の男はあからさまに落ち込んだようで顔を下げてしまう。マリネは勢いよく男に突っ込みを入れる。


「乙女か!!!!ダニーはもっと男らしくあれっての!名前はかっこいいんだしさー!」

「・・・・・・ダニエルだ・・・・・・」

「あーぁー。はいはい・・・って、あっ!!!!しまった!」


 顔を上げたダニエルの目が真っ赤に染まっているのに気づいたマリネは、即座にヒメカのほうを見る。


「ごめん、ちょっと我慢して?」

「え?・・・マリネ?・・・・っ!?」


 ヒメカの言葉の途中でマリネはヒメカを木の根元まで蹴り飛ばして、顔を上げてダニエルと向き合った。


「・・・・・・いった・・・・・!?なんなの!?」


 ヒメカはぼやける視界のなか、必死に瞼を開いてマリネのほうを見ると、彼女が一切こちらを気にすることなく冷や汗を垂らしていることに気づいた。


 マリネが血相を変えて私を蹴るなんて・・・。それにあんだけ私のことをいつも、いっつもいじるマリネが、これっぽっちも私のほうを見ないでダニエルばっかり見てるってことは・・・それほど危険だってこと!?


「んーン、ごめんねぇ?ヒメカ。ウチとしたことがダニーの準備に時間を与えちゃったみたい」

「・・・油断・・・」

「ダニーのそういうとこが嫌いなんだよねぇー」


 またもダニエルはしょげて顔を下げてしまうが、今度は手からナイフの形をしたものを投げた。マリネは銃を瞬時に構えて発砲し、弾丸でナイフを弾くと、周りの木々に刺さる。


「ほーんとちゃっかりしてるね~?石のナイフ投げてくんだもの」

「そうかな?」

「そうよー。準備周到になったら仕掛けてくる。あんたの常套手段じゃない」

「・・・だとしたら?・・・」


 ニヤリと笑い、拳を握りしめているダニエルに気づいたマリネがばっと後ろを見ると、いつのまにかダニエルが最初に投げた石のナイフがマリネの影の位置に刺さっている。溜息をつきながら上を見上げるマリネを見て、ヒメカが立ち上がって近寄ろうとすると、マリネは声を荒げた。


「近寄らないで!ヒメカ」

「マリネ・・・!?」

「あーぁ、これは動けないなー。まさか、ナイフを弾かせて油断させる作戦とはねー。つけてた細い糸でナイフを引っ張って私の影に刺すなんてね。まいったまいった」


 ダニエルは握りしめていた拳を解いて、片方の手で眼鏡を指で押さえ、もう片方の手でマリネを指さした。


  『屈し 平伏し 這いつくばりながらも

   一つの解を 積み上げ 編み出せ

   あまたの願いに 己が望む未来を

   組み込み 組み上げ 創造し 創作せよ


   解放せよ 解禁せよ 解法せよ

   全ての願いに 我が手で壁を 箱を作れ

   閉ざされた空間から 己が手に願いを込めよ

   暗がりの中から 光を紡ぎだせ』


「・・・・・・渇望する(イルムーロ・デル・)(デジィデーリォ)・・・・・・」


 詠唱が終わると同時にダニエルの手から新たなナイフが投げられる。マリネが銃弾で弾いた石のナイフと新たにダニエルが手から投げた石のナイフが轟音を立てながら広がって石の壁を築いていき、マリネを四方から囲む箱として閉じ込めてしまった。


「マリネ!!!!・・・あのマリネをいとも簡単に閉じ込めちゃうなんて・・・」


 ダニエルがマリネに向けていた手の平をゆっくりと開いてから素早くグッと閉じた。


「マリネ---!!!!!!」


 ヒメカが叫ぶ。突然、マリネを囲っていた石の中央が紅く染まり、弾丸が石でできた箱を突き抜けてダニエルを目がけて飛んでいく。ダニエルは咄嗟に体を反らせるも、反動で倒れてしまう。すると、マリネを囲っていた岩たちは大きな音を立てながら一面ごと倒れていく。


「うーん。ごめんね?ヒメカ。驚かせちゃった?」

「・・・・・・えっ?」

「あーぁ。ダニーのせいでウチのヒメカが泣いちゃったじゃない」

「知らん」

「まーぁ。でも、ヒメカの見れない姿見れたし、大きな収穫もあったし、ウチは満足、満足~!」

「・・・これでも言える?・・・」


 ダニエルが指パッチンをすると、ヒメカの後ろに大きな人影が現れて、ヒメカの両手を縛って身動きできなくさせていた。


「ちょ・・!?ちょっとなんなのよ!離しなさいよ!」


 じたばたと足をばたつかせ、大きな胸を揺らすヒメカを見て、ダニエルはヒメカからおもむろに目をそらしつつ、縛っていた手に力を入れる。


「・・・大人しくして・・・」

「・・・っ!?」


 ---!?コイツいつの間にっ!マリネに気を取られてちゃってたとはいえ、気配を殺すのうますぎ・・・!!!これにも気づけないなんてほんとに・・・!私って役立たず・・・!!!!


「はーぁ?ウチのヒメカをいたぶっていいのはウチだけなんだよ?ダニー」

「ちょ!?マリネさん?」


 不満げに言うマリネを呆れた表情をしてヒメカが見つめる。頭を抱えて溜息をつくダニエルはちらりと横目にマリネを見た。


「知らん、それよりもいいの?」

「ン?」

「君の大事なものを取った」


 拘束したヒメカをマリネに見せつけるように前に出す。マリネは肩をすくめながら鼻で笑う。


「まーぁ?どうせそんなこったろうと思ったよ、ダニー」

「・・・じゃあこれも?・・・」


 ダニエルがさらに指パッチンをすると、ダニエルと同じチームメンバーがエリオを捕まえて姿を現す。いつの間にかヒメカもダニエルのチームメンバーに渡されていた。


「そちらは二名捕まっていて、もうこの場にいるのはあなた一人です。諦めてください」

「そういうこと」

 

 ダニエル達はそう言うとマリネを囲う。マリネは視線だけで周りを見渡す。


「そーぉね?あんたが敵ならそうするでしょうね」

「マリー!!!もぉ、何呑気なこと言ってるのよ!!!」

「まーぁ、まーぁ。ヒメカ落ち着きなって」


 マリネは自身の唇に人差し指をあててヒメカに静かにするように促すと、瞬時に銃を両手に構えた。


「ウチのことをよーぉく知ってるダニーだけど、逆もまた然りなんだよ!!!!未来への(ブンクーネル・)風穴(フゥートゥーラ)!!!」


 ダニエルは咄嗟に動くことができず、ふたたび腕をマリネのほうへ向ける。


「・・・・・・渇望する(イルムーロ・デル・)(デジィデーリォ)・・・・・・」


 マリネの弾丸をダニエルは分厚い一枚の岩の壁を作って防ぎ切った。


「ほぉーらね。あんたが詠唱をした後は特に動きづらいことなんてこっちだって把握済みだっての」

「厄介だ」

「んーン?ダニーにだけは言われたくないねぇ!!!ウチも女の子なんだしもっと気の利いた言葉で言ってもらいたいもんだねぇ??」

「・・・じゃあ、また・・・」


 ダニエルが言葉を告げると、マリネに向かって手の平を振る。すると、ヒメカと同じチームのメンバーを捕まえていたダニエルの仲間たちが待ってましたと言わんばかりに一斉にマリネに詰め寄る。


「マリネー!!!!!」


 ヒメカが思わず叫ぶと、マリネはニヤッとしながらヒメカに腕時計が見えるように腕を立てた。攻撃がマリネに当たりそうになった刹那。


―――そこまで!!!!模擬試験を終了とする!―――


 ヒメカたちのいる森、いや全域に先生の試験終了の宣言が響き渡ったのだった。

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