第四話 「獲物にしちゃう魔法」
レオは弾き飛ばされた拳を見るなり、姿の見えないヒメカのほうを睨みつけて舌打ちし、そのまま距離を詰めた。
「何をしたか知らねぇが、奇跡なんか起こして延命しやがって、本当にお前魔法使いかよォ!?奇跡使いにでも転職したらどぉだァ???」
「ふんっ、でも私が落ちてないのが何よりも事実よね?それとも、もぉ、力を使い切っちゃって弱くなったのかしら?」
「ムダな強がりはてめェの首を自分で締めるぜェ?こんだけ近けりゃ奇跡なんて起こせねぇだろうがよ!!!」
そう言ってレオが拳を構える。そのまま勢いをつけて殴ろうとしたその時、さっと拳を手で制するサングラスをかけた女が現れた。
「なっ・・・!?」
レオはゆっくりと顔を上げて拳を止めた人物を睨みつけるとサングラスをかけた女はふっと不敵な笑みで返すのだった。
「よーぅ。ウチのもんが世話になったねぇ~~?」
「マリネ・・・!?」
ヒメカの驚く声にマリネはニッと小悪魔っぽく笑いながら振り返って、手のひらを振る。
「おーぉー?ウチのヒメカがこんなに・・・っぷ」
「な、なによ、もぅ!!!しかもあんたのじゃないし!!!」
「いーやーぁ?ツンツンしたお嬢様のヒメカが・・・ぷぷぷ・・・」
「なによー!ハッキリと言いなさいよ!」
「あーぁ、大惨事、大惨事・・・っとね。ま、とりあえず、さっさとコイツ片付けちゃおっか~」
マリネが不敵な笑みを浮かべてレオを見つめる。瞬時にレオはマリネの手を拳で払い、距離を取るように後ろへ飛びのいた。
「おーぉー?さっきまでの威勢はどこに行ったんだ?」
「うるせェ!てめェが俺とやるってんならそれでもいいぜェ!?そこの囮と一緒に沈めてやんよォ!!!!」
マリネは眉毛をピクリと動かし、一瞬にしてレオに詰め寄ると、レオの喉元へ銃口を突きつける。同時に、もう片方の手にある銃でサングラスを動かして、見下すようにレオに視線を合わせると、威勢のあったレオの顔が次第に歪む。
あーぁ。知ーらない。マリネ怒らせるととことんやっちゃうからなー。銃を抜いたのも詰め寄ったのも見えないくらいキレてるもんなー。私まで被害被らないようにしなきゃね、もぉ・・・。巻き込まれるなんてまっぴらごめんだもんね。いつも私の体を自由にまさぐるし。ストレス発散で。
「んーン?ウチとやりあってもどうせ勝てるしいいんだけどさ?だ、け、ど、ヒメカへのこれ以上の攻撃は許されないな~~?」
マリネはニヤリと尖った八重歯を出して、獲物を見つけた蛇のように舌なめずりをする。
「まーぁ、囮だろうがなんだろうがヒメカはウチの大事な子なんでね?・・・倒されちゃったらさ?・・・・・・ウチが楽しめないじゃない!!!!!」
「・・・っは!!!!!うるせェ!!!1ダメージしかだせねェ、クソ雑魚魔法使いには変わりねェよなァ!!?!?!!!」
「・・・威勢がいいのは勝ってるときだけにしな?」
「なんだァ?」
「お前はウチに狩られる獲物だということをわかってねーぇーな?」
マリネは大きく瞳孔を見開くと、口元がだんだん開いて不敵な笑みが完成した。
「あーぁー。躾がなってない駄犬だこと。まーぁ。ちょうどいい、このままウチのフルコースを喰らうといい」
レオは両手両足を地面について飛ぼうとするも、背中にマリネが乗って抑えつける。
「・・・ぐァ!?!!!!!」
「おーぉー。そのまま飛んで吹き飛ばそうなんていい度胸してるーぅ!だ、け、ど、そんなことはさせない・・・ま、できないか!」
マリネの押しつぶしに耐えるレオなど知らないと言わんばかりに、銃口をレオのお尻へと突きつけて目を閉じる。
『茨の道 行く手を阻む 暗き闇
己が手で 撃ち砕き 手繰り寄せよ
滴る甘美な血 零れる悔恨の涙
一滴も残さず 我が手に集めよ
破壊を 壊滅を 粉砕を 与えよ
潰崩し 潰滅し 破潰し 絞り取れ
我が苦汁や苦悩さえも 力へ変え 過去を流し
かの弾丸へに込め 己が信じる未来を 貫徹せよ』
「未来への風穴!!!!!」
「ーーーっ!?!!!」
「ふ~~ぅ~~」
うーわぁ。もぉ、レオもご愁傷様ね。直撃で喰らうなんてなんて不憫な。あたしたちのボスに喧嘩売るなんてね。さてと、さっさとエリオと合流してっと・・・。
レオの吹き飛んだことなど見向きもせず、マリネは息を吹きかけて銃口から上がる煙を消し飛ばす。サングラスを外すなり、ヒメカのほうを振り返る。
「ヒーメーカー!!!!」
「ひっ・・・!?マリネ??!!!」
「ヒメカ・・?マリネじゃないよね????」
「さっきはよかったじゃない!」
「今は二人きりだよ―ぉ?」
「マ、マリー・・・」
マリネは険しい表情からマリー呼びをされると一変して、にこやかな笑顔へと戻っていく。ヒメカはおっかねぇとふうと息をつくなり、ゆっくりと立ち上がろうとすると、これまたスッとヒメカの後ろに周り、ヒメカを自身の膝へと座らせて抱きかかえる。
あーもぉ。始まった。どうせこの戦いなんてすぐ終わっちゃうし、マリネにおもちゃにされる前に早く逃げちゃいたい!!!
「ほーぅ?そんな足引きずってどこにいこーとしてんの?」
「いやっ!エリオが!!!あっちにいるから!!!」
「えーぇー。そんなの他のメンバーにまかせよーょ?足引きずってんじゃん?」
「まだ模擬試験中でしょうが!!」
「誰もみてないからいーぃじゃん!」
ヒメカの抵抗も虚しくヒメカの顔をマリネの胸元に寄せて頭をゆっくりと撫で始める。
「も、もぉ・・・!やめなさいよっ!!!」
「えーぇ。ウチのヒメカが大変な目にあったんだよ?これくらいはしないとねーぇ?」
「す、するなー!!!」
「むーぅ。ヒメカの反抗期・・・!っは!」
「嫌な予感しかしない・・・」
「あれか!よーしよーし!よく頑張ったねー!」
「ちっがーう!!!!・・・ひっ・・・!!!」
ヒメカはされるがままでマリネはご満悦の表情でエスカレートしていく。
「ちょ、ちょっと!そろそろやめなさいって!」
「えーぇ?だってこんなに白くてツヤツヤな首筋はウチのものだもん!」
「だっ、誰がマリーのものですか!!!」
「ウ、チ、の、も、の!!!!」
ヒメカの髪に潜るようにマリネはヒメカの背中へと頬をスリスリとさせる。その姿はまるで猫のようだった。
「ああああ!!もぉ!!!舐めないで!!!」
「んーン!首筋がおいし~~ぃ!!!」
「ちょ、ちょ、ちょっとマリー!!!ほんとにやめてってば!!!」
「ほんとーに、ヒメカってば恥ずかしがり屋なんだから~~!」
「誰だって同じでしょ!!!!」
「んーン!!!ヒメカは喜んでるんだもの~~!それにしても本当に同じ女の子かってくらい大きい~~~!!!いーぃな~!」
「もぉ!!!!!やめてってばあああ!!!」
ヒメカが叫ぶと、マリネははっと視線をレオの飛んで行ったほうへ向けて、ヒメカの口を手で塞いで叫び声を殺させる。マリネは素早く両手に銃を構えて飛んできた二本のナイフの形をしたものを撃ち落とすと、さっとサングラスをかけて立ち上がった。すると、レオの飛んで行ったほうから一人の影が近寄ってきた。
「・・・・・・通じないか・・・・・・」
「あーぁ。ヒメカとのお楽しみタイムは一旦おしまいか~」
「・・・・・・そのまま大人しくやられて・・・・・・」
「誰がそんなヘナチョコな攻撃にやられるかって-ぇの!!!」
木々の暗闇から黒ブチ眼鏡が輝いていた。




