第二話 「窮地を救う魔法」
あれ・・・?当たって・・・ない?生きてる・・・?なんで?
――0――
「ほーら。また一人で動いてると危ないって、ヒメカ。同じチームなんだから一緒にいこうよ」
拳を浴びるかと思いきやどこか間延びした声がして、はっと見上げる。間延びした声の主はレオの拳を手のひらに呼応するように開いた十字入りの光のシールドで防いでいた。
「おそいんだよぉ」
「ヒメカさあ......」
「うるさいっ。あんたたちが全然来ないせいで、私の服がこんなに汚れちゃったんだけど、もぉ」
「心配するのそこなんだ・・・」
「エリオがトロイのが悪いんだもん、他のやつなんて来てもいないじゃない!!」
「ヒメカさあ......」
エリオとヒメカが痴話喧嘩に夢中になっていると、レオがエリオの光のシールドにさらに拳を当てて割る。すぐさまエリオとヒメカは拳に当たらないようにバックステップで距離を取った。
「なんだァ?このクソ男。横から茶々入れやがって。大人しくやられとけばいいものを!」
「ほんっとだよねぇ。せっっっかくかっこいいところを見れたと思ったのに!」
「1ダメージしかだせないただの囮なんか庇いやがってェ」
レオはミズキの元に飛び、ミズキはレオに寄り添いながら、エリオとヒメカを睨みつけて指さす。
「どうせその無駄な大きな胸板で守られるんだからいらないんだっっっての!」
「っぷはァ!ミズキ、そいつは傑作だなァ!」
「ほら、もぉ。あんな頭お花畑のバカップルにこんなこと言われて......!めっちゃ気分悪いんですけどぉ!!」
ヒメカはエリオのほうを睨みながら、レオとミズキのほうを指さした。
「いてっ!叩くことないでしょ!」
「あんたが遅いからよぉ!その分だと思いなさいよね!」
「ぼ、僕にそんなこと言われても・・・。これでも見つけてからすぐ来たんだよ?」
「ふんっ!私なんか放っておいて横からやればよかったでしょ、もぉ」
「ヒメカを犠牲にしてかい?」
エリオは真剣な表情でヒメカを見つめた。ヒメカはぱっとエリオから目を逸らして頬を膨らませる。
「それ以外ないでしょ?もぉ。あいつらが言うように私は1ダメージしかでないんだよ?」
「・・・」
「ちょっとぉ、黙ってないでなんかいいなさいよぉ!」
「あ~、いった!なんで僕の頬つねるの!」
「あんたが黙るからでしょ、もぉ」
「あんっっっの~?もういいかなっ?どっちみち、こ、こ、で、仲良く二人で死ぬんだからさぁ!」
「もう腹は決まったよなァ?こんだけ待ったんだからよォ?」
「ほんっと!レオってばやっっっさしい!ありがたく感謝しなさいよね?」
レオとミズキは同じコンビネーションを取る構えを見せると、エリオはヒメカの前に立った。手を天に掲げて、拳を握りしめ、顔の前に降ろす。
『光を求めよ 集積せよ 収束せよ 結束させよ
闇夜を照らす光となれ 道標となれ
我が身を挺して 投錨せよ 死守せよ
己の心と向き合い 皆と向き合い 光と向き合え
打ち砕かれぬ太陽となり 安寧の場を 皆が帰還する場を
己が心と体を捧げて 貫き通せ
腕が 足が 欠損し 信念が 希望が 揺らごうとも
奮い立て 己の意思を 信じて 貫徹せよ』
「凝縮した光!」
エリオの腕から出た光の盾が、ミズキの弓矢を弾いた。そのまま前進し、レオの拳を真向から防いだ。
「ほゥ?やるねェ!」
「私たちをちょっっっとくらいは楽しませてよねぇ!」
「あァ!いい準備運動になりそうだなァ?!」
レオはシールドごとエリオを吹き飛ばした。レオはヒメカとエリオの道を塞ぐようにして立ち、ミズキもレオの背中に合わせるように立った。
くそっ、分断されちゃったか。もぉ。この頭弱そうな女と一対一か。時間稼ぎに呪文すら使えない。どうするか。
「向こうは楽しそうだよねぇ。あんたの攻撃なんてこれっっっぽっちも怖くないからこっちは退屈しそうでつまんないなあ」
「......」
「あーあ。だんまりかあ。アタシい、レオと一緒にいたいから、さっさと死んでくれる?」
「うるさい、脳みそピンクなお花畑女が」
「カッッッちーん。やさしくしてればつけあがりやがって!」
「じゃあね」
「あっ!結局アタシから逃げるってわけ???」
ヒメカが背を向けて走り去るなり、ミズキは髪を止めていたヘアピンから二つ抜いて唇へ触れさせると、大きな光を纏った矢へと変形する。
「これであんたも終わりっっってわけねぇ!!!」
「ふっ、それはどうかしらね?」
「魔法クソ雑魚がほざくなっっっての!」
「まぁ?やってみればいいでしょ?」
「そんなノロマでアタシから逃げ切れると!思っっってんのかよぉ!」
ミズキが矢になったヘアピンを投げると、瞬く間にヒメカの目と鼻の先まで飛んでいく。ヒメカは振り返る間もなく被弾した。
――500――
キラキラと輝く三桁の数字がひとりでに遠のいていく。爆発した煙の先には人影が映り、数字とともに走っていた。
っいた~!もぉ。最悪。どんどん服汚れていくんだけど。本当に最悪。
「ん~~~?あんた、もしかして体力バカっっってわけえ?」
「あららぁ?なんか死んでないわねぇ?もぉ、ダメージもしょうもないわねぇ?しっかりと狙ったの?」
ミズキは目をガンと開いて、口元をヒクつかせ、拳を握りながら全身を震わせていた。
「っっっ~~!?いい度胸してんじゃない!!アタシの矢をまともに受けてもかすり傷のみなんて初めてだわ!!!」
爆風で吹っ飛びはしたけど、たいして痛くないのが救いかしらね。もぉ。それが救いになんてならないんだけど。と、そんなことより、大したダメージじゃないからそのまま走って距離を取るしかないよねぇ。
「逃げ足だけは早いわねぇ?それでぇ?ダメージは1しかでない、でも体力は有り余ってる......と。ほんっっっとに囮としか使えねえクズもいたもんだねぇ?魔法はクソだし、豊満な胸で仲間を誘惑することしか取り柄のないお荷物さんはとっっっとと退場しちゃいなよ~~~」
ミズキはバカにした笑いとともにヒメカを追いかける。
クソが......もぉ。言われなくたってわかってるわよ。私がお荷物だってことくらい......。
ヒメカは力強く拳を握りしめた。自分の長い爪で手のひらには血が滲む。
私だって何桁ものド派手なダメージ出したいわよ。誰が好き好んでこんな惨めな一桁、しかも1ダメージしか出せないままでいるんだってのよ、もぉ。
「ブツブツと呟いてそれが遺言でいいわけぇ?まっっっ、使えない囮じゃそれでいいか。囮役ご苦労様でしたぁ!!!」
「ヒメカ!後ろ!」
「......しまった......!」
「おっっっそいんだよ!さよならっ!」
ミズキはヘアピンを両手で計八本抜いて光の矢を形成していく。
――もぉどうなってもいい......!一か八か!!当たって!!!
「蝕む反抗心!!!!」
ヒメカは焦りで震える腕を必死に動かし、人差し指を立てて炎の玉を生み出した。声にならない高い声を出しながら炎の玉を飛ばし、弓矢と当たる刹那、開いた手のひらを握り締める。
――500――
爆音とともにミズキの頭上にはダメージが鮮明に表示された。
「っっっ―――??!!??」
まだ煙が立ち込めて場を支配している戦場で、ミズキの苦悶の声だけが響き渡った。




