美幸と自販機
~ルルン~
20代くらいの青年。
イラスト、アニメ、ゲームが趣味。
文章は丁寧に書き込むけど遠回りな表現は苦手。
小説の腕はアマチュアなので、優しく見守ってね。
美幸と自販機
あるところに、小さな小さな村がありました。
その村は東西を山に囲まれ、北側には美しい海が広がっています。
しかしこの村は村民およそ60人のうち、約7割が65歳以上という
いわゆる限界集落。
商店の営業も次々となくなり、今はとうとう1件もなくなってしまいました。
そのため3日に1回は食料を乗せた移動販売のトラックが、
月に1回は医療量トラックが、半年に1回は衣類を乗せたトラックが
村役場の前までやってきます。
なので村と町をつなぐ一本の道路は、電車もバスもないこの村にとっての
ライフラインかもしれません。
そんな、電気があるだけマシなくらいの田舎に、たった一つ自販機が
設置されることになりました。
最初にも紹介したように、この村は65歳以上の人が7割の村です。
10年ほど前は車で町に出かけていた人も、
今では歩くのがやっとという人も多いのです。
そのためこの自販機の設置は
週に2、3回しか食べ物や飲み物を購入できない人々に大いに喜ばれました。
この時、自販機は思いました。
「ったく。なんでこんなじじいばばあばっかの村に
いないといけねえんだよ!ぜってぇ儲からんって。
あーあ、もっと若くてカワイイ子がいるところがよかったなー!!」
...と、性格の悪い自販機はとても不満そうでした。
しかし当然自販機の声が人間に聞こえるはずはありません。
そんな自販機のことなどつゆ知らず、
設置された自販機にはさっそく村の人々がやってきて
次々と飲み物を購入していくのでした。
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自販機が設置されて数か月が過ぎた頃。
いつものように、飲み物を買いに来たおじいさんは、突然
自販機の前で倒れてしまいます。
しかし周りに人はおらず、誰も気づいてくれません。
この時自販機は思いました。
「...はっ。なんだよ。やっぱじじいじゃねえか。
俺の前で急に倒れてもらっちゃあ困るんだけど!!」
...そうして自販機は小さくゴトゴトと揺れます。
まるで邪魔だ、とでも言わんばかりに...
するとそのとき、自販機の近くにあった村役場の中から
小さな女の子がようやくおじいさんを見つけました。
「パパ...!ママ...!おじいちゃんが...おじいちゃんが倒れてる!!」
その声で、パパとママ、役場の人たちが駆けつけました。
すぐに救急車が呼ばれ、ますます人が集まってきます。
おじいさんは息をしていますが、意識がもうろうとしているようです。
すると倒れたおじいさんを見つけた女の子は
自販機のところに向かうとこう言うのです。
「ねえ、パパ!飲み物買って!」
「こんな時に何を言っているのだ、美幸!!」
パパも焦っているのか、いつもより強めの口調で返します。
しかしそれに負けずに美幸と呼ばれる女の子はこう答えるのです。
「ちがうよ!おじいちゃんのために買ってあげるんだよ...!」
その言葉に衝撃を受けたパパは、美幸ちゃんの言われた通り、
自販機で水を買うことにしました。
この時自販機は思います。
「あーあー、人がどんどん集まってきた...
って、あれ?!こんなときに小さな女の子とお父さんが
水を買ってくれた?!なんだー、この村にもカワイイ女の子いるやーん!」
こんな最低自販機だとも知らず、美幸ちゃんとパパは
急いでおじいさんのところに水を持っていきます。
そして美幸ちゃんは、おじいさんに水を飲ませてあげました。
するとおじいさんはゴホッと咳こんで、何とか意識を取り戻したようです。
ただ、救急車は最寄りの病院まで20分ほどかかるので
未だ到着していません。
そしてこの様子を見ていた自販機は思いました。
「あれれ、さっきの女の子、自分が飲むために買ったんじゃないの?
あの水は、さっきのじじいのために買ったの?」
人を助ける、ということのわからない自販機は思います。
「ねえ、そんなことしてどうするのさ。
あんなじじいを助けたいとでもいうの?!」
...すると美幸ちゃんは自販機の前に戻ってきて言います。
「ありがとう、自販機さん...
私のおじいちゃん、このお水のおかげで助かるかもしれないよ...!」
少女の目からは涙があふれています。
それを聞いた自販機ははっとしました。
「...なんて優しくて強い子なんだろう...
そうか、これが人を想う気持ちなんだね...
ごめんね、ごめんね....!」
すると自販機は突然ガタガタと揺れはじめ、取出口から
たくさんのジュースがあふれてきました。
自販機は泣いていたのです。
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それからおよそ10分。
おじいさん...いや、美幸ちゃんのおじいちゃんは無事病院に運ばれました。
そのまましばらく入院することになったものの、
美幸ちゃんのお水が効いたのか1か月ほどで退院することができたようです。
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おじいちゃんが倒れてから10年後の春。
美幸ちゃんはすっかり大きくなていました。
美幸ちゃんは、高校に通うためこの村を出て行くことになりました。
手続きをするため村役場にやってきた美幸ちゃん。
するとそこであのときの自販機を見つけました。
「あ、この自販機...私がおじいちゃんを助けた自販機だ...」
10年間設置され、ずいぶんと汚れていた自販機。
そっと近づくと、ひとりごとを言うようにして言います。
「...あの日ね、ちょうど1年生になる頃の私は...
それこそおじいちゃんが心配でこの村にやってきた日だったんだよ。
まあ本当は私が幼稚園でいじめられたこともあったからなんだけど...」
そうして話すのをやめ、もう一度自販機を見つめなおします。
「あはは、私ってばなんでこんな話を自販機にしているのかなぁ。
もしかして私っておかしい?!」
そのまま自販機に触れたかと思うと、一歩、二歩遠ざかって今度は
反対側を向いて小さく呟きます。
「あのね、結局、おじいちゃんは、もう、いないんだ...」
自販機からは彼女の表情は見えないはずなのに、
泣いていることがわかります。
それを聞いて自販機は思います。
「そう、だったんだ...何もできなくて、ごめんね...
この10年間で、僕は、人間という生き物の温かさを知ったよ...
人間は、大切な人を守るために日々頑張っているんだね...」
すると、自販機の取出口から、あのときの水が
ゴトン、と落ちました。
美幸は驚いて振り向くと、取出口から出た水を見て言います。
「...自販機さん、ありがとう...!
私、おじいちゃんの分まで頑張るね...!!」
そうして水を取ろうとしましたが...
「ううん、やっぱりタダではもらえないよ。お金入れなきゃ....」
コインの投入口にお金を入れようとする美幸。
するとそのとき、美幸の頭の中からおじいちゃんの声が聞こえてきました。
「美幸、あんたはエライねえ...
お金はワシが払うから、この水を持っておゆき...」
その声で涙した美幸は、ありがとうと呟くと笑顔でその水を持って帰ります。
自販機の中には水の代金、100円と50円がキラキラと輝いているのでした。
おしまい。
はじめまして、ルルンです。
クスッと笑える作品を作りたくて文章を書きはじめました。
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