第九話
たくさんの作品から見て下さり、ありがとうございます!
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(大丈夫。聖華会はまだ続くわ。その間にチャンスは何度もある)
翠蘭は、簡単には諦めなかった。
しかしながら予期せぬ出来事は、これからが本番であった。
少し離れた場所に、大きな倉庫がある。
倉庫横には馬小屋があり、そこから倉庫裏へと続く道が見えた。
今は深夜。
休んでいる馬達を起こさないように、身体中の神経を駆使した。
馬が暴れないか心配だったが、意外にも彼らはとても大人しかった。
(まるで馬達が、この人を知っているみたい… 懐いてる?)
そう思いながら、翠蘭はある結論に至った。
「あなたはもしかして、厩番の方ですか?」
「へ? 何故… そう思った?」
「あ、いや… お馬さん方が非常におとなしかったので… 慣れているのかなと思い… 」
「ふふ… そうか」
(そうか? それは応えって事で良いのでしょうか!?)
はっきりとした応えはなかったものの、翠蘭もそれ以上追求しない事にした。
余計な会話を避ける為だ。
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「それで? あの場所で何を?」
(やっぱり、そう来ますよね… その疑問)
「実は… だっ… 」
(脱出って言うつもり!?)
「だ… こうする何かを見ました。蛇行する何かですよ。ほらっ、蛇行と言ったらなぁに?」
バグりつつある脳が、出した結果だった。
連想ゲームのような口調で手拍子をし、その答えを促すという奇行に走ってしまったのだ。
「蛇行? … まさか… 」
「そう! それは、へぶぃ… 」
「龍か!?」
「そう、龍… へ? 龍!?」
思いがけない応えに、驚く翠蘭。
まさかそのような予想だにしていない、ましてや空想上の生き物の名が出てくるとは、思わなかったのだ。
しかし彼は本気だった。
本気で話を進み始めたのだ。
「それは昇っていたか!? それとも下っ… 」
「ちょちょちょちょっ待っ… 」
しかし、翠蘭は思った。
この場を凌ぐには、ちょうど良い口実ではないか?
何でも良いから、罰せられないように方向転換できれば、万事休すなのではないか?
しかも、彼の方から喰いついているじゃん。
そう、思った。
よって、以下のような言葉を口にする事を決めたのだ。
「昇っ… ていたような? そうでないような… ?」
「まさか、本当に存在したなんて……… 」
深刻そうに、そして悦びを帯びたような表情で、青年は口を覆った。
「そうか! だから、空を見ていたのか! 曇天が好機か!? それで!? その龍は、一体どのような色で、どのような大きさをしていた!?」
興奮が最高潮に達していた青年は、翠蘭の両肩をホールドして離さない。
「え? えと… 」
何だか居た堪れない気持ちになって来た翠蘭は、目を逸らし口籠もる。
「何処へ向かった!? 北か!? 西か!? そうか! もしかしたら、南西にある例の洞窟じゃないか!?」
(洞窟? あぁ… 何の事だかさっぱり… )
青年の怒涛なる質問は止まらない。
ある意味、脱走するための尋問より激しかった。
その手は強くなるばかりで、段々と顔も背けられない程に、接近していたのだ。
(まさか龍なんて、本当にいるはずない。いくらなんでも、やっぱりそんな大嘘付けな… )
「はい、そうです。その龍は、南西へと向かいました」
付いた。
それも最も簡単に。
翠蘭は、その口から大嘘をぶっ放したのだった。
無の境地をこんな所で発動したのである。
「色は… その、暗くてわかりませんでしたが… 」
青年はその言葉に、明らかに表情から有頂天になる。
「そ、それは誠か! 詳しくっ詳しく聞きたい!」
「え? それはもちろん構いませんが… 今から… ですか?」
時刻は、既に日を跨いでいた。
しかし翠蘭の身分上、断るどころかあの状況下を誤魔化す事が、最優先だったために首をスッと縦に下ろした。
「わ、わかりました」
「あぁ、確かにさすがに遅いな。聞きたいのは山々だが… 今は聖華会の最中だ。明日も朝が早い… そうだな、明日の亥の刻に、あの石段が出来た場所で待ち合わせよう」
(え? それって、あの… 脱走しようとした場所よね? 亥の刻か… と言うと夜の十時くらいね。うん… 行かなきゃ、ダメよね… )
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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