第七話
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こうして、翠蘭はその身を医務室へと捧げていた。
軽快な足取りが、隠せない程だった。
非常に軽く、浮くのではないかと思う程であった。
聖華会の準備は、滞りなく進んでいった。
そこにはいつもの医務室の姿はなく、散在としていた。
特に薬品や包帯などの、物で溢れかえっていた。
もちろん、処置できる場はそのままである。
広い王宮内にて、いつ何時、お客人を処置出来るかが重要視された。
そしてその結果、至る所に医務室の出張所が置かれる事となったのだ。
もちろん、建物を新たに作るわけにもいかない。
天幕によって、簡易的に造られた出張所。
それでも、かなり立派な造りであった。
しかし、鍵はない。
つまり、大事な薬品などの物資は、鍵付きの医務室でしか保存できない。
よって、医務室は ’本部’ とされた。
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そして、翌日。
続々と他国の者達が入国する事となる。
聖華会。
本来なら、四年に一度執り行われる政だ。
しかし、前回は先帝が亡くなった後の初めての聖華会であったがために、中止となっていた。
その一つ前、つまり八年前の聖華会は、先帝が取り仕切っていた。
翠蘭はその時、齢九。
祭りの ’ま’ の字も参加させてもらえなかった。
そして、体の幼い翠蘭は、この時に決めていたのだ。
聖華会が最大のチャンスだと。
十分に下調べをする事に、専念した。
今年がまさに、その四年後である。
翠蘭にとっては二回目の祭りであり、最大の脱走実行期である。
聖華会自体は、約二週間程催される。
つまり、その間…
(逃げ放題なのだ)
そう、未だ安易に考えている翠蘭。
もちろん、そう簡単には行かない。
それがこの王宮という、重々な籠の中なのだから。
それでも、その機会がいつもより多いのは確かだ。
それから更に一週間後。
五カ国全ての来訪者が揃った。
ベールに包まれたままの、次期皇帝がその言葉を発した。
「皆、よく集まってくれた。息災で何よりだ」
(まだまだ若い)
そう思うのは、とある国だけではなかった。
齢十九になろうとは言えど、皇帝になるにはまだその教えが、行き届いているようには思えなかった。
「今日に至るまで、様々な事があった。久しい会だ。これまでの事、この聖華会にて詳しく聞かせてもらいたいと思っている。
これより、四年に一度の聖華会を執り行う」
この言葉により、本日から聖華会という名の、政が始まるのである。
そして翠蘭にとって、一世一代の ’祭り事’ が訪れる事となる。
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それからというもの、忙しない日々が続いた。
王宮中、とんでもなく忙しなかった。
(こんなの聞いてない!)
翠蘭はそう思いながら、大量の備品を各医務出張所へと運んでいた。
(何よこの忙しさ! 昨日こそは絶対にと思っていたのに、疲れ果てて眠ってしまったじゃないか!)
そのスケジュールには、武の催し物が組み込まれていたのだ。
(武闘会まであと三日かぁ… え? 嘘でしょ? あと三日もこれが続くの?)
翠蘭は受け入れ難いその現実を、目の当たりにしていた。
各国の武官達は、その武闘会に向け、鍛錬に鍛錬を重ねていた。
この地の環境に、慣れるためでもあるという。
(無駄に怪我人が増えていくのは、私の気のせいかしら?)
更に言うと、参加者は武官だけではなかったのだ。
各国の高貴なお方、つまり王族やその従者である選定された者達などが参加する。
国の威厳を見せつける為だ。
(オリンピックみたいなもんかしら?)
翠蘭は、前世を思い出した。
こうして、備品配りの仕事がひと段落したかと思えば、一番駆け込みの多い出張所へと、手伝いを命じられ、翠蘭はその場所へと向かっていた。
(うわぁ… 入りたくねぇ。戦争でも起きたのか?)
そう思うくらい、怪我人でごった返していた。
その中に、知っている顔が目に入った
血で染まる腕を、医官が処置を施している。
「あれ? 珍しいわ… ですね?」
他の医官や武官の手前、タメ口は避けた。
声をかける翠蘭の方に、視線を向ける燈鸞。
「あぁ、翠蘭か。そういえば、医務室へと異動になったんだったな… っつぅ」
「痛そうですね? 本番前に、そんなに張り切って大丈夫なのですか?」
「このくらいすぐに治る」
「… あまりご無理せずに」
そう言いながら、医官が手当てした後の傷を、包帯で巻いていく翠蘭。
「ところで、あれからお弟子さんは?」
「そんなもの、元々いないぞ? 翠蘭… 何度も言っているだろう? 俺は、師匠になるような荷を負ってないし、義務もない。もちろんお前の事も、弟子などと思った事は一度もない」
「でもその器はありますよ? 私がその証拠です」
「… む」
真っ直ぐなその笑みに、少したじろぐ燈鸞。
「あれからあの子達は、戻っては来てないんですよね?」
(あの子達… ? まだ兄弟弟子のつもりでいるのか?)
「あぁ… あのか… あの者達は、急遽頼まれただけだからな」
「残念だわ」
翠蘭はそうひと言残すと、燈鸞と別れ他の者の手当てへと移った。
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それからの三日間、忙しい日々は続きに続いた。
武闘会という催し物の、最大の忙しさが終わったのだ。
腕を交差させながら、両肩に手を置く翠蘭。
(体が重い)
眠い目を擦りながら、静まり返った夜の王宮内を歩く。
(でも… おそらく今日が一番のチャンス)
翠蘭もこの通りだったが、武に長けている武官達が疲労し怪我を負っている今、その隙が生まれるのだ。
そう思っていた。
よって、これから決行を図る。
ここは、王宮の恥にある奥深い森に続く場所である。
この先に、誰も立ち入らないという宮殿があった。
元々人気も少なければ、警備も低い。
しかし、とても重要な場所であり、忘れ去られた場所。
矛盾しているように聞こえるかもしれないが、それが真意である事は、翠蘭は今は知る由もなかった。
翠蘭は慎重に何年もの間、頭に描いてた計画を執行していく。
しかし、ここに来て予想外の事態が起こったのだ。
その隠しておいた仕込み石の足場を、何段か登った時だった。
足下の方から、深く低い声が聞こえたのだ。
「おい… 」
その声に、体中の血という血が冷たくなった気がした。
止まる寸前の心臓をどうにか保ち、掠れる声を絞り出す。
「…… はい」
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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