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第六話

たくさんの作品から見て下さり、ありがとうございます!

最後まで読んで頂けると、嬉しいです。


こうして、更に三ヶ月の時が経った。


翠蘭の熱は冷める事なく、いつもと変わらない職務を淡々とこなしていた。

その間、脱走計画は綿密に綿密を重ねていた。

あとは、その日と時間が訪れるのを待ち、勇気を振り絞るだけだ。


そのパターン数、約三百。


書き換え修正数、約二千。


もちろんそんなことを記録するような、野暮な事はしない。

いや、できない。

誰かに計画書を見られ、バレた日にはそれこそ一貫の終わりだ。

全て、頭の中に埋め込んである。

機械人間ではない翠蘭。

微々たる違い、重複ももちろん多々あるだろう。

それでも考えに考えた計画は、いつか実行出来る時に備え、様々なパターンを作っておいたのだ。


その中の一番良い選択肢を引っこ抜き、実行にあてがう。


脱走計画。

最初は簡単なものだった。

単に安易な考えだったと、後に思う事となる。


もちろん実行した事もある。

その結果、ここにいることがその成果の現れだ。


全て失敗に終わっていた。


第一走目は、ここに転生されたばかりの頃だった。

七歳程の頃だ。


穴がなければ作ればいい。

そう思った翠蘭は、人気の特に少ないと言われている場所にて、穴を掘る計画をした。

外の壁に通じる壁。

その穴から外に出れるのではないかという、安易な計画。


そして、穴を掘り始めて三日目のことだった。

その穴は、見事に埋められていたのだ。

当時の噂では、野良の動物が穴でも掘ったのだろうと言われていた。


それもそのはず、道具もなければ幼子の手だ。

その辺に落ちていた木で掘っていたのもあり、進みが遅い。

獣と間違われても仕方がなかった。


いや、むしろ良かったのかもしれない。

もし、人間の仕業だと疑われたとしたら、それこそ犯人探し騒動勃発である。

もちろん、翠蘭は諦めない。

新たなる計画を企てていた。

しかし、思った以上の警備体制に修正を重ねた。

幾度となく、失敗に終わり、心が折れ掛けそうになっていた。


(そう… 問題はそれに至る条件よね)


翠蘭はそう思いながら、背景を妄想しては立て直しを繰り返す。


例えば、門番が居眠りについている隙を狙ったり、小さな抜け穴を見つけたりした場合の脱走だ。


その計画も時に、おかしな方向へと走る事もあった。

次第に過激化していったのだ。


他国からの侵略や、いきなり外周壁が大範囲に崩れ落ちたりした場合の脱走例。

もちろん、確率は高くはないが、ここならあり得るのかもしれないと思い、計画書の一部とし練り込んだ。

しかし、そのうち大地震や隕石、更には宇宙人の侵略など妄想の果ての妄想に行き着いていたのだ。

それでも、諦める心を知らない翠蘭。


時には、突然の好機が訪れる事もある。


それはこの世界に来て、二年目の頃だった。

後宮内が何だか慌ただしかった。

瞬く間に、先帝が亡くなったという知らせが国中へと広がった。

その騒ぎの中を狙い、抜け出そうと試みた翠蘭。


しかし、寸前でその脚が止まったのだ。

人が死んだ事を利用して、こんなことをしてもいいのだろうか…

そう、自身の良心が痛んだ。

よって、未遂に終わる事となる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それから、更に四年後の事だった。


翠蘭、自称齢十三の時だ。

四年に一度の大規模な会が開かれるという。


その名も ‘聖華会‘ 。


これは、他の国をお招きした外交も兼ねた会となる。

翠蘭のいる黒聖国は、ここら一帯を取り仕切る大きな国であった。


そのため四年に一度、幕下にいる国達を招く会が存在する。

その数、全五カ国。

彼ら達を招き、盛大にもてなすのだという。


(首脳会談みたいな?)


翠蘭はまさか、そんな事がこの国で起こるのだというのに驚きを隠せなかった。

しかし、この世界の情勢にも他の国にも興味はなかった。

よっていつものように仕事をこなすのみ… かと、そう思っていた。


甘かった。


いくら大きな国とは言えど、周りの五カ国の高貴な方々をお招きするのだ。

人手は足りないに決まっている。

総動員決定だ。

下級の宮女なら、良かったのかもしれない。

下手に高貴な者の前に姿を現して、粗相をしたりなんぞしたら大変だ。

外交問題だ。

翠蘭も本来なら、そのうちの一人に過ぎなかった。

しかしだ、最近の動向とある信頼により、翠蘭は仕事を与えられる事となる。

そう、翠蘭は医務室との繋がりを考えていなかった。


戦争までもいかないが、何があるかはわからない。

何を催すのかも知らない。

その間に、怪我人や病人が出るかもしれない。

出る確率の方が高いと考えているからこそ、このような状態になっているのだ。

洗濯仕事を終え、いつものようにその足を医務室へと運ばせる。

しかし、いつもとは違う慌ただしい医務室に、翠蘭は嫌な予感しかしなかった。


「やぁ、翠蘭。良く来たね」


振り向きざまにそう言うのは、この医務室の長である睦雀… ではなく、助手の亜蘭だった。


翠蘭は視線を何処に定めて良いのかわからないまま、挨拶をした。


「ご機嫌よう。睦雀様、亜蘭様。あの、一体これは… 」


「もちろん、聖華会に向けてだよ。毎度のことだ。だから翠蘭も… 」


「なるほど… では私は、お邪魔にならならいように戻っ… 」


踵を返そうとしたその瞬間、翠蘭の肩に重圧がかかった気がした。


睦雀がその手で、翠蘭を引き留めていたのだ。


「睦雀… 様?」


言葉を発せない睦雀の代わりに、亜蘭が代打する。


「おや? ここへと手伝いに来たのでは、ないのか?」


「手伝い? … は手伝いですが、それはいつものような… 」


「それはおかしいね。通達は届いているはずだろう?」


「つっ… 通達? 通達通達……… はっ! まさか、あの紙っぺらのっ… 」


翠蘭は、今朝の事を思い出した。

枕元に置かれた宮女服の中に、身に覚えのない封筒が挟まれていたのだ。

もちろん怪しい物は全て確認する。

それが、この恐ろしい王宮内での、生活の一部になっていたのだから。


「あれ? しかしですね、あの紙袋には何も入ってませんでしたよ?」


「何も入っていなかった? 一体どういう事だろう」


そう言いながら、顎に手を当て、睦雀は首を傾げた。

そして、ちらりと翠蘭から目線を外す。


「… 確かにおかしいですね。普通紙袋だけが置かれていませんよね? あぁ… もしかして、誰かが封を切って中身だけを取り出したのでしょうか?」


「…… 妙な事をする者がいるな。全く困ったもんだ。仕方がない。ではここで、その通告書を読み上げる事にしよう」


「え?」


翠蘭は、その気配に気が付いた。

亜蘭の外されたままの目線の先には、何やら紙を持った官吏が立っていたのだ。


そして、翠蘭へと近づくとその紙を広げ、読み上げた。


『紫那宮下女 翠蘭。本日付にて医務官長 睦雀のもとでの職務を命じる』


「んなっ! そんな事急に言われても困りますっ!」


「…… ふふ、それは… 喜んで承ると捉えて良いのかな?」


亜蘭の言葉に、自身の顔を両手で確かめる翠蘭。

もちろん傍では睦雀も同じ事を言いたげに、ニコリと笑っている。


翠蘭の口元は広角を上げ、喜びの表情を成していたのだ。


そりゃあ嬉しいに決まっている。

無の境地へと変化を遂げたはずなのに、やはり嬉しい時の表情管理には慣れていなかった。


(いきなりの異動命令… え? 待って? つまり、つまりよ? あの紫那宮へと、当分の間? もしかしたら一生、戻らなくて良いってこと!?)


「謹んでお受けします」


翠蘭は、睦雀と読み上げた官吏に向かって、頭を下げながらそう言った。

それに反し、残念な事もあった。


(でもこれじゃあっ逃げる機会が、半減するではないかっ!)


翠蘭の心情は複雑だった。

しかし、本来の最終目的はこの場所から逃げる事。

勤務先は、その通過点に過ぎなかった。

喜んでばかりはいられない。

それでも翠嵐にとっては、喜びの少ないこの世界。

嬉しい時には、感情が出やすくなっていたのだ。







最後まで読んで頂きありがとうございます。

突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。

何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。


また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。


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