第五話
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いつもより本格的な稽古が終わり、彼らと満面の笑みで別れた翠蘭。
その後、いつも通りその足で医務室へと向かうと、部屋の奥には睦雀がいた。
入り口で仕事をしている医務官に、声をかけられる。
彼の名は亜蘭。
睦雀の助手であり、右腕だ。
「おや? 今日は随分と遅かったね」
「ふふ、ちょっと… 」
そして、いつも通り入り浸る。
陽が暮れる前にと、干していた洗濯物を取りに行き、それらと担当持ち場である、紫那宮へと戻ろうとした時だった。
陽が暮れるのにも関わらず、その列は未だ途切れることはなかった。
夕刻になる手前、その列は途切れずとも明らかに短くはなっていた。
それにしてもだ。
後宮の中に、こんなにも齢十七の者が存在するのだろうか。
もちろん、それは否だ。
こんなにも列が長くなったのは、後宮だけでなく、外から訪れた者もいたからだ。
その証拠に、明らかに彼女らの身なりが異なってきている。
列が後になるにつれ、その身なりは乏しくなっていったのだ。
先頭の方は、上等な物を召している者。
つまり、上級貴族だ。
明らかな品を漂わせていた。
そして、中級、下級と下る。
次に後宮で働く者達が、列を成す。
そして、最後の方は身分もなく、町外れの方に住んでいるような者達となっていた。
手当たり次第かと思われるほどだった。
それほどまでに、この年齢に限定した理由は何処にあるのだろうか?
誰しもがそう思いながらも、追求しようとする者はいなかった。
そんな中、対象年齢に当たる翠蘭は、何の事なくその長い列の最後尾を、しれっと横切った。
(朝からまだこんなに? さすがにこれは… )
その、ほんのちょっぴりの視線がいけなかった。
持ち場を担当している、官吏に引き止められてしまったのだ。
「そこのお前、ちょっと待て」
その言葉はもちろん、翠蘭へと降りかかっていた。
翠蘭は手に持っていた洗濯籠を横に置くと、両手を頭の上で組み、身を屈めた。
「はい。如何なさいましたか?」
「お前… ‘選定‘ は済んだのか?」
「選定? … でございましょうか?」
(この列は何かの選定を行っているの? 女の子達の… セン… テイ?)
翠蘭はそう思うと、鳥肌が立った。
「あ… いえ、わたくしは… 」
頭を下げながら、震える声でそう応える。
「ん? 通告書を見ていないのか? お前、歳はいくつだ?」
(通告書? 見たような見なかったような… てか、歳って何だ? 歳が重要なのか?)
「えっと… 二十三… でございますが… 対象年齢でございましょうか?」
(え? どうなの? ねぇ、どうなの?)
翠蘭はその年齢に、一か八かを賭けた。
「そうか… ならば関係無いな。下がって良い」
翠蘭は、ほっとした表情を表さないように努力した。
そして、ついでに質問をしてみる。
「恐れながら、この列の先には一体どのような選定が待ち受けているのでしょうか?」
「彩様が、齢十七となる娘達を集めておられる」
(ぎょえ! 限定十七!? 何故!? 怖いよ怖い… なんか色々と… 大丈夫なのかしら?)
「左様… ですか。しかし、一体何故娘達を?」
(その年齢に限定した理由は? 目的は何!? 中で何が行われているの!?)
翠蘭はその奇妙な現場を、覗きたくてたまらなかった。
知りたい気持ちをグッと堪えながら、簡潔な質問にまとめた。
「真意はわからんが… まぁおそらく… 正妃の候補あたりじゃないか? 現にほとんどの者が、そう思っているしな」
「正妃… でございますか? え? 齢十七限定の?」
(祈祷師かなんかに、そう助言されたのかしら? うむ、あり得る)
「それで… お相手は、見つかりそうなのですか?」
「それはわからん。ともかくだ。年齢が違うお前には、関係のない事。深い詮索はするな。もう下がれ」
「… 御意」
(確かに私には関係ない事。それに首を突っ込みたくもないし、関わりたいとも思わない。彼の言う通り、早くここから立ち去ろう)
そう思いながら、翠蘭は一礼すると、重い洗濯籠を再び抱え、紫那宮への道へと戻った。
足早に立ち去る翠蘭の後ろ姿を見ながら、官吏は思う。
(それにしても、齢二十三? … にしては若く見えるが… まぁいいか)
それもそうだった。
翠蘭の自称はあくまでも自称。
完全な嘘なのだから。
紫那宮へと戻った翠蘭は、洗濯物を片付けながら、未だ跳ね上がる心臓の鼓動を感じていた。
(危なかったわ… そんな怪しい集会に、参加なぞした日にゃ、私の計画が崩れかねなかったかもしれない… てか正妃って… そうか、遂に皇帝が即位するのね… 決行するなら、このタイミングか… )
こうして怪しい選定会に、出席することを逃れた翠蘭。
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数日後、その知らせは国中を驚愕させた。
食堂にて御膳を持ちながら、席を探す翠蘭の耳に突如入ったその言葉達は、その鼓動も跳ね上がらせた。
「遂にっ現れたらしいわよ!」
「え? 現れたってまさか… 」
「そのまさかよ! 例の十七歳の正妃候補よ! あのまじないを成功させた者がいたのよ!」
(まじない? はて?)
耳を傾けながらも、やっと席に着いた翠蘭は、いつもとは違う御膳を見て思う。
(あぁ、だからか。白米だなんて何事かと思ったけど… そういう事。まぁ将来を背負って立つ正妃様が決まったのなら、この国は一歩前進って事か… )
そして、それと同時に翠蘭の長年の計画も、実行の日を迎えようとしていた。
色々な事が頭の中を巡りながら、黙々と目の前のありがたいご飯を頂く。
更には、自称対象年齢であった宮女達が、あの部屋にて、何が行われていたのかを話しているのかが耳に入った。
そこは、積極的に耳に入れる事にした翠蘭。
あぁは思っていたが、実際にその怪しい選定会の内容に、興味が湧かない訳がなかった。
中で行われていた内容の一部に、ちょっぴり首を傾げる。
どうやら、何やら紐なるものを渡されたという。
もちろん、他言無用と言われたそうな。
しかし、それもその日に限定されていたという。
(あんだけの人数。しかも噂好きの女子、そして十七歳。口を漏らさない訳ないわよねぇ。まぁ一日だけならって思った感じかしら? あぁ、だから一日で全員選別したかったのね。なるほどなるほど)
そう勝手に解釈を入れながら、進まない箸を片手に、翠蘭は聴覚を集中させる。
その探知器が、また新たなる会話を拾った。
紐を渡されると、こう言われるという。
『これでまじないを披露せよ』
このお題をこなせた者が、本当に居たのかはわからない。
存在したから、正妃が決まった。
そう思う他ない事実。
しかしそれが、正妃選びに繋がるとも到底思えない心情がここにある。
(やっぱり怪しい選定なんだわ… きっと他にも何かやらされ… 宗教絡みかしら?)
それでも翠蘭は、その先の情景を思い浮かべていた。
脱走という、その計画の先を。
自身が、その発端とも疑うことすらなく。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
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