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第三話


たくさんの作品から見て下さり、ありがとうございます!

最後まで読んで頂けると、嬉しいです。


それからも、毎日は続いた。

同じような毎日。

一度入ったら、出る事が滅多にできない場所。

それが王宮であり、後宮という籠だ。

それでも強い念と意志を持った。

持ち続けた。


(私は絶対に、ここから出てやるんだからっ!)


スローガンのように掲げた意志が、いつか願う事を祈って、日々をこなしていた。


あれから長い年月が経ち、彼女は未だその場にいた。


「今日もこの場所は美しい… 私の大切な場所」


ぼそりと胸に刻むようにそう言うと、ある場所へと向かった。


大きな空を見上げながら、こうも思った。


(あぁこんなはずではなかったのに… )


そう、あれから十年もの時が経っていたのだ。

あっという間だった。


変わったと言えば、変わった。

変わらないと言えば、変わらない。


腹の探り合い?

騙し合い?


いいや、ここは息を潜める所だ。


少なくとも、上を目指すこともない翠蘭にとっては、どうでも良い事だった。

ましてや帝のお手付きなんてものにも、興味はなかったし、自分には関係のない事だと思っていた。

そうなっては逆に困る。


とにかく潜み、影をなくす。

それを前提にして生きてきた。


そして、いつ何時、逃げ出せるチャンスを逃さないためにも、着々と準備を進めていたのだ。


仕事面において、翠蘭の生活水準は少しばかり変わり始めていた。

もちろん現在も、宮女として下働きの毎日である事は変わらない。

今はそれに加え、通りがかりの医務室へ、お手伝いをしに行ったりもしていたのだ。


子供なら、異性としての目で見られる心配は少ないだろう。

最初はそんな気持ちで、その場に訪れていた。


しかし成長するにつれ、場を離れるのかと思いきや、意外な事に、この歳になっても未だ通っている事ができていた。


既に通りがかり程度では、なくなっていた。

その為に本来の仕事の方を、終わらせているようなものだ。

今となっては、正式に医務室から任務としての通知も来ていた。


翠蘭にとっては、嬉しい限りだ。


ここには、ちょっとした症状の者や、怪我人がやってくる。

時には、大怪我を負った者もいた。


翠蘭がここまで居座る事ができたのは、まさにこれであった。

ちょっとやそっとの血、更には骨がむき出しになった怪我では動じない。


大体の者達は、それによってこの場にいることさえ、難しいようだ。

それに遭遇しただけで、逆に倒れてしまったり、具合いが悪くなったりする者達が多発した。


(ふふ、前世の記憶のおかげだわ)


彼女の前世の職業は、大都会のオフィスレディ。

しかし、その特殊な職業は、実際には現場の補助も兼ねていた。

時には怪我人、時には屍体に対して。

その免疫ができていたのだ。


更に、ここにはうるさくいじめる陰湿な宮女はいなかった。


もちろんいつもの洗濯場に行けば、彼女らもいる。

しかし、今の強みを手にした翠蘭は、ひとたびその表情と、薬に使うゲテモノ達をちらつかせるという技を身につけていた。

それによって、彼女らは気味悪がって手を出しにくくなっていたのだ。


そして、医務室にいるのは、物静かな医官だけだ。


翠蘭にも良くしてくれる。

お父さんみたいな存在、それが宮廷医官である睦雀という男だった。


彼は口が聞けなかった。


舌がなかったからだ。


過去に何があったのか。

それを聞く勇気もなければ、翠蘭にとっては重要ではなかった。


翠蘭は前世の記憶において、役に立つ事がもう一つ増えたのだ。


手話が出来た事もあり、彼と特別な会話もできた。


前世とはまた異なる意味もあるが、それでもある程度の事は繋がるようだった。

話す事が出来ない睦雀であったが、それなのにも関わらず、この王宮にてとどまる事が今日まで、留まる事が出来ているのか。


それは、彼の技術力にあった。

医官として、とんでもなく腕がいいのだ。

医療において、素早い処置は時に命に繋がる。

その事の重要さを知っているある上官が、彼の存在をこの場に留めていたのだ。


そしてこの十年、成長を重ねた翠蘭。


変わった面について。

もちろんその体と心だ。

さすがに、大人へと成長する。

元々大人だった心だ。

それに、体の成長が伴ってきていた。


更には特異な環境という事もあり、境地へと登っていた。

身体の表面と内側の分離だ。

表情では、穏やかに、同意という形を。

心の内側では、感情をなくす事のコントロールを取得していたのだ。


つまり、無の境地だ。


彼女はそれを ’幽体離脱’ と呼んでいた。

第三者の目で自身を見る。


とても大切な事だ。


そうする事によって、自身の心を守っていた翠蘭ゆえの技でもある。

それが先程、陰湿な宮女にお見舞いした技の一部でもある。


更には、武を勝る事に成功していた。

これは、そのままの意味である。

いつ何時、自身の身を守れるように。

これは高い壁を登ったり、追いかけられても逃げ切れるような、体力や身体的能力を手に入れるためである。


そう、全てはこの場所から逃げるための準備。


そんな教えを乞うてくれる貴重な存在。

翠蘭はその目的は言わずとも、感謝をしきれないほどに、彼を敬っていた。


そんな彼とは、医務室で手伝いをしている時に出会っていた。

医務室にお世話になる者達は、特に武官が多かった。

訓練中に、皆怪我をしてくるのだ。


彼の名は、燈鸞。

師と仰いでいる、偉大なる存在だった。


南の方の出身なのか、仕事でそうなったのか、肌は浅黒く、歯は眩しいほどに白い。

とても気さくな好青年である。

おそらく、歳は少し上ではないか。

その辺は詳しく聞いた事はなかったが、歳など関係なく、彼は翠蘭にとって、大きな存在であった。

彼とは、十年程の付き合いとなる。

隔たりのない性格に、翠蘭は救われていた。

歳若き武官といえど、その実績はベテランの地位に就いているほどだった。


こうして、師であり友である燈鸞のおかげで、翠蘭はめちゃんこ強くなったのである。


ついでに、少しの学も学んでいた。

これは、医官である睦雀と武官である燈鸞、両者のおかげである。

いくら言葉が違うど、前世の記憶も重なり、文字くらいなら、読み書きできるようになっていた。


(聞き取りは何故かすんなり耳に入るのに、文字の配列は漢字ばっかで良くわからないのよね…

それに漢字も前世の物とは違くて、とっても複雑)


そう思いながらも、これもきっと逃走の何かに役立つかもしれないと、日々努力を惜しまなかった。

何より、この世界は翠蘭にとっては娯楽はなく、良い暇つぶしとなっていた。


武官である燈鸞は、地方に行く事も良くある。

それによって、簡単な情勢や地理なんかも教えてくれたりもした。

もちろん、都での美味しいお店も。

翠蘭は後宮から出れず、その場所には行く事が出来ないが、お土産をこっそり持ってきてくれるたりもしていたので、今はそれだけでも満足だった。

いつかは行ってみたいとも思ったが、それはここを出るまでの辛抱だ。

と思いながらも、十年。

身分も戸籍もない翠蘭にとっては、そう簡単には後宮の外へ出る事はできない。

だからこそ、日々の知識をこっそり盗む事にしたのだ。

今となっては、堂々となっているが。


彼女は諦めない。

むしろ、その思惑は強くなる一方だった。


最後まで読んで頂きありがとうございます。

突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。

何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。


また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。


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