第二十一話
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「お願い戻って!!」
息からがら、そう声を発した翠蘭。
その時、少年の体が少し跳ねた。
むせるような咳と共に、息を吹き返したのだ。
そして声を出し、泣き出した。
「はぁはぁはぁもう… もう大丈夫… はぁ…大丈夫だから」
そう言いながら、翠蘭は少年を力なく抱きしめた。
今の翠蘭にとっては、残っている最後の力だ。
その場に、やっと辿り着いたルオ達。
一部始終を見ながら、移動していたのだ。
彼らも覚悟を決めたようだ。
そして翠蘭のその行動に、驚きを隠せずに声が漏れる。
「何故だ… 」
「何がぁ!? はぁはぁ… はぁ」
息を切らしながら、翠蘭は心乱れていた。
酸素濃度が薄くなっていない状態でも、きっとそう思うに違いないだろう。
しかし、今は言葉も乱れていた。
「その子供は其方を騙し、盗みを働いたのだ。罪を犯した事で、死刑に処せるくらいの罰でも、いいくらいだと言うのに… 何故そこまでして… 」
(ほんっと何言ってるの!?)
翠蘭は、強い視線を飛ばした。
「そんなのっ… はぁはぁ… んぐ… そんなの当たり前でしょうに! はぁ… 子供の命の方が… はぁはぁ… 何億倍も優先! そんなの… そんなのっ、わかりきっている事でしょう!? はぁはぁはぁ… 」
(何だ? 何をそんなに怒っている?)
ルオは、その感情と意図が汲み取れないでいた。
「はぁはぁはぁ… それにしても、あんのクソ暗黒竜め!」
(名が変わっている… 言葉使いも悪くなっておる)
しかし、大声を上げたせいで、最後の力を振り絞ってしまった翠蘭。
その身体は一瞬にして、事切れてしまった。
白目を剥いた翠蘭は、そのまま横にぶっ倒れた。
地面へと叩き打たれる寸前の体に、手が伸びた。
それは燈鸞ではなく、ルオの方であった。
「はぁ… 全く… 失礼な方は俺だったな」
「ルオ様… 」
燈鸞はそう言いなら、翠蘭へと杞憂な眼差しと、自身への哀れな心を表した。
「確かに翠蘭の言う通りだ。何事も命が最優先なのには変わりない」
「はい。確かに見事としか言いようがないですね。しかし、他領土への上陸の件に関しては… 」
「ふっ… 俺を誰だと思っている」
「…… 御意」
そして、そのずぶ濡れに力尽きた翠蘭を見る二人。
突き刺さるような視線を感じ取る燈鸞は、急ぎ自身の身包みを翠蘭の冷え切った薄い体に掛けた。
そのまま、ルオは翠蘭を大事に抱え上げた。
「ルオ様! 私がっ… 」
「いや、いい… 」
翠蘭を手放す事なく、立ち上がるルオ。
(なる… ほど)
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こうして一行は、翠蘭の体を休めるために移動した。
その場所は意外にも、すぐ近くにあった。
本来、戻ろうとしていた野営場だ。
しかし、ここで問題が起きた。
濡れた衣服を着替えをさせるにも、翠蘭以外に女人がいなかったのだ。
たまたま通りかかった父子を引き留め、高い報酬にて、その役目をさせる事に成功した。
もちろん父親の方ではなく、その娘の方に頼んだ。
時間を掛けて出てきた少女は、何かをやり遂げた事に満足した笑みを浮かべていた。
「ご苦労であった。とても助かった」
ルオの優しいその言葉と、大きな手が少女の頭を包み込んだ。
嬉しそうにする少女は、父の元へ駆け寄ると更に愛情のかかった言葉と抱擁をもらっていた。
父子はルオ達に一礼すると、たんまりもらった報酬を手に、去って行った。
ルオは安堵の息を漏らすと、翠蘭の眠るテントの中へと入った。
一難去って、また一難を乗り越えたかと思った。
翠蘭の姿を一番に見たのが、自身で良かったと心から思った。
目を覆いたいのか、見たいのか脳が葛藤した。
(せめて掛け物を… して欲しかっ… た)
看病や介護等で、幼子が大人の着替えを手伝う事は、この世界ではよくある事だ。
しかし、先程の少女は少数派の方だったらしい。
その試行錯誤した跡は、更に ’翠蘭’ を意識してしまう程だった。
乱れた衣類を片手で覆いながら、直していくルオ。
本心は、逆であったがここは健全に、清く正しく我慢した。
(次からは、侍女を一人連れて行こう)
そう強く思うルオであった。
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夜が耽る頃、翠蘭はその鈍い音で起きた。
(腹減ったな)
酸素が行き届いていなかったのと、空腹が重なり、翠蘭は頭が回らないでいた。
「…… っは!」
しかし、自身を纏うその見慣れない衣を見て、我に返る。
(そうだ! 少年! 黒龍!)
まだクラクラとする頭。
駆使し過ぎた重い体。
その両方を制御するのは、今の翠蘭には難しかった。
壁伝いに歩きながら、光の漏れる方へと進もうとした。
すると、いきなり体が浮く感覚に襲われたのだ。
それと共に、耳元で低い声が聞こえる。
「何処へ行く?」
勢いよく横を見ると、すぐ近くにルオの顔があった。
「… っ!?」
(ルルルルルルルオ様!?)
「まだ寝ていないと、ダメであろう」
そう言いながら、翠蘭は寝床へと戻された。
「あ、あの私… あ、いや、少年は… 黒龍は… 」
「ふ… 聞きたい事が山程あるようだ。… ちょっと待ってろ」
そう言われ、テントから出ようとするルオに、大人しく頷いた。
すぐに戻ってきたルオの手には、湯気の立ったコップがあった。
「温かい。ゆっくり飲め」
(やだ優しい!!)
「あ、ありがとうございます… 」
そう言うと、翠蘭はその想いと共に、身体に染み渡らせた。
「あの… 先程は、すみませんでした。乱暴な発言をしてしまい。その… 」
「ん? あぁ、この件に関しては、追って詳細を命ずる」
「…… はい」
(詳細… 詳細… ? 何だろうか? あぁ、そういえば領土が何ちゃらとか言ってたし… あの命令無視したから、首飛ぶのかなやっぱり… )
翠蘭は、再び血の気が消えそうになった。
「はぁ… しかし、あの行動は称賛の域に当たると、俺個人ではそう思っている」
その思いがけない言葉に、翠蘭は思わずルオに目を見開いた。
「… 迷う事なく、急流へと飛び込むお前を見て、己を見つめ直した。本当、真っ直ぐな心意気だ」
そう言いながら、微笑むルオを見て、更に目を開く。
「え? あ… はい」
(待って… 称賛してくれてるって事は、命に対してはお咎めなしって事? 刑は重くないって事?)
「あの先は滝だった。随分と流れが速かっただろう? それこそ流されたら終わりな状況にも関わらず、よく飛び込んだな?」
「… 知らなかったもので。その… 滝があるなんて… 」
「怖いもの知らずとは、まさにこの事だな」
(合ってるのか? それ)
「そ、それとだな! お前には重々に禁めなければならない事がある!」
(わっ! 今度は急に怒り出した! これからが叱責本番か… )
構える翠蘭。
しかし意外にも、見当違いな言葉が飛び出てきたのだ。
「大衆の面前で、あんな… あんな風に身包みを剥ぎ捨てるなど… 」
(ん?)
「い、いえ… ですが、あのまま重い衣を身に纏った状態で、川になど飛び込んだりしたら、それこそ急流に飲み込まれて溺れてしまぃっ… 」
「それでもだ!」
その拳は、愛情の分だけ頭にめり込んだ。
「痛ったぁ… え!? ひ、酷い… 病み上がりなのに」
翠蘭にその痛みの意味が届くのは、いつになるのであろうか。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
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