第二十話
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その先にあると言う巨大な穴から、巨大な黒龍が現れたのだ。
ぬるりと、そして唸るような轟音と共に、その姿を現した。
言葉を出そうにも出ない。
目の前にあるその光景は、翠蘭の全ての思考を止めた。
何処までを上半身と呼べるのかは定かではない。
その黒龍の前脚部分にて、何かに気が付く燈鸞が声を上げた。
「あそこをっ… ! 先程の少年ではありませんか!?」
その声と指の差し示す先に、意識を戻した翠蘭。
彼の言う通り黒龍の前脚部に、少年がしがみついているかのように見えた。
微かに聞こえるその声は、何かを叫んでいるようであったが、何を言っているのかはわからない。
黒龍は、少年を連れ去ったのか。
はたまた引っ掛かってしまった、偶然の産物なのであろうか。
しかし、今言える事は、とにかく少年を急ぎ助けなければいけないという現状だった。
(追いかけなきゃ!)
そう思った時には、既に体が動いていた。
その大きな体を波打たせながら飛び立つ黒龍は、次第に高くなっていく。
その姿に、現実を受け入れるを得なかった。
(まさか… まさかまさかまさか! 本当にこんな大きな龍がいたなんて! しかもさっきの比じゃない! てか、この状況でどうやってあの子を助けりゃいいってえの!? このままじゃ… )
そう思いながら、何とか落ちないように踏ん張る少年に目を凝らした。
「あの首紐が引っ掛かっているのか!? いくら子供とはいえ、すぐに切れるぞ!」
ルオは、並走しながらそう苦言した。
(紐が切れるのが先か、少年の力が切れるのが先か… どちらにせよ、限界はすぐそこっ… )
しかし、その大きな姿の黒龍に人間の脚には限界があった。
追いかけるのがやっとな翠蘭達。
いつ引き離されてもおかしくはない。
いや、龍である者に対し、元々追いつこうと思う方が難しい問題であった。
大きな体を、再びくねらす黒龍。
その瞬間、小さな粒が落下した。
(もしかして今… 振り払った?)
「あの先は川です! 無事、そこに落下すればの話ですが… 」
「妙な事言わないでっ! 急ぐわよ!」
「った… おまっ… そんなとこ叩くな!」
翠蘭は、事実上燈鸞の尻を叩いた。
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先程、廃村の大きな穴から、突如現れた黒龍によって、連れ去られた少年。
彼は翠蘭の首紐を結んだ挙句、こうなったのであった。
翠蘭達はその黒龍を追いかけている途中、首紐とギリギリ繋がっていた少年が、遂に黒龍から落下した。
落下したであろう先には、川があるという。
そして、その場所にやっと到着した時には、人だかりが出来ていた。
「燈鸞!」
先に到着していた燈鸞に駆け寄る。
黒龍から振り落とされた少年は、川へと着水したようだった。
向こう岸近くに微かに見える少年は、もがき苦しんでいるかのようだった。
(地面に叩きつけられてなくて良かった。あの高さから落ちれば… )
しかし、誰も動こうとはしなかった。
「え? 燈鸞? 何してるの!? 早く助けっ… 」
そう言いながら、翠蘭は燈鸞の腕を握る。
「翠蘭… 気の毒だがこの先、俺達は手を出す事が出来ない」
「どういう事!?」
「ここから先、川を境に向こう側は俺達の領土じゃない」
「領土? え? … 領土が何!? 子供の命を助けるのに、領土もクソもないでしょうに!」
翠蘭の言葉は、突き抜けるかのように真っ直ぐに刺さった。
「お、おま、楼っ… ルオ様の前で、よくもそんな事をっ… 」
さすがの燈鸞も、皇太子を前に形相を変えた。
しかし、民の前でその名を安易に口にしてはいけない為、言葉に詰まる。
しかし、翠蘭にはそんな事は、どうでも良かった。
向こう岸に引っ掛かる少年は今も尚、その水流に耐えている。
「馬鹿馬鹿しい… 」
「へ?」
「責任なら私が取る!」
その言葉を吐き捨てると、既に身軽になっていたその身を川へと投げた。
「あっ! おいっ!」
どうすることもできないまま、燈鸞の焦りは強まった。
(… っく… と流れが… 速… )
翠蘭は得意でも不得意でもない泳ぎを、そして体中の筋肉を駆使した。
(全速力で走った後だ… 流石に早く辿り着かないと… まずい)
そう思いながら、翠蘭は無我夢中で向かった。
ようやく辿り着いた時には、少年の意識は既にないように見えた。
(ヤバい! 早く陸地に上げないとっ!)
しかし、流れが速過ぎるせいもあり、少年を連れた状態で反対岸へと戻る体力は、既に残ってはいなかった。
(これは… 流石に無理)
翠蘭はそのまますぐ横の岸に上がると、少年の引っ掛かっていた服を破り、そのまま岸へと引っ張り上げた。
翠蘭の体力は限界に来ていた。
しかし、呼吸を整える猶予はない。
自身の酸素濃度が体から薄くなっても、今やらなければならいない事があった。
少年の肺に入った水を吐き出させ、息をそして、意識を戻さなければならなかった。
重くなったその体を起き上がらせると、少年の意識を確かめるように頬を叩く。
(どうか間に合って… )
そう思いながら、翠蘭は迷わず少年の口元から自身の空気を送った。
そして、胸部圧迫を数回繰り返す。
息も絶え絶えな今の翠蘭には、その力が半分にも達していなかっただろう。
しかし、それで良かったのだ。
大人より小さなその体には、力を入れ過ぎてはいけないからだ。
反応のないその唇に、もう一度息を吹き込む。
(あぁ… 意識が… 呼吸がもう… )
翠蘭は、ギリギリまで粘った。
声を掛けたいのに、そんな余裕もない。
(戻って… 戻って… お願い… )
「お願い戻って!!」
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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