第十九話
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こうして、更に五日程の時が経った。
洞窟がある場所まで、あと少しだという。
野営調査から戻って来たばかりの燈鸞に、言い合う二人が目に入る。
しゃがみながら、地面に何やら書いていた。
「では、これならどうです? 熊ですよ? ほら可愛… 」
「獰猛な動物だろう? これは熊ではない」
(いや、そういうことではなく… )
「あ、ではこれは?」
「耳の長い… 」
「うさぎか?」
「そうです! うさちゃん!」
「食用だろう?」
「なる… ほど」
(そうきたか)
「ではミッ… 」
「ねずみ… だと?」
明らかに顔を顰めるルオに、その手を引っ込める翠蘭だった。
そんな言い合う二人を見て、護衛に尋ねる燈鸞。
「あの二人は、何を揉めている?」
「詳しい事は分かりかねます。馬車から出たかと思えば、急にあのように地面に絵を描き始めました」
「そうか」
(それにしても、最近の楼繁様は何だか… )
そう思いながら、燈鸞は二人の方へと近づいた。
「うーん…… じゃあ小鳥さんかな? それとも猫ちゃ… 」
「恐れ入ります、ルオ様」
「あぁ燈鸞か」
「野営の手配が整いましたこと、ご報告致します」
「そうか。ご苦労であった」
そう言うとルオと翠蘭は、馬車へと戻った。
その場に残された絵と痕跡を消す為、燈鸞は腰を屈めた。
(随分と可愛らしい絵だな)
一瞬消すのがもったいないと思ったが、そういうわけにはいかない。
手で地面を慣らした。
しかし野営へと向かう途中に、それは起こった。
ふと馬車から外に目をやる翠蘭。
小さな気配を感じたのだ。
馬車を並走するように浮かぶ、黒き生き物。
想像通りの形。
想像以上の小ささ。
そして、想像以上の冷静さを放った。
「あ…… いた」
翠蘭の目の前には、小さな黒龍がいたのだ。
それこそ、うさぎ程ではなかろうか。
その突然の声に、ルオは反応した。
「ん? どうした? 何かい…… え?」
ルオの目にも、同じ生き物が映った。
咄嗟にその口を覆う翠蘭。
しかし、その心配はなさそうだった。
驚かさず、気が付かれずまいと、これからどうしたら良いのかを相談した。
「大声出すと多分逃げられますよね? でもこれは… 捕まえるべきですか?」
周りの者は未だ、気が付いていないようだった。
「話しかけてみたらどうだ?」
(え? 正気?)
「言葉通じないでしょう?」
すると、ルオはその小黒龍に向かって、手を振り始めたのだ。
視線が一瞬、こちらを向いた気がした。
「い… 今、こっち見ませんでした?」
「そうだな! それに逃げないなんて… 」
思わず二人の顔が近づいている事にさえ気が付かない程、喜びを表していた。
「こ、こんにちわぁ… 」
更には、ルオの言うとおり、話しかけるという選択に出た翠蘭。
しかしその瞬間、小黒龍は泳ぐようにして列から離れてしまった。
「あ! 待っ… 」
(今… 一瞬笑ったような… さすがに気のせいか)
そして、ルオは急ぎその存在を従者達へと伝えた。
追うようにと指示を出したルオは、興奮冷めやらない。
大喜びで目を輝かせながら、喜びの声をあげている。
しかし翠蘭には、その言葉が半分も届いてはいなかった。
この場で一番驚いていたのは、翠蘭だっからだ。
( 嘘… でしょ? まさか… まさかまさか本当に… いただなんて… いや、でも私があの時見たと偽った黒龍にしては、随分小さい… え? まさか子供!? てことは、親が何処かにいる?)
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小黒龍を追いかけた先に、村であったろう集落があった。
「ここは… 」
その疑問に、すかさず燈鸞が応える。
「以前来た時には、小さな村でした。しかし数年前、この近くの地面が抜け、大きな穴ができ、更にはその穴は段々と大きくなり、次第に村の一部を飲み込んでいったと耳にしました」
「そんな巨大な穴が!?」
(村を飲み込む程の… ブラックホール? いや、そんなまさかな)
「あの惨事か… 確か生き残った者が数名程いたと聞いたが」
ルオは思い出すかのようにして、燈鸞へと促した。
「はい。その通りです。生き残った数人の村人は、放浪の旅へと出て、最終的には南西の町に行き着いたとか… 」
「では、ここには既に誰も住んでいないという事か」
「そのようです」
「あの、その穴の原因はいったい何だったのでしょう?」
そう言う翠蘭に対し、燈鸞は首を横に振って応えた。
「それがわからなかったんだ。後日調査兵団を派遣したが、近づくにも地面が脆く詳しい事はわからずじまいだった」
その返答に、翠蘭はルオへと耳打ちをした。
「まさかのまさかですが… もしかして… ひょっとすると、黒龍が住んでいるとか… ないですよね?」
その言葉に思わず、翠蘭の顔を見る。
「まさか… それにあれは洞窟ではなく、穴だぞ?」
「洞窟と言うのは、横から行くものではないかもしれませんよ? それに伝承と違う可能性だってあります。龍によって、洞窟よりも穴の方が好む者もいるかも」
その言葉に、視線だけを受け取ったルオ。
そんな二人を見て、燈鸞は首を傾げた。
(お二人は、何をそんなにコソコソとしているのか?)
すると、遠くの方に先程の小黒龍の姿を発見した。
「あっ!」
その声に、ルオは反応し追いかけるように、合図を送った。
穴の方へと向かう一行。
明らかに小黒龍ではない気配と声を感じた。
(木の上からだ!)
そう思いながら、声がする木の下へと急ぐ。
すると、木の上には今にも落ちそうな姿の少年が、木にしがみついていたのだ。
「大丈夫よ! 今、助けてあげ… 」
翠蘭が、そう言いながら手を伸ばした瞬間だった。
直前まで怯えていた少年の表情が、一変したのだ。
猿のような身のこなしを目の前で披露され、頭の中が混乱する翠蘭。
少年は体を捻るようにして、地上へと降り立った。
そしてニヤリと笑うと、翠蘭の方へと舌を出し、挑発した。
理解の追いつかないまま、少年の方を見る。
彼の後ろ姿は、既に小さくなりつつあった。
「翠蘭! おい! 何をしている!? 追いかけるぞ!」
ルオがそう言っても尚、首を傾げていた。
「へ? 何でですか? 無事だったんなら… 」
「首紐だ! 取られた!」
「首紐?」
その言葉に、自身の首元に触れた翠蘭。
「え? え!? 嘘!? … あの、あんの小僧かぁぁあ!!!」
(こ、小僧?)
やっと、自身の首紐を取られた事に気が付いた翠蘭。
鬼の形相で、少年の後を追った。
「待て、翠蘭! そっちには、先程言った大きな穴がある! 無闇に近づくと危ないぞ!」
ルオの声は、届いていなかった。
しかし、ここから更にパニックへと陥る事態が起こる。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
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