第十八話
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それからというもの、何の手掛かりの得られない日々が続いた。
それと共に、聖華会が終わりへと近づく。
脱走する好機が訪れるどころか、次期皇帝へのお目通しが増えていくばかりだった。
(これじゃあ、この期間にルオ様には、隙を見つけるのは難しそうね)
もちろん焦っていたのは、翠蘭よりもルオの方であった。
(ちっ… これじゃあ何の為に、正妃の噂を流したのかわからん)
思惑通りにいかない事に、イラつきも増えていった。
毎晩疲れ果てるルオだが、一日の終わりには翠蘭の部屋へとやってくる。
(何故? 何故このお方は、毎晩やってくるのかしら? そんなに疲れてるなら、ちゃんと休んだら良いのに)
椅子へと、だらしなくもたれかかるルオ。
(でもまぁ、これが脱走したい理由でもあるんだろうな)
翠蘭のその視線に、何かを勘づく。
「わかっている」
「へ?」
「お前が、何を言いたいのかだ」
「…… ふふ」
翠蘭は、感情のない笑みを溢した。
「あぁ… これでは俺の身も心も持たん。気は焦るばかりだ」
「あのぉ、手掛かり… ですよね?」
「あぁ… ん? 何かあるのか!?」
「い、いえ… しかし、少し気になる文面を目にしました」
「何処だ?」
ルオはそう言うと、翠蘭の開く書の方へと近づいた。
「南西にある洞窟の事です」
「あぁ… あそこだな」
「訪れた事があるのですか?」
「いや、俺はない。しかし調査隊を派遣した事はある」
「なるほど。その際には、何か見つかったのですか?」
「確かにあった。しかもいくつもな。いや、あれは洞窟というには、少し浅かったと報告を受けているが… まぁ実際に、俺も見てはいないからな」
「それは、人が通れる程のですか?」
「そうだ。確か、あの時は燈鸞も行かせたな。あいつが通れる程の大きさだったと言っていた」
「では、結局どの洞窟が、黒龍に繋がるものかは、わからなかった… という事ですか?」
「そうだ… 」
当時の事を、残念そうに思い出すルオ。
その話に、翠蘭は顎に手を当て、首を傾げた。
「うーん、何だか奇妙な話ですね」
「何がだ?」
「この文面には、一つしかないと書いてあります。たった一つのと… 」
「その中の一つだったかもしれないという事か? それとも、また別の場所か… 」
「それは分かりかねますが… それと、普通に考えてみて下さい。黒龍が入る程の大きさですよ? 確かに燈鸞は、人間にしては大きい方だと思いますが… 」
「なるほど。ではどれも違うという事だな」
「実際に探しに行けたら、良いんですけど… 」
(ついでに、そのまま逃げれたら最高ですが?)
「ならば、探しに行くしかないな」
「え!?」
翠蘭の期待がだだ漏れであったのか、ルオは期待通りの言葉を発してくれた。
「南西にあると言われている、あの洞窟へ… 一緒にな」
(ん? 一緒に? ルオ様は大丈夫なのかしら?)
「あの… でも探しに行くにも、皇帝殿が国を簡単に出ても支障ないのでしょうか?」
「もちろん、簡単に外を歩き回れるような身分ではない。しかしそれは、皇帝に限っての事」
(皇帝に限って?)
「えぇと… それはどういう事でしょうか?」
「言ったであろう? 俺は ’まだ’ 即位の儀を受けていない」
(ゔ… それって)
「つまり、厳密には ’まだ‘ 皇帝ではないということだ」
「はぁ… 」
(そういうのって… 屁理屈って言うんじゃ… )
「だから、自由に外へも出れる」
(自由… なのかな? てか次期皇帝も同じかと… )
そう思う翠蘭とは裏腹に、ルオのドヤ顔と言葉は、視線と共に扉の向こうへいる燈鸞へと向けられた。
もちろん、彼は中の様子は見えてはいない。
しかし、その気を受け取ったのか、彼は嫌な寒気を感じていた。
(楼繁様がまたよからぬ事を、お考えになっているな… )
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こうして数日後、無事に聖華会は閉会の儀を迎えた。
最初から最後まで、そのベールを取る事はなかった次期皇帝。
翠蘭にとっても忙しなく、そして人生のターニングポイントとなった日々であった。
彼としても、それは同じだった。
ただ違うのは、前向きかそうでないかである。
目的、目論見、希望… どの言葉が合うかも、はたまた全てが同じかもわからない。
しかし先へと進むため、脱出するためには、互いの存在は必要であった。
それからというもの、ルオは聖華会における議題を理由に、南西の洞窟へと向かう手筈を取り付ける事に成功していた。
あっという間だった。
翠蘭は揺られる馬車の中で、この期間の事を考えていた。
(随分と早い… いや、早過ぎやしませんか?)
そう思うのも無理はなかった。
聖華会終了から、たったの五日程しか経っていないのだから。
この国で、一番高貴なお方を連れて行くのにだ。
いくら国の者が、一度行った事がある場所とはいえ、警備体制の厳重さや物資の関係もある。
しかし、出来る従者達はやり遂げたのだ。
この五日間という無理難題な期間においても、安全かつ円滑で確実な経路。
更には次期皇帝用の物資などの準備を、完璧にしてみせたのだ。
(ここまでしてもらって… まさか彼の目的がこの国から脱走する事だとは、思ってもみないだろうな… 気の毒に)
翠蘭はそう思いながら、目の前にいる当の本人へと視線を向けた。
そこには二人だけだ。
燈鸞や他の従者達は、周りを囲むようにして、馬へと跨っていた。
それでも一応、警戒はする。
音量を限りなく下げて話す翠蘭。
「よく、すんなり洞窟に行ける事になりましたね?」
「あぁ、たまたま議題の中に、南西の方で獣達の動きがどうも怪しいという報告が上がっていたからな。それに目を付けた」
「獣… ですか? えっとぉ、それは優先度が高い議題だったのでしょうか?」
「…… それなりだ」
「それ… なり」
(絶対、無理矢理漕ぎ着けたな… )
「それでも、かなり早いかのように思われましたが… それほど急ぐ必要があったのですか?」
翠蘭の言葉に、静かなため息を吐くルオ。
「… あとひと月もない」
「へ?」
「即位の義まで、あとひと月を切っている」
「なるほど… 」
ルオの言葉に察する翠蘭。
(即位した後でも、逃げれば良いのに。まぁ一応。これでも国の事を思っての事のかしら?)
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