第十七話
たくさんの作品から見て下さり、ありがとうございます!
最後まで読んで頂けると、嬉しいです。
翠蘭は、その手で紐と指を絡ませた。
十年前と同じように。
あの頃から大きくなったその手は、握ると更に大きく見えた。
少しキツくなった通し穴。
それでもやはり、彼にとってはまじないのような感覚が、ほと走る。
懐かしい表情が、再び目の前に現れる。
あの時と同じ、まるで奇跡を見るかのような純粋な眼差しだ。
「ふふ… 」
思わず翠蘭の声が漏れてしまった。
「ん? なんだ?」
「あ、いえ… 喜んで頂けたようで、何よりです」
その言葉に、頬を染めるルオ。
「翠蘭、もう一度言う。俺は本気だ。本気で脱走方法を探しているんだ。黒龍に頼れたらそれが一番良いが、自分の足でも探している。可能性がある方から… 」
「あ、あのぅ… 一つお聞きしても宜しいですか?」
「ん?」
「それを存じているのは?」
翠蘭のその言葉は、扉の向こうを指していた。
「燈鸞は… 知らない。お前以外、知らないんだ。迷惑を… かけたくないからな」
(そっか… 確かに… 彼らが知らなかったら、もしバレた時に、罪を負わせる事もない… そういう事)
「でも脱走した後、あなた様はお一人で生きていけるのでしょうか?」
「お前がいるだろう?」
「ふぇ?」
思わず、間の抜けた返事をしてしまった翠蘭。
ルオはそれ以上は言わず、笑みを浮かべるばかりだった。
(なんて無謀な… だからと言って私も諦めたくないしなぁ。ここはやっぱり私一人で、どうにかこうにかするしかない)
「今はまだ、即位する前だ。これが最後の機会であり、最高の好機だとそう思っている」
ゆっくりと立ち上がるルオ。
その熱意を淡々と述べる中、翠蘭は自身の野望と重なる。
(あぁ… 改めて聞くと、つくづく思う)
「この聖華会に準じて、俺は逃げたい」
(はぁ、まさか… )
「今まで、幾度となく考えてきた」
(まさか本当に、私と同じこと考えてる人が)
「あらゆる脱走方法を… 」
(他にもいたなんて)
「それにはお前の協力が… 翠蘭? 聞いているのか?」
「あ、はい。もちろんです」
にこりと意識を戻す。
「言ったではないか、俺を逃してくれると。それが今なんじゃないのか?」
(じゃないのか… って言われてもなぁ)
「言いましたよ、言いましたけども… 私が逃したともなると、それこそ首がカッ… 飛ぶのでは?」
そう言いながら、親指を首にスライドさせる。
「案ずるな。身の保証は確立されている」
そう言いながら微笑むと、扉の方へと向かった。
翠蘭は、その後ろ姿に一礼しながら思う。
(信じられん… )
そして、ゆっくり顔を上げると、椅子に再び腰を沈めた。
(あぁそうか… つまり、あの齢十七の選定は、正妃探しはなく、共犯者探しだったと言う事なのね)
翠蘭の考慮の末は、果たして正しいのであろうか。
今は知る由もなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「龍が願いを叶えてくれる… か」
新たに用意されたベッドの上で、仰向けになりながらそう呟く翠蘭。
その寝心地の良さは、言わずもがな抜群だった。
しかし、良いことばかりではない。
この監視下は何なのであろう。
そう思うくらいには、気配を感じていた。
ここは皇帝の住まう黒聖殿。
翠蘭は、この場所で宮女として異動させられていた。
もちろんルオの独断と偏見だ。
しかし翠蘭の意見も考慮してくれていた。
紫那宮での雇用を終了させ、医務室にも多く赴かせてくれている。
むしろ、大半と言って良い程だ。
(とてもありがたいけど、でも… )
「そんな事に、黒龍なる願いを使って良いのだろうか?」
「良いに決まっている」
その声に飛び上がる翠蘭。
「ルオッ… 様!?」
(怖い… 気配全然感じなかった。これならすぐに脱出できるんじゃ?)
そう思いながら、翠蘭は更にその一言に驚く事となる。
「よし! 決まりだ!」
(何がぁ!?)
「今から策を練るぞ!」
「い、今からですか?」
「そうだ。ほら、螺聖殿から書を拝借してきた」
(… その言い方だと、まるで盗んで来たかのようだけど?)
「意外と… ありますね」
「俺は頭に入れてあるからな」
「ん??」
「翠蘭! 俺達の為だ」
「え? 待って… それって」
「俺は少し休む」
そう言って、翠蘭のベッドに横になった。
「ちょっ… 策を練るんじゃ… え? 私だけ… てこと?」
(これって、策を練ると言えるのかしら? はぁ… 困った坊ちゃんだ……… ん? 待って、この状況… この世界では、普通に考えてまずいんじゃ!)
そう思いながら、ルオがいないかのように視界と心を狭める事にした。
久しぶりに、無の境地を発動したのだ。
こうして、翠蘭の黒聖宮生活が始まった。
その後紫那宮にて、宮女や宦官などの総入れ替えが行われたという。
翠蘭が次に紫那宮を訪れた頃には、誰一人として知る顔はいないであろう。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。