第十六話
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空腹は最高のご馳走という。
しかし、この場合空腹の翠蘭でなくとも、舌が唸ったであろう。
実際、目の前に運ばれてきた食事達は、最高級のものばかりであった。
翠蘭の記憶上、このような豪華な食事は初めてだった。
前世でも味わった事のない味に、舌鼓を打つ。
もちろん、全てを平らげた翠蘭。
(残してはもったいないものね)
笑みを浮かべる者。
呆れる者。
そして何より、本人の満足そうな顔だ。
「そういえば、何故そんなにも、色々な格好に扮しているのですか? 一つに絞らないと、逆に怪しまれてしまうのでは?」
(なんか普通に喋ってるし… )
側に仕えていた燈鸞は、目を細める。
「顔なぞ、その辺にいる者と、そう変わらんだろう。同じような格好をしていれば、官吏と武官の兼用をしたところでわからぬ」
(そうかな? 綺麗な顔立ちだからバレそうだけど… )
翠蘭はそう思いながら、じっと見つめた。
「あぁそれと、ついでに言うが、医務室にも出入りしていたぞ」
「え!? そうなんですか!? 全然気が付かなかった… 」
「ふふんっ、そうだろ?」
(嬉しそうだな)
「まぁそうやって色々な所に潜り込んでは、常に後宮を見て回っていたということだ」
(脱走計画の一環かしら?)
「ということは、あの日も… 」
翠蘭は自身の脱走実行が失敗した、あの夜を思い出した。
「あぁ、そうだ。あの日は武闘会の直後だ。武官達は疲れ果て、見回りも身に入らなかった事だろう。その為に、一日で終わらせるように調節したからな」
(同じこと考えてる… それにしても権力って脅威ね… )
「それに俺の場合、成人前の次期皇帝。この身を正式に公にする事がなかったが為に、立ち回りやすかったのが大きかっただろう」
「なるほど。ルオ様、あの夜の事ですが… かなり遅い時間でしたよね? もしかして実行を試みようと?」
(ん? 実行? 何の実行だ? 先程から二人は何の話をしている?)
燈鸞には話が見えない事が、所々あった。
目線をキョロキョロと泳がせるばかりで、思考だけを巡らせる。
「あの夜は、玉が疼いたのだ」
「た、玉? … ですか?」
(え? これ、触れていいの? いいのかな?)
(玉ってなんだ? 何処の何の話だ?)
言葉足らずの単語に反応し、困惑が飛び散る。
しかし、淡々と話を進めるルオ。
「お前と同じ玉だ」
「付いてませんが!!」
思わず叫んでしまった翠蘭。
異なる方向へと困惑していた。
その驚愕する表情に、さすがに悟ったのか、ルオは自身の首元を、一瞬撫でるような仕草をした。
その仕草に、翠蘭も気が付いた。
(あ、この紐についてる玉の事? 確かにちっさいのが付いてるるけど… 果たしてこれを玉と呼んで良いものかしら? それにこの玉が疼く? え? それってつまり、動いたって事よね?)
そして、一つ咳払いをすると、ルオは燈鸞に目線を送った。
察しの速い燈鸞は、一礼するとその部屋から足早に出た。
こうして、その部屋には翠蘭とルオの二人きりとなったのだ。
(あれ? ひょっとして今… 燈鸞を外に出した? 人払いしたの?)
「翠蘭、あの事はあまり声を大にして言える事ではない」
そう言いながら、ルオは翠蘭の横へと椅子をピタリと付けた。
そこからは、最小限の声で話し始めたのだ。
「この首紐は、俺とお前のとでは少し異なる」
そう言うと、自身の首元から紐を取り出した。
その先端には翠蘭のとは違い、玉と呼べる程の大きさの水晶が付いていた。
(なるほど。これは… 玉ね)
「あの夜、この玉が疼いた。今までそのような事は一度もなかった。驚きのあまり、一瞬は警戒した。しかし、すぐにこれには意味があるのだと感じ、疼く先へと行ってみる事にしたんだ。龍が… いるのではないかとね」
「龍を… ですか?」
それに伴って、翠蘭も小声になる。
「そうだ。するとその先に宮女がいた。夜な夜な壁によじ登っているお前がな」
「ゔ… 」
「普通なら即刻取り押さえものだぞ? しかしその宮女から出た言葉は、まさに俺が求めていたもの。咄嗟の言い訳なら出ては来んだろう?」
(それが… 咄嗟の言い訳なんですぅ… )
「黒龍を見たと聞いた時には、本当に驚いた。そして、この宮女はもしかしすると、脱走を試みていたのではないかともそう思った」
(それは本当です)
「さすれば、答えは簡単だ。この者を計画の一部にしようと」
(さらりと権力者脳な事を仰る)
「龍を見た者が、目の前にいる。更には目的も一緒だ。こんな好機を追加する他ないだろう」
(龍を見た。言ったな。うん、言った。咄嗟に… でも、まさか本当に、存在なんかしないわよね? あの噂は迷信だし、いくら螺聖殿にある書物達があんなにも… )
そう思いながら、翠蘭の首は段々と下へと折れていく。
(言えない… 言えやしないよ。あれが真っ赤な嘘だったなんて… )
「そして… まさかあの翠蘭だと聞いた時には、心の臓が飛び出るかとも思った。嬉しくて… たまらなかった」
「あ、はい…… ん? 嬉し… たまら… ?」
翠蘭は少しばかり入って来たその言葉を、受け流す事にした。
「そ、そういえば今は何故、そのような格好を? 昼間ですよ? 聖華会の間は、皇帝としているんじゃ… 」
「まぁ癖だな。楽さには勝てん。しかし、そろそろ朝の会合が始まる時間だ。はぁ… 着替える準備をしないとな」
ルオは渋々そう言いながら、翠蘭の方を再度向いた。
「その前に見せてもらおうか」
「ん?」
「あのまじないだ。既に腹は満たされたであろう? さぁ… 」
待ち切れないかのような表情で、ルオは少しばかり翠蘭へと顔を寄せた。
(そうだったそうだった)
そう思いながら、首から自身の紐を外す。
その首紐を十年は付けているが、手入れを怠らずに大切にしてきた。
とても綺麗な状態だ。
これだけは汚せない。
そう思っていたからだ。
(一度、悪女達から守る為に口に入れた事もあったっけ?)
そう思いながらも、ルオの方へと体を向かい合わせにする。
「… ふふ、では僭越ながら… あ、でもこれはルオ様が思うような、特別な事ではございませんよ? あやとりと… そう呼んでおります。言わば手遊びですから… 」
その正直な言葉に、一瞬驚いたようだったが、すぐに笑みを返した。
「そうか… でも… 」
「ん?」
「俺には… 俺にとっては、少なくとも ’まじない’ としての効果は、十分あったのだと… そう思っている」
そのまっすぐな視線は、偽りのない重厚な光を帯びていた。
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