第十四話
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髪の毛でも、洋服でもない、それがルオの目に入る。
見覚えのあるそれは、ルオがまさしく探していたものだった。
首にかかる紐に、手を触れる。
翠蘭も傷ではない何かに、触れられた事に気が付く。
「お前それ… 」
「え? あぁこれですか? これは幼き頃に、王宮のとある庭で出会った男の子にもらっ… 」
その瞬間、腕に鈍い痛みが走った。
ルオが思わず、翠蘭の腕を取っていたのだ。
「覚えてるではないか!」
(び、びっくりした… ん? 覚えてる? えぇ、まぁ前世の時からの記憶は、はっきりとありますが… )
しかし、翠蘭はルオの言葉に身に覚えがなかった。
「ル、ルオ様?」
「では、その紐で何をしたかも覚えているな!?」
「え? あ、はい… あやとりだったような?」
「あや… とり?」
「あ、ええと、その事が一体どう… 」
「お前… 本当に翠蘭なのだよな?」
「はい… 私は正真正銘、生まれも育ちも翠蘭ですが… 」
その腕は一向に放たれる事なく、むしろ強くなっているかのように感じた。
顔を顰める翠蘭に気が付くルオ。
手は離さぬものの、その力を緩めた。
(離してはくれないのか… )
翠蘭はその腕から、ルオの顔へと視線を移した。
その手は滑り落ちると、翠蘭の手を握る。
すぐに視線は戻された。
(ぅぎょっ!? な、なっ… )
翠蘭の心情も気にする事なく、話を進めるルオ。
「はぁ…やっぱり……しかし…もはやここまでとは思わんかった」
(手を摩るんじゃないよぉ!)
ルオは自身の懐に手を入れ、ある物を取り出した。
それは、翠蘭が持っている物と同じ紐だった。
「え? 何故ルオ様がそれを?」
「それだけじゃない。この名もだ。ルオ… この名も… 本当に忘れてしまったというのか?」
「ルオ… 様? ルオ… ル… オ… 」
走馬灯とはこの事か。
この表現が合っていないのは、わかっていた。
記憶が一瞬にして蘇る事に、死に際も何もあるのだろうか?
少しばかり開いていた目と口が、徐々に開いていく。
『私が… いつか… ここからあなたを、出して… 』
「出し… 出しててあげるからっ!」
想像以上に大きくなったその声は、部屋中に響いた。
「ルオ! あなた、あの時のルオなのね!」
そう言いながら、懐かしいその表情と幼少期の顔が重なる。
「あぁ… あぁそうだ。やっと思い出したか。俺はこんなにも探してたと言うのに… でもやっと会えた、翠蘭」
ルオはそう言うと、翠蘭の身体を強く抱きしめた。
事実を知った驚きと、抱きしめられた驚きで心臓が跳ね上がる。
しかし、更に心臓が飛び出る事態に発展するのである。
「あ、あのルオ… あ、ルオ様よね? 身分が… 」
「ルオでいい。いや、違うな。俺の名は… 真の名は、彩楼だ」
「さいろう? さい… ん? えっと、何処かで聞い… え… ? え? え? … えぇー!?」
驚きのあまり、その腕から身を剥がす翠蘭。
「さい、さ、さいろう… って彩楼皇帝!? いぃぃやぁ! う、嘘でしょう!?」
「まだ皇帝に即位はしていない… それに嘘ではない。ルオであり、彩楼だ。俺は翠蘭をずっと探していた」
「へ? それも嘘ですよね? それもこれも嘘よ! 絶対嘘!」
「何故、こうも信じてくれぬのだ」
(もしかしてこの状況ってまずいんじゃ… )
「え? 待って… うーん、ではお聞きしますが、あの齢十七の選定は正妃を探すためと噂されていましたが… 」
「あながち嘘ではない。翠蘭を探すため、俺が命じた」
(そうか… これで合点がいくわ。紐を使ったまじないをさせられたって、そういう事だったのか。にしても… まじない?)
「では、脱走したいと申されたのは… 」
「それも本当だ」
(本当なのか!)
翠蘭の肌触りの悪い汗は、段々と首筋を伝っていく。
「つ、つまりこういう事ですか? ルオ様は彩楼皇帝で、彩楼皇帝はこの黒聖国から逃げ出したいと?」
こくりと真っ直ぐに下りる首に、顔を顰める翠蘭。
「そして… 私が幼き頃に、逃してあげると… そう言ったあの… 少年のルオ… なのですか?」
同じ動作がそのまま目に入る。
「そういうことだ」
(やっぱり… やっぱりだ… まずいぞ、非常にまずい。聞いては絶対ダメな事を、今… 目の当たりにしている気がする。巻き込まれている気がする!)
顔が徐々に青ざめていく翠蘭。
(ここは… 彼を説得するか? いや、私が脱走計画を企てているのがバレてしまった以上、逆に難しいのではないかしら… でも… これじゃあ… )
その思考は夢として、瞼が閉ざされていった。
「翠蘭? … 翠蘭? … ふぅ… おい、翠蘭を黒聖殿へと運んでやれ」
その言葉に、どこからともなく体の大きな男が現れた
翠蘭を軽々しく抱えると、その者は翠蘭に目をやる。
(白目を剥いているな… )
思考の許容量を超えてしまった翠蘭の脳は、停止する事を選んだ。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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