第十三話
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こうして、謎の青年ルオに脱走計画を見破られた翠蘭。
しかし意外な事にも、彼はそれを咎めようとはしなかった。
それよりも、翠蘭が例の齢十七の選定に参加しなかったことの方に、突っかかって来ていた。
更には、その計画に賛同するかのようにしてくる気配もさえある。
そして、翠蘭はその頭では理解が追いつかないまま、王宮の最奥にある螺聖殿へと、連れて行かれる事となった。
そこで黒龍の伝承や、資料などの存在を目にする事となったのである。
扉の前に立っていた年配の従者が、茶を二人に差し出した。
(私達の他に、この人しかいないのかしら? それにしても、今何時?)
翠蘭はソワソワと気にし始めたが、青年ルオの質問は続いていた。
温かい茶をひとすすりすると、ルオは穏やかな笑みで尋ねる。
「ところで、翠蘭は主に何処で職に就いているんだ?」
翠蘭は、齢十七の集いに嘘をついて参加しなかったことが、先程バレたばかりだった。
それに対し、これからは萎縮しながらも、正直に答えていく事にした。
(これからは正直に生きます)
「はい… 以前は紫那宮で、掃除などの下働きをしておりました。最近では医務室にて、睦雀医務官のもと、お手伝いをさせて頂いております。でも… それも人手が足りない、この聖華会の時のみかと思われますが… 」
翠蘭自身の言葉に、一気に現実に引き戻された気がした。
「ん? 睦雀… 医務官だと?」
そう言いながら、扉の向こうの方へと一瞬だけ目をやるルオ。
「そうか… 」
(睦雀には無理か… いや、そういえば他の医官からは報告が上がっていたな。宮女に長らく仕えている者がいると。仕事にも熱心で、その特殊な環境にも屈しないと… )
「まぁできれば、今後もずっと… 末長くずーっと医務室だけに、入り浸りたいのですが… はぁ… そうもいかないのかなと… 」
更に、肩を落とすようなため息を放つ翠蘭に、ルオは尋ねた。
「何故だ? 医務室なら、人手も足りていないだろう? それに、あの場所を好んで働くような者、睦雀医務官以外、そうそういないと思うが?」
「うーん、それがですね… 私を離したくても、離したくないモノがいるのですよ」
「ぅぶっ… !? ど、どういうことだ!? それはどこの所属のどんなっ… 」
ルオは思わず、口に含んだ茶を拭き出しそうになる。
(あまり見せたくないけど… )
そう思いながらも、後ろに束ねた髪を少しだけ掻き分け、右に流す。
うなじから見えるそれを見た瞬間、ルオは驚きのあまりに口を抑えた。
「これは…… なんて酷い…… とても痛かったろう?」
悲しげにそう言いながら、触れる事を躊躇うルオ。
その跡は、すぐさま長い髪で隠された。
「翠蘭… その… すまなかったな」
「え?」
(ん? 何故、ルオ様が謝るのかしら?)
「もう行かなくていい。紫那宮なんぞに二度と戻らなくていいよう… 口添えしておく… 」
「あ、いや… でも… 」
翠蘭の言葉を遮るように、手で制止する。
「いいんだ、何も言うな。今後も医務室にのみ、赴ければいいようにしておく。こんな酷い事をする奴らの側になど、いる必要はない。それに… 俺が嫌だ」
(ん… ? 俺が? まぁよくわからないけど… 何となく見えてきたわ。きっと、勘違いを… してくれたのね)
実のところ、数年前から既に翠蘭へのいじめは、なくなっていたのだ。
燈鸞からの指導のもと、武をモノにし始めた頃に少し脅してやろうと、構えを見せた事があった。
手は出していないものの、その圧と気だけで、見事に怯んでくれたのだ。
今や武を極めた翠蘭に楯突く者など、紫那宮には誰一人としていなかった。
では何故、翠蘭はあんなにも紫那宮自体に戻るのを、嫌がっているのか。
そのうなじについた跡の原因は、一体何なのか。
それは全て、翠蘭自身にあったのだ。
そう… つい先程、正直に答えると、心の中で誓ったはずのあの言葉。
ものの数刻で破る事となる。
つまり嘘である。
紫那宮には、ただ単に戻りたくないだけ。
今の医務室の居心地が良いという、単純たる理由なのだ。
そして、うなじの跡だ。
薄暗いその地下室にて、一瞬見ただけでは、彼には ’アザ’ に見えたであろう。
殴られたかのようなアザに。
しかし、厳密には火傷のような跡だった。
不思議なことに、翠蘭自身いつ火傷にあったのかは、全く記憶がなかったのである。
もしかしたら生まれつきなのか。
そう思うこともあった。
しかし、嘘だらけのこの世界では、何が役に立つのかわからない。
ならば、使える物は使おうと、翠蘭は幼き頃から思っていた。
そして、今回は見事なまでに、騙す事に成功したのだ。
それも、絶対騙してはいけない相手に。
(勝手に勘違いしたんだから、騙したうちには入らないわよね? ね? それに… 私、何も言ってないし。うんうん)
と、そう思う事にした。
そして、ルオはそのアザにばかり、目がいっていた。
その首元にかけられたそれを、見逃していたのだ。
しかし、もう一度見たいと口にされた事で、再び髪を掻き分ける翠蘭。
デリケートな部分であることから、拒否する事ももちろんできた。
しかし、そんな事はしない。
この跡をしかと目に焼き付けてもらおうと、彼の慈悲を期待したのだ。
それがいけなかったのかもしれない。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
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