第十一話
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螺聖殿。
そこは、王宮の中の最奥、そして深く暗い場所にあった。
仕える者達からは、密かに何でも小屋と言われており、不要な物を筆頭に、下級の者の死体などを置く安置所であるという噂が流れていた。
そのため、誰も近寄りたがらない。
しかしどれも噂であり、実際に関わった者の声は、聞いた事はなかった。
他にも、龍が眠っているとも言われているが、実際にそのような目撃情報もなければ、文献もないのだという。
名だけの宮殿だ。
それがまさか青年ルオの口から、黒龍の住処だと聞かされた時には、度肝を抜かれた。
(あぁ… 今更嘘でしたなんて言えないよ… 昼間ならまだしも、こんな夜中に足を踏み入れる事になるとは… それにしてもこの人は何故、そんな事を知っているのかしら? しかも本気だし… )
翠蘭はそう思いながら、震える足を恐る恐る前に出した。
前に歩くルオは、何の恐れもなく、淡々と前に進む。
中に入ると、螺旋状に織り成す石造りの階段が、地下深くへと繋がっていた。
誰が点けたのか。
常に点いているのか。
中には所々、蝋燭が灯っていた。
ふと、脇道に続く廊下に目をやる。
その方向には蝋燭は灯っていなく、とんでもなく暗いのがわかる。
じめりとした冷たい空気が、翠蘭の頬を掠る。
背筋が凍りついた。
視線を戻し彼へと集中する事にしようと思いながら、翠蘭は声を振り絞った。
「あ、あの… 勝手に入ったりして、大丈夫なのでしょうか?」
「心配ない」
(え!? 何がどう心配ないのか説明して!)
翠蘭は心で叫んだ。
そして、更に進むと空気の通りが変わった事に気が付いた。
深く下へと下る空間。
まるで穴が開いているかのようだった。
その中心には、階段が巻き付くかの如く続いていた。
「あの螺旋階段は、龍達の登り通路だ」
ルオの言葉に疑問が湧く。
「え? 今… 龍 ’達’ と… そう仰いました?」
「あぁ。龍は一頭とは限らないからな」
(一頭すら、いるかもわからないのに?)
そう思いながら、その大きく闇へと続きそうな螺旋階段を覗き込む。
(まさか、この階段を降りたりしないわよね? あぁ、何だが思考が麻痺してきたわ… まるで本当に龍がいるかのように、錯覚してしまうほど… )
しかし、そんなはずはないのはわかっていた。
何度も確認するが、昨夜翠蘭が目撃したという龍は、真っ赤な嘘なのだから。
「螺聖殿。これがこの宮殿の由来だ。では、この国の名の由来を知っているか?」
突然のクイズに、翠蘭は即答した。
「知らないです」
翠蘭は濁ることなく、はっきりとそう言った。
「黒聖国。黒き聖なる者が住まう国。そしてそれが黒龍だ」
(へぇ)
言葉には出来ないので、心の中でそう思う事にした。
「あの… つかぬ事をお聞きしますが… 」
「なんだ?」
「この宮殿は、屍などの… 不審なモノを置く場所… と言われているのをご存知でしょうか? 少なくとも宮女や官吏などの間では、そう言われておりますので… しかし、ルオ様のお話を聞く限り、そのような感じもしませんし… そのようなモノも見当たらないように思えます」
翠蘭が恐る恐るそう尋ねるのを聞いて、ふっと笑みを浮かべるルオ。
「なるほど… 見事なまでに、上手くいっているな」
「ん? えぇと… それはどういう事でしょうか?」
「お前の見ている光景が真実だ」
翠蘭は首を傾げる。
「ここには、国の限られた者しか、立ち入る事が許されていない」
(それも私達は、含まれないでしょうに… )
「この螺聖殿では、時に祭事などが執り行われる」
「今回の聖華会にも、使用されるという事ですか?」
「いや、此度の出番はない。他の国の者に、ここを見られるのは、あまり歓迎しないからな」
「黒龍の存在を… 悪用されたら困るからですか?」
「… それもそうだが、真意は違う。俺の願いが叶わなくなるからな」
(それも悪用と言うんじゃないでしょうか)
「ん? でもあの噂は?」
「もちろん出まかせだ」
「なんだか… 嬉しそうに見えますけど?」
「そのために、流したようなもんだからな」
「え… もしかして、あの噂を流したのって… 」
「ふふ… 悪い噂を流せば、近づこうと普通は思わないだろう? そう、あれは何びともこの螺聖殿へと、近づけさせないようにするためだ」
(私だって、興味本位で近づいたわけではないのだけれど… )
そう思いながら、翠蘭は螺旋階段の側方へと目をやった。
すると、その場所には小さな扉が目に入ったのだ。
扉のすぐ側に、誰かが立っている。
それを見た翠蘭は驚きのあまりに、体がびくついてしまい、思わずルオへとぶつかってしまった。
「案ずるな」
ルオは微かな笑みを浮かべ、扉の方へと足を進めた。
大きな布を頭から被ったその者は、ルオに向かって腰を屈め、頭を下げた。
(ご老人かしら?)
顔は見えないが、その者が年配だという事だけはわかった。
翠蘭は、軽くその者に頭を下げた。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
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