第一話
たくさんの作品から見て下さり、ありがとうございます!
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人生一と言っていい程ではないだろうか。
いや、人生は一度終わっているからそれは違う。
ならば、記憶一か?
自身の身長ほど、高く積み重なっている汚れ物達。
これを今から、洗濯場に運ばなければならなかった。
それなのにも関わらず、またあの女共が飽きもせずに、幼き少女の前にやってきた。
その重い洗濯物の籠を持ち上げ、前の見えない通路をよろりよろりと歩く。
それを見計らったかのように、宮女達はその足をかけた。
思惑通り、その洗濯物達は宙を舞い、少女ごと転げ落ちる。
その体は痛々しくも、壁へとぶつかり、鈍い声が漏れた。
「ゔ… 」
(いったぁ… この前ぶつけた所にピンポイントなんて… )
しかし、少女は泣いたり、喚いたりはしなかった。
その反応を見るのが、彼女達の娯楽に繋がるとわかっていたからだ。
「ちっ… つまらないわね」
そう言って、早々に次のターゲットを探しに行った。
「根性なしめ」
そう言いながら、その後ろ姿に中指を立てる。
(良い子は、真似しちゃダメですよ)
そして、何事もなかったかのように、洗濯物を拾い始める少女。
ぶち撒かれたそれらが、洗濯前だった事を、幸いであるとそう思う事にした。
少女の名は、翠蘭。
経験上、推定年齢七歳。
前世の職業、大都会中心部のオフィスレディ。
車のヘッドライトの記憶を最後に、今に至る。
現在この世界、この時間にて、黒聖国の王宮内で働く宮女であった。
(多分、車に轢かれて死んだんだな)
この名は誰が付けたのか?
どうやってここに来たのか。
その辺の記憶はなかった。
気が付いたら、ここにいた。
しかし、その事にあっさりと受け入れていた翠蘭。
何故なら、前世でも特にいい思い出はなかったのだから。
ならば、また一から人生やり直してもいいだろう。
そう思っていたのだ。
(不本意な再出発だけど… それにしても、前世にもあぁいう陰湿な奴いたな… 何処にでもいるんだな。まぁあの時はまだ、社会的に法律とかあったから、ここまで酷くはなかったけど… )
そう思いながら、やっとの思いで洗濯場に辿り着いた翠蘭は、せっせと職務を果たした。
(果たしてこれを ’仕事’ と呼んでいいのだろうか?)
翠蘭は多くの疑問を頭にふっかけながらも、今の状況しか選択肢がないことを重く受け止めていた。
衣食住は確かに、確立されている。
ならば、時が来るまで待てばいい。
そう思いながら、この暗黒な日々を乗り越えていた。
しかし、その脳だけは活発に動いていた。
体は子供だが、思考は大人のままだ。
子供らしからぬ言動と行動、そして思考を糧にしようと決めていた。
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汚れ物を洗い終わった時には、既に正午を過ぎていた。
(まずい! 食堂が閉まーる!)
そう思いながら、一心不乱に走った。
今では、目の前の光景にありがたみを感じることが出来る。
その器に乗った食事達を。
「今日は随分と遅かったね? いや、逆に良かったのかも… ふふ、たくさん食べな」
その言葉に首を傾げた翠蘭であったが、その答えは最後の盛られた器にあった。
いつも以上に盛られた穀物。
前世でいう、ご飯だ。
しかし、この世界では白米は超貴重であり、高貴なお方しか口にできない。
その盛られたお椀の中身は、粟や稗、芋などを混ぜ込んだ物であった。
それでも、今の翠蘭にとっては十分であり、健康食品には変わりない。
「今日は、意外と残ってしまったからね。おまけだよ」
そう言うと、配給係の宮女が片目を軽く瞑った。
(女神のウィンク… )
翠蘭は勝手に、そう名付けていた。
そのありがたいウィンク付きの昼食を頬張りながら、黙々と考える。
言葉にしないだけ、ましである。
(この歳の子供って普通、こんな重労働しないよね?)
前世の世界ならば、翠蘭ほどの年齢の子供のならば、学校へ行ったり、遊んだりとしている。
それに比べ、現在、この世界では奴隷並みに働かせれていると感じるほどであった。
(この国は… いや、世界はどうなってるの? モラルってもんがないのかしら? これ以上、か弱い体に鞭なんて打ったら、それこそ死んじゃうわ。… いや、死ぬ前に、お偉いさんに絶対、ひと言言ってからじゃないとっ)
そう思いながら、大きな怒りと悔しさから出る。
ちいとばかしの涙を拭った。
誰にもわからないように、拭った。
弱音を吐かないのは、彼女達いじめっ子の前だけだ。
翠蘭だって、前世の記憶は十分にいい大人だったが、その前に一人の人間だ。
それに今は、小さな女の子。
夜な夜な泣きじゃくったりもするし、悪態だってつく。
もちろん一人で。
そして、小さな野望を大きく掲げている事に、誰も気が付いてはいなかった。
そうやって、毎日苦痛な下働きを黙々淡々とこなしていった。
他に当てがないのはもちろんのこと、友達もいない。
たまに癒しになるのは、食堂のおばちゃんくらいだ。
しかし、こんな自分と仲良くなったら、迷惑がかかるかもしれない。
それこそ奴らでなくとも、誰かしらがいつ何時見ているかもわからない。
翠蘭の経験上、いじめとはそういうものだった。
だからこそ、人と距離を置くようになっていた。
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そんなある日、洗濯を早朝に終えた翠蘭は、深く北の宮の方へと足を進めていた。
翠蘭は無意識に歩いていた。
その瞳いっぱいに溜めた涙を、誰にも見られたくはなかったからだ。
今朝は特に酷かった。
朝起きると、翠蘭の靴がなくなっていたのだ。
なくなるだけならまだしも、そのボロボロになった靴を目にした時には体から力が抜けた。
わざと見つかる所に置いてあったのだ。
(昨晩… 足の手当てをして… それから、靴を脱いだまま、寝てしまったのがいけなかったわ… )
いつもなら、警戒し靴を履いたまま寝ていた。
しかし昨晩は、油断したのだ。
裸足で歩く翠蘭は靴を配給してもらうがための、言い訳を考えていた。
そう思いながら、少しの現実逃避を図った。
まだ陽が昇る前だ。
薄暗い宮内を静かに歩く。
(傷口が開きそう… )
すると、ある垣根を見つけた。
(こんな所に… 隙間があるわ)
翠蘭は、その小さな体が、ぎりぎりに通る事を利用した。
「綺麗… 」
いつもは感情を口にしないように気を付けていた翠蘭であったが、さすがの美しさに心が洗われてしまっていた。
まるでそこは、小さな箱庭のようであった。
端っこに、さほど大きくはない水の溜まりがある。
池といえば池なのか。
それを示すには、いささか小さい気もするが、ここは溜池と呼んでおく。
まだ陽が上がってないのにも関わらず、キラキラと水面が揺れていた。
身も心もボロボロな翠蘭には、その光景が身体中に染み渡って仕方がなかった。
そのおかげかそのせいか。
涙が溢れて止まらない。
泣きじゃくる翠蘭は、身体中の悪なき水分を搾り出した。
とにかく抑えたい声。
それでも漏れる泣き声。
翠蘭以外、誰もいない。
今だけは自由な気がした。
思うがままに、感情を露わにする事ができたのだ。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
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