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実話怪談

【実話怪談】白いお母さん

作者: 七宝

 先日、町内のある家族が夜逃げした。我が家の4つ右隣の家だった。近所のおば様の話によると子どもが4人いたのだが、全員おかしくなってしまったらしいのだ。


 おかしくなったとはどういうことかと聞いてみても、なんともフワフワしたよく分からないことを話すだけで、どうおかしくなったかの説明がされることはなかった。


 近所のおばさんというのは「人の家のことを面白おかしく言いたい病」を患っていることが多いので、恐らく彼女の言っていることも適当な作り話だろう。


 ただ、あの家がおかしいのは事実だ。ここ20年で8家族入れ替わっているし、そのほとんどが今回のように一夜のうちに居なくなっている。


 以前、町内の役員の仕事を手伝った時にその家に行ったことがあったのだが、インターホンをどれだけ押しても反応がなく、壊れているのかと思いドアを叩いてみると中から金髪の男女が出てきた。


「インターホン壊れてますよ」と伝えたところ、夜中に鳴るのだそうで、切ってしまったとのことだった。


 マジ? と思った。


 その時はハンコを貰っただけで特にそれ以外の会話もなく終わり、それからは結局1度も会うことはなく、しばらくして今回の夜逃げとなった。


 ただ、よく考えるとこの地域には「狂気の怪人・ムツコ」や「妖怪犬濡らし」がいるため、夜中にインターホンが鳴るくらいでは怪談にはなりえない。まあムツコも犬濡らしも怪談といえば怪談なのだが。


 ムツコ(常時デスボイス)は私の家の隣に住んでいて、人の家の庭に侵入して壁を殴って凹ませたり、ゴミ捨て場のゴミ袋を勝手に開けて中を見たり、裏の畑に酸化した油を捨てたりする奴で、妖怪犬濡らしは何時に家を出て何時に家に帰ってきても必ず私の家の前で犬の散歩をしているという妖怪だった。

 私が仕事の都合で朝4時に家を出た時も犬を連れて歩いていたし、大雨の日は傘もささずに犬を濡らして歩いていた。

 そんな奴らが住んでいるのだ、20年で8家族変わってもさほど驚くことではない。


 とはいえ妙ではある。私の知る限りでは、あそこの家以外は誰も変わっていないからだ。ムツコも犬濡らしも私の家の隣と斜め後ろなので、その家とは少し離れている。にもかかわらずその両隣の家を通り越して、あの家だけ出入りが激しくなっている。おかしい。




 ほどなくして新しい家族が入ってきた。

 挨拶回りはなかったが、近所のなんでも知っているおばさんが教えてくれたのだ。

 夫婦2人と子どもが1人、そして犬が1匹いるそうだ。


 毎度思うことだが、なぜこんなに人が入ってくるのだろうか。確かに住みやすい土地ではあるが、そんなに空き家の順番待ちをしている家族が多いのだろうか。




 入ってきてから1ヶ月も経たないうちに、そこの旦那さんが亡くなった。救急車が近くまで来ていたので何事かと思ったが、まさかあの家だったとは。


 旦那さんは39歳だった。回覧板に書いてあった。なんでも知っているおばさんの話によると、子どもは小学1年生だそうだ。顔も知らない家族だが、気の毒である。


 ある日、家の前をランドセルを背負った知らない小さな女の子が歩いていた。ふとこちらを見て、目が合ったと思った瞬間、向こうから「こんにちは!!!」と元気な挨拶が飛んできた。

 挨拶を返しながら「もしかして、あの家の子か?」と考えていた。この辺りの人間はだいたい知っているので、私が知らない子でここを通るのはその子くらいしかいないと思ったのだ。


 聞いてみたところ、ビンゴだった。と同時に少し驚いた。まだ父親をなくしてから2週間も経っていないのに、こんなに元気なものなのかと。まだ「死」についてよく分かっていない歳頃なのだろうか。いつか分かる日が来るのだろうなと思うと悲しくなった。


 長く引き留めるのも悪い(というか話すこともない)ので、「寂しいと思うけど、ガンバ!」みたいなことを言って別れようとした時、その子が不思議なことを言った。


 ママが2人いるから大丈夫だよ。


 夫婦2人と子1人と聞いていたのだが、もしかしたら複雑な事情があるのか?

 悪いとは思いながらも、興味が勝ってしまったのでどういうことか聞いてみたところ、なんでも本物のお母さんとは別に、引っ越してきてから白いお母さんが増えたのだという。


 ファーーーーーwwwww


 失礼。

 話を聞く限り100%幽霊なのだが、私は幽霊など絶対にいないと確信していたので、ついその場で笑ってしまった。


「白いって、どういうこと? 小梅太夫みたいな?」


 頭の中で踊る小梅太夫。笑いをこらえる私。


「こうめだゆう⋯⋯? 分かんないけど、いつも白い服着てるの」


「なるほどなるほど」


 最近の子は小梅太夫知らないのね。万代家具の宣伝とかしてるけど。


 ていうかさ、白い服だから白いお母さんってことは、うちの母親はいつもピンクの服着てるからピンクのおばさんってこと?


「ずっといるの?」


「たまにいる。いつもビショビショの服着てるの」


「ビショビショって、触ったことあるの?」


「あるよ」


 触ったことあるなら幽霊じゃないな。ただビショビショの白い服着てるだけの普通の人か⋯⋯

 いや、普通脱ぐよな。室内でビショビショの服着続けないよな。


「お母さんは知ってるの? その人のこと」


「ううん、見えてないと思う。いつもN(その女の子の名前)とだけ喋るの」


 幽霊じゃん。


「お兄さんにも見えるかな?」(自分でお兄さんって言っててごめんなさい。でもまだおじさんではないんだ。絶対に)


「見に来る?」


「えっ、いいの?」


「いいよ」


 あまりの急展開に緊張が爆発した。

 今から私は幽霊を見るかもしれない。


 昔から幽霊を信じることなく生きてきたが、それでも暗闇は怖かった。霊が出るという家に行くのも同じくらい怖かった。


 インターホンを押してみるも、音が鳴らない。前のままなのだろうか。


 その間にNちゃんは玄関を開けてスタスタ入っていった。


 外に1人取り残された私。


 入っていいの? また戻ってきてくれるの?


 そんなことを考えていると、中から女性の怒鳴り声が聞こえた。汚いからダメ! みたいなことを言っていたので傷ついたが、よく考えたら私が汚いのではなく、普通に家が散らかっているという意味だと思うので、何傷ついてたんだ私はと思った。


 しばらくして、お母さんが出てきた。


「なんか女の人が見えるってうるさくて、お兄さんなら見えるって聞かなくて⋯⋯」


「こんにちは」


「あっ、こんにちはぁ」


 なんというか、こんなやり取りまで書いて嫌な人間だなと思われていると思うが、改変したり省略したりするとそれはそれで面倒くさそうなので引き続きありのままをお伝えするぜ。


 家に入ると、ミントと麦茶が合体したような匂いがした。私は嗅覚がやたら利くのでいろんな匂いを嗅ぎ分けることが出来るのだが、この家の匂いはけっこう嫌い寄りだった。


 中は普通の家屋で、「これで散らかってるんだったらうちなんてもう爆発してるじゃん」と思うほど超普通だった。


 幽霊についてだが、Nちゃんによると「今はいない、けど気配はする」とのことだった。


 私は昔から「気配」というのがいまいち分からない。視線も分からない。「あの人のことずっと見てみて、そのうち振り向くから」と言われて試したこともあったが、全然振り向かなかった。


 この時点で私はNちゃんを疑い始めた。よくテレビなんかで「宇宙人と何回も会っていて、いつでも会える」と豪語する人がいるが、いざ本番となると全く出てこなかったり、遠くの方に一瞬だけ何かが光ったのをUFOだということにしたり、「いつでも会える」が証明されたのを見たことがない。それと同じ臭いがし始めたのだ。


 また、イマジナリーフレンドという可能性もあるため、あまり深くは聞かないことにした。


 麦茶とお菓子をいただいて少しだけ話して、家を出た。麦茶は独特な味がした。麦茶のパックなんてだいたいどこの家も同じのを使っている気がするのに、なぜこんなに家ごとに違うのだろうか。


 その家から私の家まで、ほんの数秒の距離の中で妖怪犬濡らしと出会った。なぜか分からないが、本当に毎回会うのだ。寄り道をして帰ってきた時も必ず会うので、どこかにセンサーがあるのかもしれないと本気で思っている。


「Z田さんの家行ってきたの?」


「こんにちは」


「あ、挨拶忘れてたわね、こんにちは」


 なんでみんな挨拶の前に言いたいこと言うんだろ。


「行ってきましたよ。こないだネギありがとうございました」


「美味しかった?」


「美味しかったにゃ」


 先日、ネギにしては小さすぎるネギを貰ったのだが、味は普通にネギで美味しかった。


「それにしても珍しいね、○○ちゃん(私の名前)がZ田さんの家に行くなんて」


 私が赤ちゃんの頃からの付き合いなので、当然私の名前を知っている。


「あそこの子が家におばけが出るって言うんでちょっと見てきたんですけど、なんもいませんでした」


「え、やっぱり出るんだ」


「いや、いなかったって言ったんですけど」


「いやね、あそこの家、本当に出るらしいのよ」


 またか。

 こう言っちゃ悪いが、そういうのを本気で信じている人はちょっとどこかおかしいんじゃないかと思っている。あの子はまだ小さいからいいけど、この人はもう85歳なんだから。


「へーへー」


 適当に相槌を打ちながら頷く私。


「あそこって賃貸らしいじゃない」


「えっ、そうなんですか!?」


 普通に一軒家だと思っていたので少し驚いた。まあ、だからと言って特に何もないのだが。


「それでね、私も聞いた話なんだけどね、昔あそこに住んでたお嫁さんが、何があったのかおかしくなっちゃって、川に飛び込んで死んじゃったらしいのよね。だからその幽霊と関係あったりして、なんて」


 さすがにドキッとした。


「その幽霊、ビショビショの服着てる女の人らしいんですけど⋯⋯」


「えっ⋯⋯」


 2人で青ざめていると、おばさんの犬が足に噛み付いてきた。


 おばさんが「これ! これ!」と叱りながら引っ張ったことで離れたが、めちゃくちゃ痛かったのですぐにお別れして家に帰った。


 それから数ヶ月経つが、Nちゃんたちはまだあの家に住んでいる。


 みんなで話を合わせて私にドッキリを仕掛けてた説を提唱します。

 それか、おばさんの話をどこかで聞いたNちゃんが思い込みのせいで幽霊を見るようになったとか。


 とにかく幽霊はいません! いちゃいけません! 怖いから!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 登場人物が全員怖い [一言] 僕も幽霊いない派だったのですが、幽霊が出ると評判のホテルで深夜、テレビが勝手についたり消えたりするのを見て、幽霊いる派に趣旨替えしました。 共におびえながら…
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